アーツ・アンド・クラフツとデザイン ―ウィリアム・モリスからフランク・ロイド・ライトまで
久留米市美術館|福岡県
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英国の美しき夏の庭で
数年前、「ウィリアム・モリスと英国の壁紙展」を見逃した。ウィリアム・モリスといえば、今や某100円ショップでも見かける、絡まりあった植物が繰り返されるパターンに小動物があしらわれた、ロマンチックな女性が好むテキスタイルが有名だ。見たいものの好みが似ている夫だが、彼の興味はひきそうにないと思い、予定をしなかったのだ。彼は会期が終了したのを知り、見たかったなともらした。意外。今展覧会を鑑賞する前に「ウィリアム・モリス、クラシカルで美しいパターンとデザイン」という本を読み、モリスがパターンナーである以前に、思想家でありアーツ・アンド・クラフツ運動の活動家であることを知った。今回の展覧会には私の好きなフランク・ロイド・ライトの名も。これは行って見なくては。
当地の夏は暑い。盆地である久留米の暑さは更に。車で1時間ばかり、到着した久留米市美術館の正面は、噴水を中央にシンメトリーに夏咲きのバラがさくフランス式庭園で、その左右を自然に咲く野の花を切り取ったかのように表現されたボーダーガーデンが縁取っていた。夏日に輝く、赤いカンナ、ダリヤ。足元には涼やかなブルーサルビア。高島野十郎の絵を思い出す配置。本館はモネの「睡蓮」のようなヤナギが縁取る池の畔にたっている。もしここが、英国であれば、絵を見る前に庭を鑑賞するべきだ、とモリスや野十郎に諭されたであろう。しかし、暑さには勝てずにそそくさと館内へ笑。
展示のスタートは、壁一面の「トレリス」。モリスと仲間たちが作った理想の家「レッド・ハウス」の薔薇の垣根と、そこに集まる鳥をデザインしたテキスタイルだ。着けていたブローチが同じモチーフだったので、記念撮影を。
木目の美しい、職人が手掛けた椅子、窓にかかるカーテン、クッションや布張りのソファ、机の上の本やインク壺。部屋のしつらえを再現した展示方法は、モリスが提唱した「生活に美を」を理解するには最適だと感じた。しかし、展示作品の保護のために光量を落とした展示室では、重厚なタペストリーや多色刷りの繰り返しパターンの壁紙、カーテンは重苦しく、閉塞感さえ感じてしまう。やはり、英国の広い部屋、軽い日光が入るガラス窓、または彩りの少ない灰色な冬の景色にあってこそのテキスタイルデザインなのかもしれない。
展示品はモリスのテキスタイルから、アーツ・アンド・クラフツに参加、影響をうけた、タイル、ガラス製品、アクセサリーなど多岐にわたり、美しさに目を楽しませる。しかし、展覧会の題に揚がるフランク・ロイド・ライトについては、少ないうえに写真が殆どで、はたしてロイドの名を冠してよいものか疑問が残る。設計した温室の入口のアイアンを床に投影して、四季を連想させるインスタレーションを利用した展示方法が斬新だったぶん残念だ。
しかし、鑑賞への集中力を欠きがちなに、多すぎてくたびれてしまうことなく、少なすぎて不満にならない、程よい快適な美術鑑賞だった。
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