カナレットとヴェネツィアの輝き
山口県立美術館|山口県
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カナレットとヴェネツィアの理想像
――ヴェネツィア
その特異な景観と文化は、多くの画家たちにとって尽きることのないインスピレーションの源であり、また時代ごとの「理想像」を映し出すキャンバスでもありました。本展は、そんな「画家を魅了する都市・ヴェネツィア」に焦点を当て、カナレットを軸に16世紀から19世紀に至るまでの多彩な風景画を通して、その変遷と多面性を辿る内容となっています。
まず、18世紀ヴェネツィア風景画の巨匠、カナレットの作品群です。彼の描く「ヴェドゥータ」は、ただの写生ではありません。カメラ・オブスキュラを使った精緻な遠近法、光の反射を点描で表す独自技法、そして現実の街並みを理想的に再構成する構成力――こうした技術の総合が、祝祭に沸く都市の空気感や水面の煌めきを見事に表現しています。グランド・ツアーで訪れた英国貴族たちが競って購入したという背景も頷ける、記録と美の両立を果たした絵画です。
しかし本展の見どころは、カナレットだけではありません。画家たちがどのように依頼主の要望に応えつつ創作を続けてきたかという視点も重要です。風景画が宗教画や歴史画に次ぐ「格下」と見なされていた時代、画家たちは風景の中に祭礼や都市の賑わいを織り交ぜることで「観る人が望む理想の景観」を創り出しました。カナレットに限らず、グアルディやマーローらの手による風景もまた、現実と空想が絶妙に交錯する構成で見る者を引き込みます。特に《セント・ポール大聖堂とヴェネツィアの運河》の綺想画に見られる奇抜で空想的な組み合わせは、当時の絵画における自由な想像力と鑑賞者の楽しみ方を物語ります。
時代が進むにつれ、印象派の登場によってヴェネツィアのイメージも変化していきます。展覧会後半、モネが描いた水面の揺らめきや、ブーダンによる大気の描写には、ヴェネツィアという都市がもはや客観的対象ではなく、作家の内面を映し出す「個人的なヴィジョン」になっていたことが感じ取れます。19世紀以降の作家主義的な傾向は、都市の捉え方が多義的になっていったことを示していると言えるでしょう。
全体として、本展はカナレットという一人の画家を深く掘り下げながらも、ヴェネツィアという都市が持つ「風景の表象」としての豊かさを、複数の時代・視点から浮かび上がらせています。絵画技術の進化、パトロンとの関係、都市の記憶装置としての絵画――そのすべてが「水の都ヴェネツィア」の芸術的魅力を語る要素として、見事に織り合わされた展覧会でした。
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