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没後50年 香月泰男のシベリア・シリーズ

没後50年 香月泰男のシベリア・シリーズ

山口県立美術館|山口県

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2024 山口の夏 シベリアの夏

香月泰男の生誕後あるいは没後のキリ番の年にはほぼ開催されるシベリアシリーズ展。
今年は没後50年かつ山口県立美術館開館45周年ということでの記念開催だ。
山口県美でのこれまでの同展にはこの30年間はかかさず行っている。
AAにレビュー書き始めてからは初めてなのでシベリアシリーズをまだ見ぬかたに向けてきちんと詳しく書きたいとこだが、香月への思いはあり余り過ぎてどうもうまく書けない。
それは単に私が香月推しだからではない。シベリア抑留という言語を絶する彼の体験と、私の父の抑留がダブるからだ。

父がいた収容所はハバロフスクで香月とは異なるが、過酷な環境と労働は香月と同様だったのだろう。
運よく故郷の山口県に帰国できたのも香月と全く同じだったが、抑留体験については多くを語らなかった。
そんな父が香月没後にほどなくして発行されたシベリア画集を、何も告げずに私の本棚に置いていた。
そしてその表紙裏に贈呈文のようなものを書いていて、それは「父のいたシベリアがこの画集にある。覚えておいてほしい。」というようなものだった。
半世紀も前、美術には全然興味のなかった高校生時代のことだ。画集は実家にあったのだが、妹が持ち去ったらしくそれ以来私は見ていない。

それから進学、就職、結婚と時は流れ、女房の影響でいろんな美術展にも行くようになった。
地元の山口県立美術館にはこれまで最も多く訪問し、香月作品も目にしてきた。
当然節目の年に必ず開催されるシベリアシリーズ展にも足を運んだ。それはとにかく暗くて重々しい一連の油絵群だ。
黒がほとんどで他の色などないに等しい。さらにそのマチエールがまるで真っ黒なモルタルを塗りたくったようで、何か見てはならないもの、隠したいものをキャンバス上に封じ込めたかに思えるのだ。

シベリアシリーズには、香月の言葉が添えられている。
作家が自作の解説を作品に添付するのは邪道だが本シリーズに限ってはそれが不可欠だみたいなことを香月自身が語っている。
たしかにそうだ。今回の展覧会でも全57点すべてに香月の言葉がキャプションとしてあり、それは絵と同様に重く心に響く。
引用してのレビューも考えたが、やはり絵と一体のものだからここには書かない。絵を見、言葉を読み、シベリアシリーズとは何なのかを考えてみてほしい。

シベリアシリーズ各作品制作年は香月の抑留体験の時系列に沿ってはいないが、今回展の展示順序は、招集~満州での兵役~終戦・捕虜~シベリア抑留~帰国と、時系列に沿ったものでわかりやすい。
展示室は照明を落とし、黒いパネルに作品が掛けられライトが当てられる最高の鑑賞環境だ。
全作品にガラス板はなく、「シベリア様式」のマチエールはパーフェクトにわかる。
これまでのシベリアシリーズ展史上、最高の展示だと断言できる。

2021年~2022年に東日本を巡回した香月泰男展にもシベリアシリーズは全点出ていたが、他の優しく温かい香月の「陽」の部分を表す作品も多数あって、シベリアシリーズという「陰」の部分が多少なりとも緩和される構成だった。
シベリアシリーズだけに絞った山口県美の入魂の展覧会は、2024年の夏に山口を訪れるに値する最重要なイベントに相違ない。

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