動物画譚展
市立伊丹ミュージアム|兵庫県
開催期間: ~
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面白さなら国宝展以上
学芸員さんの学歴は美大・芸大で腕を磨いたかた、美学や美術史学んだかた、理学部で考古学や生物学に勤しんだかたなど様々でしょうが、当展を企画された学芸員さんは文学部卒、それも国文学とか古典を専攻されたかたじゃないでしょうか。
展覧会タイトルが単なる「動物画展」なら普通に動物の絵を集めればよいわけですが、「譚」が付くことによって、文学的素養がないとできない展覧会へと大きくシフトしてしまうからです。
実際に出展作品のほぼすべては「画」と「譚」から成っていて、「譚」が「画」と同等あるいはそれ以上のウェイトを有しているため、こりゃ美術力に加えて文学力がある人でないととても企画構成できないなと思ったのです。
かと言って、ガチガチの古文や漢文に軸足置いてそれを読み解くってわけじゃありません。美術展ですし(笑)
動物画もお話も面白楽しく見てくださいねというキュレーションがちゃんと伝わってきました。
てなわけでまずは日本昔話からいってみよう!
桃太郎、舌切り雀、文福茶釜、かちかち山、猿蟹合戦、etc. etc 動物が出て来ない話はないですよね。その物語が第1章には網羅的に続々と登場してきます。もちろん文字と絵と両方で。
これは楽しい。私たちが覚えているあらすじとはビミョーに違ってたり、結末は全然違うじゃないかみたいなのもあったりで、温故知新の実体験的イベントともいえます。
いちばん驚いたのは「鶴の恩返し」。原題は「鶴の草子」といい、助けた鶴が女性となって現れて恩返しするのですが、自分の羽を抜いて機を織るんじゃなくて・・・・・ネタバレ書いてもよいのですが、調べればわかると思うのでやめときましょう。
で、この絵物語《鶴の草子》が素晴らしい。江戸中期の立派な絵巻物風絵画です。
当展は「画譚」にSPOT当ててますので物語は大事なのですが、どうしても「絵」に見入ってしまいます。やっぱり絵が良くないと興味失くしますもんね。
その絵がいいのが、まず《花坂爺絵巻》。この作者が何と、伝久隅守景なんですと。
あの国宝《納涼図屏風》の作者が描いた花咲爺さんは・・・うーむ。国宝はこっちじゃなかろうか(笑)
続いては山沢与平なる画家による猿蟹合戦とかちかち山。これも絵巻になってて、こりゃもう明治初期に再現された彩色鳥獣戯画です。
続くは第2章。狐、鼠、猫、猿のいろんな奇譚です。
狐と言えば悪の権化。中でも大御所は「玉藻前」で、九尾の狐としてよく知られています。その絵巻物が素晴らしい。サントリー美や京大図書館から来てるその作品は、妖怪絵巻ものに限らずとも名品と言っていいでしょう。九尾もいれば二尾もいて、悪逆の限りを尽くした妖狐が退治されるまでが美しく描かれています。
国芳も芳年もこの狐に化かされたかのように、渾身の錦絵に仕立て上げています。
ちなみに当展には随所にこういった単品錦絵が挟まれており、特に芳年の《新形三十六怪撰》からの作品は、しばし譚を離れて絵だけに注目してしまいます。
当展メインビジュアルの《大石兵六物語》の大目玉の猿(?)やふくろうも狐が化けたやつ。狐って、なんでこうまで悪者にされるのか、面白いですね。
この物語は薩摩男子の兵六さんの武勇伝として地元で有名なんだそうですが、実際の話は兵六さん、狐にやられっぱなしで間抜けな奴です(笑)。
私は、銘菓「兵六餅」の箱絵のあの男かと思い出しました。ボンタンアメと同じメーカーで作ってるこのお菓子は九州ではポピュラー。展示品にこの箱を1個置いてほしかったなあ。
一方で鼠のお話は人間臭いヒューマンドラマならぬチューマンドラマが多い(笑)当展に出てる動物譚でも狐と並ぶ5本のネズミ話が取り上げられてます。
人間になりたい、人間と付き合いたいといった恋愛ものから、ネズミ同士の合戦や、ニワトリとのバトルといったお話まで。
元来、大黒天の使いの神獣でもありますから、ハッピーエンド譚が似合う動物です。出展作品では、サン美《鼠草子絵巻》が秀逸です。
第3章「生きとし生けるものの歌」では、涙涙の悲譚に感情移入です。
《雁のさうし》は人間と雁の悲恋もの、《雀の小藤太絵巻》は子を失くす父母雀の非しいお話です。またまた前者は京大、後者はサン美からお借りしています。
それにしてもサン美さんの持ってる絵巻物、いったいどんだけあるんだろってほどの優れもの揃いで、東京でやってる酒呑童子展に行けぬ身はツライ。
第4章は架空の動物が全員集合。鵺(ぬえ)とか麒麟とかのポピュラーなものから、漢字も読めないような名前の奇怪なやつまで、人間の空想力の産物が闊歩しております。
ここでも国芳&芳年による鵺退治の図が登場。この二人の妖怪画はカッコよすぎて惚れ惚れします。
国芳の《源三位頼政鵺退治之図》、清涼殿の透視法がめちゃくちゃイイ! 鵺をまさに射んとする源頼政に、宙を走る稲妻。現代の劇画作家も顔負けの臨場感に息をのみます。
先行レビューでも皆さんコメントされてる妖怪「件」。読みは「くだん」。怪しい絵に加えて剥製まで展示されてます。可愛くはないけどポケモンにいそうな、いかにもいかがわしいブツです(笑)
よって件の如し。
最終章は舶来の動物たち。この章だけは物語じゃなくて実際に見聞きして描かれた動物たちが登場します。
ゾウ、ラクダ、ヒョウ、トラ、ダチョウ、キリン、テナガザル、ジャコウネコ、ヤマアラシ、ワニ、とまるで今の動物園。
日本にいないやつを初めて見たら驚きますわな。ほんとに見たかどうかは疑わしい動物画も散見されますが、神戸市博所蔵の《来禽図巻》や《鳥類写生図巻》なんかは一級品の博物画ともなっています。
というわけで、いろんな動物画譚が紹介されて、最初から最後まで目が離せない展覧会でした。
私がいちばん感心したのは、各作品の出所です。まあ、ありとあらゆるとこから来ててよくぞここまで調べ上げて借りて来たもんだと舌を巻きました。
特に大学図書館の所蔵品が多く、展示リストから拾えば、京大、阪大、早大、慶大、関大、東洋大、文教大、國學院大、成城大、大谷大、と、探しも探したり
貸しも貸したりの見事な連携でした。
こういう文献調査作業って、やはり文学部出の図書館好きな学芸員さんがいてこそだと思います。
私も買った図録見ながらなので、作品名や出所を間違えずに詳しくレビューできました。ここまで見せて読ませる図録はめったにないほどの濃い内容です。
解説書かれた4名の女性学芸員さん、お疲れさまでした。
いや本当にいい企画展でした。今後このような動物画譚が必要な展覧会やるときは、当展がベンチマーク&バイブルとなることは間違いありません。