鑑賞レポート一覧

第74回 正倉院展

第74回 正倉院展

奈良国立博物館|奈良県

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妄想、想像が羽ばたき過ぎて止まらない地味派手【第74回 正倉院展】

2022年、旅のメインイベント【正倉院展】訪問しました。
感想掲載大分遅いので気が引けましたが来年降の参考情報で掲載します。
今年で74回目を迎えた【正倉院展】。東大寺近くの正倉院という古美術の保管庫に収納されている約9000点の中から、毎年60件前後が公開される展覧会。
パンフレットを見た限りでは今年はやや地味かな~?と思いましたが、実物見た感想は地味ではありません。これは・・・『地味派手』。
ジワジワと発揮される魅惑のアイテムが多かったです。見た目「ふーん・。・そうなんだ」と大して感動しない(ごめんなさい)ものも、一旦考察すると底の見えない古代世界の深みに沈没しそうになります。妄想が膨らんで止まらない(笑)。
そんな深すぎな展示から異文化伝播の終着点をテーマに独断注目をピックします。

① 全浅香 (香木)in北倉 長さ105.5㎝、重量16.65㎏。
外見は雑木林で転がってそうな普通に大きな丸太です。しかし実は蘭奢待(らんじゃたい)と並ぶ名香で、香木の双璧と謳われているんです。歴史上ではこっちの由緒の方が蘭奢待より古くて光明皇后が東大寺に収めた宝物の納品目録『国家珍宝帳』に記されてます。
別名である雅称は紅塵(こうじん)。なんかこの別名で丸太のカッコよさが跳ね上がりました(笑)。
注目は最近の科学調査でベトナム近郊の山岳地帯産出との結果。遠いですよね。貨物船ないし、どうやって入荷したのか。
この搬入ルート説は海と陸の両方あるのですが、私としては海に1票。陸は東南アジアから一旦中央アジアに運ばれて、そこから山越え谷越えの唐(中国)→日本。
海はペルシャの商人達が貿易船を出して、インド洋→東南アジア→唐(中国)→日本のルートです。
17㎏近い丸太を陸路で大迂回するより楽だしこっちなのではと妄想してしまいます。
以前紹介した【特別展 琉球】でも、琉球から古代ローマ帝国の貨幣が出土しているのですから、海上からの搬入ありえそうな気がします。
待たれる新証拠の発見。


② 銀壺(大型の銀製の壺)in南倉 口径42.9cm、胴径61.3cm、高さ46.6cm 重さ7.1kg
ダントツに深堀り考察したくなる銀製の壺。
聖武天皇と光明皇后の娘・称徳天皇が東大寺に献納したと日付が記載されている由緒正しいもので、2個作成の内の1つが展示。
正倉院に伝わる最大の金属製容器で、羊や鹿を狩る狩猟文様や蝶々、余白は(鏨たがね)で魚々子文(すごく細かい点描)が刻まれています。
しかし彫刻が浅いせいか、写真だと鼠色のくすんだ壺にしか見えなくて、魅力は9割減です。実物は9割増しで綺麗です✨身を乗り出してガン見しました。
騎馬人物の衣装から、これまで中国・唐で作られたとする説が有力でしたが最近の研究では大陸伝来の原図を基にした国産品の可能性が高いそうです。
根拠の1つは彫刻が図像の種類が乏しく転写を多用していて稚拙(下手)だからという身も蓋もない理由でしたが、もう1つの根拠、壺で使っている銀の由来が面白いです。
研究した奈良国立博物館の吉澤学芸部長説では壺の銀は、当時作った銀の貨幣「大平元宝」をつぶして壺にリメイクしたというもの。
大平元宝は発行の記録はありますが現存していない幻の銀銭。幻の銀貨を潰して壺にしましたって凄いです。小説になりそう。。。
考察の詳細は「正倉院紀要第39号」(※宮内庁が発行している正倉院研究の報告誌です)を参照ください。妄想広がります。

③斑犀把緑牙撥鏤鞘金銀荘刀子(はんさいのつか りょくげばちるのさや きんぎんかざりのとうす)in中倉
一目惚れした工芸品。直径20cmに満たない小刀です。刀身は茶道で使う黒文字みたいな片刃です。
「刀子」は官人(現在の官僚とか貴族)が腰帯から下げて携帯した小刀の事で、用途は紙を切ったり木簡削ったりする、万年筆というかペーパーナイフ。
 製作は奈良時代後期と推定されます。この鞘がすごく綺麗✨。緑青の地に白の花鳥の文様があしらわれた優美なデザイン。
これは象牙に淡青の染色を施した後、文様部分を削り出して地の白をだすという撥鏤(ばちる)の技法が使われているそうです。
当時の貴族たちはそれぞれオリジナルのmy刀子を誂えて豪華さを競ったんだとか。天平人のセンスの良さに脱帽です。
把の部分も犀の角。サイというより水牛でしょうが、当然日本にはいないので、象牙同様にこれも海を渡った舶来品なのでしょう。
複雑な斑が浮かび上がっていて素材の美が堪能できます。1000年以上前の職人さんの技術が凄い。

④伎楽面 力士 (ぎがくめん )in南倉 桐製
裏側に「前一」「東大寺  将李魚成しょうりのうおなり 作」「天平勝宝四年四月九日」との墨書があるので、今から1270年前の752年に行われた東大寺の大仏開眼会(新しく作った仏像に眼を入れて魂を迎える儀式)で披露された伎楽の仮面だとわかります。
他に呉女と呼ばれる女性の仮面もありましたが、呉女はおかめ納豆のおかめ顔に激似で明らかに東洋女性。しかし力士は分かりやすく中央アジアなお顔立ちが文化の伝播を感じます。
伎楽は大陸から輸入された滑稽で教訓的な要素も入った仮面劇。
白い顔で髪を結う呉女は高貴な女性、赤い顔で怒り顔の力士は悪者を懲らしめるつわもの、とそれぞれ決まった役回りが分かりやすくて、中国の京劇の仮面や歌舞伎の隈取に通じる芸能です。
外見の表現で見る人にどんな人物か理解させるある意味合理的な面は千年経っても有効ということなのでしょう。
仮面の近くには、3つの役の全身イラストがあってつい当時の開眼会イベントを想像してしまいます。ものすごく盛り上がりそうです。

この他毎年地味に楽しい古文書は解説ないと読めませんが、税金の財政決算書とか、地方から中央への申請書だとか妙に親近感が湧く文書等、天平時代のサラリーマンに想いを馳せる展示の数々。なんか地方官の墨書がやや大らかでちょっと誤字があったりして、一方の中央官僚の決算書は字のサイズも均一でぴっちり書き込まれてる、いかにも経理担当ぽい字も今もよく見るよねと楽しくなります。

色々頭に思い描きすぎて時間がたつのをすっかり忘れてしまいました。妄想がパンパンに膨らむ正倉院展。
また来年が楽しみです。
 
【今回の出陳宝物】:59件(北倉9件、中倉26件、南倉21件、聖語蔵3件)うち8件は初出陳

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morinousagisanさん

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