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中﨑透 フィクション・トラベラー

中﨑透 フィクション・トラベラー

水戸芸術館 現代美術ギャラリー|茨城県

開催期間:

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≪フィクション・トラベラー≫はなにものか?

「覚えてない!」と「覚えてる」が隣で掛け合っているみたいに、 山と積まれた "引越し跡" の壁向こうでは 3.11 が語られ、そして窓越しには塔が見えて…と、各展示室の中やそれらの直線的な連なりだけでなく、隔てられた作品・語り、(2つ並んだ蛍光灯めいた) 会場、そして街並みまでも呼応するよう。

中でも印象的なのは≪なりきれない男の朝≫。
中﨑さんが自らの所作に逐一「ウィンウィンウィン…」 と "稼働音" を付けているけれど、時折「ウィ~~ン」や「プシュッ!」という音も混じる。前者は醤油の蓋を回す時の、回るその蓋と回す手の動きが共に奏でるような音で、後者は冷蔵庫の扉が開き、密閉の破られた瞬間を表す効果音。
自らの音と外界の音とが混じり合い境界の揺らぐ感じに、並置された複数の語りがいつの間にか頭の中で混ざり合っていくことや、それらの語りがあるライフイベント(進学、被災…) では合流しつつ、また個々の道に帰っていくその振幅と近しいものを感じさせて、とても好い作品。

また、オンゴーイングなど異なる場所の展示が再現されていたり、
その再現展示がまた別の展示を思い起こさせたり (スキーの作品から、≪新しい座椅子で過ごす日々にむけてのいくつかの覚書≫を連想)、
てっきり今回のために制作されたと思った作品 (入口の≪welcome girl≫とか) が、実は別の展示に向けて制作されたものだったり (スターシステムみたい) と、異なる空間の記憶が作品やそれらの生み出す場に宿っていて、そしてさらに積み重なっていくだろうことも、看板が不在の人、異国の街…とここに (い) ないものを指し示し続けていることと通ずるよう。

大作≪フィクション・トラベラー≫も、会期が終わってしまえば虹のように消えてしまうけれど、その一つひとつにはこの新しい記憶がきっと宿っているし、またそこに別の記憶も折り重なっていくのだろう。そうして、たくさんのフィクションをトラベルし、記憶がいっぱい紐づいた "看板" へと作品が成長していく様を目撃できること…楽しみでしかたない!

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