感覚の領域 今、「経験する」ということ
国立国際美術館|大阪府
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私の鑑賞/感傷体験と、感覚と経験の側面について
7名の作家の作品から構成される本展。展示室は基本一作家一室のような空間づくりになっており、それぞれの世界観に囲まれることで、本展でいうところの「感覚」がその都度ダイレクトに塗り替えられていくような感じがした。作品そのものや展示の仕方がユニークなもの(気づきにくいものも含めて)も多いので、そういった部分での意外性を楽しめるのが現代美術の展覧会だなとつくづく思った。
感覚・経験は何かに「触れる」ということでもある。美術館では基本「見る」ことが主だが、今回は文字通り「触る」展示が印象的だった。自らが関わることでそのとき何が起こるのかを経験することになり、しかも平凡な動作が作品を通して空間全体に波及していくような感覚を味わえるのは美術館という特異な場だからこそだろう。感染症拡大の時期的に、私は何にも触ることはしなかったのだが、日常の中で当たり前だと思っていた感覚を放棄する、あるいは抑制することが必要になるということもまた、ひとつの「経験」として捉えられるのではないだろうか。だから作品に直接的に触れないからといって、展覧会の意図や作品の経験を掬い損なったとは思う必要はないと思う。
では以下に、個人的にとくに印象に残った作品について少し書き残しておきたい。
飯川雄大のデコレータークラブには驚かされた。可動式の壁面が空間を広くしたり狭くしたり、誰かが忘れていったかのようなリュックが壁際にぽつんと置き去りにされていたり…美術館で見るぶんには非日常的であることは当たり前なのだが、案外私たちが違和感を覚えても知らないふりをして社会生活を営んでいるような現象を見せつけられているような感じがして、少しぞっとした。このとき私は、なぜか公衆電話や踏切に置き去りにされた子供用の靴を思い出したり、空き地になってしまった土地にもともと何があったのかを思い出せないときの、どこか哀しいような感覚を想起した。人によってはこの作品群は、斬新な手法が奇異に映り、おかしみも覚えるのではないかとも思う。私の第一印象もそうだったのだが、自分の記憶とリンクしていくと徐々に変化していったのがおもしろい体験だった。
照りかえすような真っ白な空間に展示された名和晃平の作品(ドットとラインが描かれた黒い画面)は一種異様な光景に思えた。作品に監視されているかのようなそんな感じがしたのだ。他の展示室より無機的な白さの一室をぐるりと取り囲む黒い画面は、映画なんかで精神異常者を閉じこめて観察しているような部屋にある窓(内側からは何も見えず外側からのみ見える)のようにも見え、こちらが作品を見に行くという当たり前の行為が問い直されているように感じた。作品から見たら私たち鑑賞者はどのように映っているのだろう。このように思いはじめると黒い画面に散らばる点や線が、ものを見ているときの私たちの意識を反映しているようにも思えてきた。
藤原康博の絵画作品には子供の頃によくやっていた遊びというか、ほとんど無意識のうちにできていた現象を思い起こした。部屋の中や布地などを描いた青い画面。そこに突如として山脈が現れるという一見奇妙な取り合わせ。しかしこの画面、懐かしさで溢れていた。昔、カーテンの花柄に人の顔をたくさん見つけてはおもしろがたり、怖がったりしていたときのことを思い出したのだ。よく雲の形が何に見えるか言いあったりするような、あの発想だ。子供の頃は純粋にそれを楽しめていたのが遠い昔のことのようで、ここでもまたどこか寂しいような感覚に襲われた。しかしまた美術作品としての迫力にただただ感嘆する喜びも今は知っている。
このレビューにどれだけ私の感じたことを書いてよいやら、わからない。感覚は人それぞれだし、その場でそれぞれに感じてもらったほうがたぶんおもしろい。一人、あるいは複数人で鑑賞したときで変わることもあるかもしれない。私の場合は何かと感傷に浸ってしまったようだ。
ただひとつ言えるとすれば、感覚は直截的なものでも、一方通行的に機能するようなものでもないのではないかということだ。それは、経験すること/したことで多様な表情を見せるのかもしれないということ。感覚の仕方、知覚の仕方のよっても経験というのは大きく変わってくるのだろう。触れたからといって触覚だけが働いているわけではないように、感覚は交差し、とろけていくようにすら思える。だから確信的な経験というのもまた幻想でしかないのかもしれない。それが良いことか悪いことかということではなく、そこからそれぞれがどの感覚を信じ、何を経験していくかということに、おもしろさが潜んでいるのだと思う。本展の作品たちはそのようなことも考えさせてくれた。
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