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芥川龍之介と美の世界 二人の先達―夏目漱石、菅 虎雄

芥川龍之介と美の世界 二人の先達―夏目漱石、菅 虎雄

神奈川県立近代美術館 葉山|神奈川県

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文士達の息吹

 展示物が豊富で充実した企画だったが、強行軍だったためゆっくり見て回れなかったのが残念だった。
 まず最初の展示室で、ゴーゴリのテラコッタ像と再会した。友人の宇野浩二に芥川龍之介が送ったもので、昨年の頭、福岡市総合図書館で行われた「まなざしと記憶――宇野浩二の文学風景」で見ることができた像である。芥川の遺作「或阿呆の一生」に登場することで有名だ。福岡で見たときは、本当にゴーゴリを象った像なのか疑問に思った。芥川の文章で、ゲーテがシラーの頭骸骨について詩を作ったエピソードが触れられている(「続澄江堂雑記」)。実はその頭骸骨はシラーのものではなかったのだが、ゲーテの勘違いがなければその一篇の詩は生まれなかったというものだ。よって、ゴーゴリの像も実は別人の像だったら面白いなと妄想したのである。しかし、今回の展示ではゴーゴリ像は小さなガラスケースに入れられ、至近距離から像の360度を観察することができた。近くから見た結果、像の台座にНВ Го́гольという文字を確認できた。よってこの像は正真正銘ゴーゴリであり、私の妄想は否定されたわけである。
 それから、芥川が書簡で褒めていた美術作品が展示してあったのがありがたかった。全集の注釈では文字情報や、白黒の写真でしか紹介されていないが、実物の作品が提示してあるとやはり違う。実際に芥川が褒めた作品が並んでいるのを見ると、油彩が多いなと思った。芥川には西洋からの影響を受けた近代日本画を批判した文章があるが(「西洋画のような日本画」「雑筆」)、西洋のものの見方、描き方は油彩で表現されるのが適切だと考えていたのだろうか。油彩が表現できる光の具合こそが西洋絵画の要だと捉えていたのかもしれない。これは、芥川が後年に主張した、「色彩に生命を託した画」に近い小説(「文芸的な、余りに文芸的な」)と繋がりそうであるが話題が文学に傾きすぎるため割愛する。
 最後に、芥川の作品を元にした芸術作品、これも芥川全集では知ることのできないものである。特に鴨居玲の「蜘蛛の糸」という絵画。「蜘蛛の糸」は仏教の地獄の世界であるが、鴨居の作品は顔の彫りが深い人々が地獄の沼で苦しんでおり、ダンテやミケランジェロなど、西洋の地獄の世界が彷彿とされた。その結果、「蜘蛛の糸」という作品が広いイメージへと開かれていく感じがした。
 以上の内容は展示のほんの一部であり、また美術館の中で隠された文字を探すというイベントも行われていて、大満足な内容の展覧会であったが、冒頭で述べた通り、バタバタ回ってしまったのが残念だった。

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