4.0
万人にオススメできる大回顧展
本展では各作品のキャプションに制作年と共に当時の年齢が併記され、その画業と生涯が併せて辿れるようになっています。このことが、明治・大正・昭和という時代背景を意識しながら作品を鑑賞するうえで、大いに役立ちました。
「安田靭彦」というと、個人的にはまず戦後の代表作の数々が思い浮びます。そこからイメージされるのは、極めて高い技量に支えられた繊細な美しい線、気品と安定感に満ちた画面構成、洗練の極みとも言うべき淡い画風、・・・といった感じでしょうか。
本展では、そうした印象に加え、私にとって幾つかの<発見>と<驚き>がありました。
順路に沿って見ていき、まず最初に驚かされたのは、画家が十代半ばにして既に高度なテクニックを身につけた“早熟の才”であったこと。
次に、我ながら意外だったのは、本展で私が気に入った作品が、画家の三十代前後から五十代半ばまでのものに集中していたことです。もちろん戦後の円熟期に発表された名作も眼に心地よいのですが、余分な描き込みを極力排して色数も控えめな明治末期~戦前期の作品を今回初めて見て、そのシンプルなスタイルにすっかり魅了されました。
さらに、『花づと』『大観先生像』『山本五十六元帥像』といった人物画、あるいは最晩年の「富士朝暾」など、歴史以外のものに題材をとった作品からは、いつもの「歴史画の大家」とは別の“表情”が垣間見え、とても新鮮に感じられました。
とにかく年齢性別を問わず誰にもオススメできる内容。ぜひぜひ近代美術館へ!