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特別企画展 日本画の棲み家

特別企画展 日本画の棲み家

泉屋博古館東京|東京都

開催期間:

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床の間芸術という会場芸術

我が家にも床の間はあって、いちおう酒井抱一の掛け軸が掛けてある。もちろん印刷だけど。
でもその下方は物置と化しており、なんやかやが放置されて風鎮なんかはまるで見えない。せっかくの立葵紫陽花に蜻蛉図が泣いている。
って、1年中6月のまんまやないかい(笑)。
正月用の鶴の絵とかオールシーズン用の山水図の軸もあるのだが、一度掛けたら替えるのがめんどくさいので、このウン十年間、抱一さん出ずっぱりだ。

そもそも現代の住宅に床の間なんて設けないだろう。
マンション和室や建売り一軒家にあったとしても、そこには掛け軸じゃなくてラッセンとかキース・ヘリングのポスター貼るんじゃない?
だから、今回の泉屋博古館の床の間芸術展に登場する作品見て、床の間か会場かと投げかけられてもピンと来ないかたが多くなかろうか。

それは出展作品見たらわかる。どれもが巨大な床の間作品ばかりだからだ。
事実、泉屋博古館という「会場」でそれらは映えに映えまくってるじゃござんせんか。
私に言わせれば、会場展に出した大作をそのまま床の間にも持ち込めるのが住友家だということ。
だってそうでしょ。だいたい普通の家の床の間に六曲一双の屏風が置けるわけないし、畳一畳はあろうかという横長の掛け軸が収まるわけがない。
これらはどう見ても会場芸術で、どうです床の間芸術はいいでしょと出してこられても馬鹿にされた気になるだけだ。

当展には住友本宅の平面図が出てるので参照されたい。
現在改装休館中の大阪市美の場所、茶臼山にあったその屋敷は、まあものすごい大邸宅で床の間も大から小まで数えるのもいやになるくらいある。
中には御家庭サイズの軸が似合う床の間もあるかもしれないが、たぶんトイレぐらいでは?

当展に出てる軸や屏風、衝立のほとんどは、LやLLサイズばかり。だけど、その分、描いてある絵は素晴らしい。
どれもがド迫力で住友家の床の間ならこれぐらいでなけりゃと画家さんたちも大張り切りだったに違いない。
各作品のレビューは他の絶賛投稿読んでください。その通りですから。
1点だけちょっと面白かったのは竹内栖鳳の《禁城松翠》。皇居のお堀を掃除する船と船頭さんを描いてるが、これはまさに「藻刈り船」(儲かり船)だ。
住友もこういう縁起物描かせて栖鳳もそれに応えてたのがなんだか可笑しい。

後半の現代の床の間アートはいただけない。こんなの住友が買うわけない。
ホームセンターで買ってきたパイプのパーテーションに気色悪いパッチワークまとわせたやつなんてヒドすぎ。
暗闇の中で電飾で浮き上がらせるみたいなのもあって、これらは床の間とインスタレーションを履き違えてるとしかいいようがない。
せっかくのいい企画展がこのコーナーで台無しだ。日本画ばかりじゃなんだから、現代アートのコーナーも作っとくかという安易な発想は願い下げだ。

私が当展で最も好きなのは第4展示室にあった住友家の正月飾り。
小鉑、吹炭、床尻銅の三点で、小鉑とは銅鉱石、吹炭とは還元精錬に用いる木炭、床尻銅とは鉱石から分離した溶銅が炉床で固まったもの。
この三品にしめ縄や松で化粧飾りし三方に乗せて床の間に置く。その背後には、寿老人、月に竹梅、松に旭日の掛け軸を配す。
住友家の屋台骨を支えた別子銅山への感謝の意と、そこで働く人々の安全を願ってのことだろう。なんて素晴らしいことか。
床の間と美術品は不分離な性格を持つのだが、こういう祭祀の役割を果たす調度品がおかれたとき、どんな美術品も敵わないと思うのである。

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