
特別展 北斎
九州国立博物館|福岡県
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獅子奮迅の大企画展
葛飾北斎作の日めくりカレンダーを見に行った。
その名も「日新除魔図」。
天保13年、齢83歳の北斎が1日1枚ずつ魔除けの獅子図を墨で描いた大連作だ。
2017年に古美術商坂本五郎氏から寄贈されたもので重文指定、全部で219枚もある。
数年前、当館に別の企画展を見に来たとき、常設展フロア内に坂本コレクション室ができてるのを発見、入ってみたらなんと、この絵が何枚か展示されていて驚いた。
驚いた理由は、当館にこのような北斎の重文があったということ。
それまでは、目ぼしい収蔵品がなくレプリカばかりの情けない国立博物館だと思っていたが、この北斎画を見て、ついに客が呼べる武器を得たかと嬉しく思ったもんだ。
以後、年に1回はここへ企画展を見に来た折に、坂本室へ行ってはこれが出てないかと期待してたのだが、獅子は雲隠れ状態だった。
そしてようやく全作一挙大公開の時が来た。
我が家から九博への道のりは遠く交通費もかかるが、やって来ました大宰府へ。
入館料1800円払って企画展室へ。GW中の平日だが客は多い。
展覧会はいちおう日新除魔図以外の木版画や肉筆画も展示されてるので、人気作家北斎の集客力は抜群だ。
富嶽も百物語も瀧廻りも橋奇覧も軽く眺めて、いよいよ獅子の部屋へと入る。
展示は1か月毎にまとめて並んでいる。
「日新たに魔を除く」、すなわち、日々、魔を祓うことを目的に描かれた獅子は、当然ながら同じものは二つとない。
吠え、泣き、笑い、四肢をふんばり、後肢で立ち、人と戯れ、道具を操り、阿も云も、千変万化の姿態が見事に描かれている。
獅子が人間臭いのがこの絵のストロングポイントだが、絵師である北斎にもそれが顕著に表れている。
どういうことかと言うと、最初は毎日一枚を几帳面に描いてるのだが、次第に抜けた日が出てきたり、三日分をまとめて描いたり、日付を間違えて一文字書いて、それを消さずに横に書いたりと、私らがやるズボラや手抜き、失敗をそのまんまやらかしてる。
それで魔除けになるんかいと、ツッコミたくなるとこだが、見てて微笑ましくなるのが北斎爺さんの人徳でありスゴ技だろうね。
この絵を見に来たお客さん、たぶんほとんどのかたが自分の誕生日の獅子はどんなんかな?と、注目されると思う。
ちゃんとあったかた、運悪くなかったかた、両方だろう。私はありました(笑)
中には、今は存在しない日ってのがある。
2月30日だ。旧暦にはあったそうで、その日の獅子も登場する。
あと、全219枚中1枚だけ彩色があるとのことだったので、探したら9月12日の獅子がそれで、薄い朱の縞模様が入っていた。
もっと多色を期待してたので、ちょっと肩透かし食らった。
この獅子だけが前期限定だそうだが、見逃しても特に悔いは残らないので後期に行くかたも心配無用だ。
とにかくこの展覧会は日新除魔図だけのためにある。
極言すれば他の作品はオマケみたいなもんだ。
でもオマケにも信州小布施の北斎館から肉筆の名作や祭屋台の天井画も来てて、西新井大師の空海vs赤鬼の大作をサントリー美の北斎展にさらわれた分を帳消しにしてる。
ガレの北斎インスパイア硝子器は、ちとやりすぎな気もするが、学芸員さんの意欲は買います。
今後九博にお願いしたいのは、日新除魔図を坂本記念室に定期的に出してほしいの一点に尽きる。
小出しでいいので、「門外不出」などとレア感煽らずに、当館に来たら必ず獅子に会えるというサービスは絶対に必要だと思う。