開館35周年記念 福田美蘭―美術って、なに?
名古屋市美術館|愛知県
開催期間: ~
- VIEW633
- THANKS1
これぞ本歌取り
本歌取り。和歌の技法の一つをどこぞの御仁が美術作品に応用したとして、ちょっとだけ話題になったりしている。
横文字のカッコつけた言い方だと、オマージュ、インスパイア、トリビュートなんてのもあるが、早い話がパクリである。
元ネタがあって、それに細工を加えてこれがわしの作品じゃと堂々と公開するという。
それが成功すれば拍手喝采なのだが、藍より出た青が、より青かったためしはない。
しかし福田美蘭はそれをやってのけている。まさにパクリの極致というか、本歌を超えた作品がここにある。
2021年だったか、千葉市美であった福田展に行きそびれたのが、ここ数年での私の最大の悔恨事だったが、今年名古屋でまたあると知って、この秋のメインエベントととして日程調整に入った。
アートアジェンダのチケットプレゼントにも万難を排して応募したが見事に落選。ま、ハズレてもいつものように自腹で行くことには変わりなし。
会期末ではあったが11月の平日に会場入りを果たした。
結論から言うと、涙と笑いの90分間だった。今年のBEST展はほぼ確定だ。いやはや、この作者は天才だ。
ひと昔前ならパロディとかモジりとかで済ませてたジャンルかもしれないが、そんなのを嘲笑うがごとく次々と繰り出される斬新な視点と発想からの作品の前で、完全に釘付けになってしまった。
各作品は、元ネタを知ってるのもあるし知らないのもある。元ネタは有名な国内外の美術作品もあれば世間を騒がす時事ネタもある。
知ってるに越したことはないが、知らなくても作者自身による解説もちゃんとあるので心配は無用だ。
福田美蘭が俎上に乗せるネタは、美術ファンなら誰もが知ってるものばかりで、それを煮て食うか焼いて食うか調理法も様々だ。
そしてそこには、痛烈な皮肉と、衷心からの愛情が込められている。涙と笑いと書いたのはそういうことだ。
ここでネタバレさせるのも何なんだけど、先代の林家三平がダジャレを発した後に
「これのどこがおもしろいかと言いますと・・・」とやったように私もやっちゃいます(笑)
笑えるのは何と言っても、名画の登場人物の別パターンってやつ。
モデルに疲れて休憩中のモナリザ、種まく人がスナップ利かせて種まいた瞬間、6方向からの見返り美人、見てて思わずニンマリだ。
福田の得意技は名画のシーンを別方向から見る、あるいは視点を広げたり狭めたりすること。
ベラスケスの王女マルガリータ、マネの草上の昼食も福田の手に掛かれば、なるほどこう見えるのねと唸ってしまう。
いちばん笑えたのは、《鑑賞石・山水画》と《閉じた屏風の中の獅子》。
前者はいかにも中国の山水画に出てきそうな石を見つけて、それを拡大したらやっぱり山水画になるじゃん。って証明。
後者の元ネタは蕭白で、蝶に怯える獅子が屏風から逃げ出せないという笑える絵で、福田はさらに一歩踏み込んで屏風を閉じたら蝶がますます接近し獅子はますますパニックになるんじゃないかと絵にした。
泣ける絵もある。
《秋ー悲母観音》は当展で私が一番好きな絵で、元ネタは言わずと知れた狩野芳崖の名作。
これを東日本大震災の津波を背景にして、観音様ならこうするはずだとの思いを絵にしている。
もう一つが、《冬ー供花》で亡き父へのオマージュそしてこれも震災へのレクイエム的な絵でもある。
並んだ二つの絵の前では思わず涙腺が緩んでしまった。
福田は浮世絵をネタにすることも多い。原作からの本歌取りには舌を巻く。
ネガになった神奈川沖浪裏、コラージュにした現代版浅草金龍山。小林清親風の鳥居清長、等々見てて本当に飽きない。
写楽というお題で描いた作品がデロリ画になってたのには驚いた。
大谷鬼次と佐野川市松の二作は、甲斐荘楠音か稲垣仲静かという生々しい歌舞伎役者像だ。
京都市美から来てる《誰が袖図》はこれまで私が唯一見たことのある福田作品で、1年ぶりに再会した。
衣桁に掛けてあるのは・・・あの「夢の国」のキャラクターたちの衣装。こんな発想どこから思いつくんだろ。
会場最後は最新作のロシア・ウクライナものだ。
プーチンのモジリアニ化には大爆笑。いやはやあのアーモンド白目が最も似合うおっさんをよくぞ発見してくださった(笑)
一方で大画面ゼレンスキー肖像画は、現代の虚実はどこにあるかという強烈なメッセージを放つ。
福田美蘭恐るべし。
こういう絵の着想やアイデアだけなら出してくる画家もいるかもしれない。
でもそれを実行に移すにはとてつもない画力が必要で、今まで出て来なかったのはそこまで描ききる実力がなかったからだろう。
福田美蘭にはそれがある。
加えて卓越した美術への知識と洞察力。ここまでの本歌取りは常人にできるものではない。しかもそこには美術への愛がある。
「心に愛がなければ どんなに美しいパクリも相手の胸に響かない」
聖ミランの言葉より
作品の中に東京藝大の看板の前で撮った中学生ぐらいのご本人写真があった。
いかにも賢そうな女子は、その年齢からすでに藝大入りを目指してたのか。あとで略歴見たら確かにそうなっていた。
それより驚いたのは御父上が福田繁雄だったこと。作風は違えどアーティストとしてのDNAはちゃんと受け継いでおられる。
福田美蘭さん(最後になって敬称)。東京藝大はこういう人材を輩出するからすごいよね。
でもこの人、藝大出とはいうものの本当は東京藝能大学という藝大の裏組織「別班」で鍛え抜かれた超人なのではと思うのである。
- THANKS!をクリックしたユーザー
- さいさん