皇室の美と山梨~皇居三の丸尚蔵館の名品~
山梨県立美術館|山梨県
開催期間: ~
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皇室の名品が一堂に会した壮観な光景
先日本サイト事務局より頂戴しました当選チケットにて、早速このゴールデンウィーク期間に山梨県甲府市の山梨県立美術館で開催中の特別展「皇室の美と山梨~皇居三の丸尚蔵館の名品~」を観に行ってきました(ちなみにその大型連休には後述する昭和天皇の誕生日でもある昭和の日が含まれています)。まずこの場を借りまして美術館や事務局さまの温かいご厚意により大変貴重な機会を賜りましたことに心からお礼申し上げます。そしてここでは「むずかしいことをやさしく」とはじまる文章の心得を語った作家・井上ひさしの言葉を心がけつつ、特別展の内容とその感想、会場の空気感を出来るだけお伝えできればと思います。
今回の展覧会では、皇室に代々受け継がれてきた美術品の寄贈を受けて保存・研究・展示している皇居三の丸尚蔵館の所蔵絵画や工芸品などが公開されています。東京都千代田区の皇居東御苑内にある三の丸尚蔵館は都内の一等地にある美術館でアクセスもしやすく、作者も狩野永徳や尾形光琳などビッグネーム揃いなだけにいつも混雑していてなかなかゆっくりと鑑賞するのは難しいように思います。それに比べると地方の美術館は比較的空いていることもあり、今回様々な関係各位のご尽力で一堂に会した皇室ゆかりの品々を間近で観ることが出来るのは大変有り難い限りです。おかげでニュースなどを見てもこれまで遠い存在に思われた皇族の方々が近しく感じられるようになりました。
展覧会の会場構成は、エピローグの御慶事の美術の一室にはじまり(普段は萩原英雄記念室)、第1章の野口小蘋と帝室技芸員たち、第2章の富岡鉄斎と富士山の美術、第3章の山梨ゆかりの美術と皇室の名品、と皇室や山梨に縁のある画家と題材毎に分かれています。そのなかでも特筆すべきは山梨の誇る霊峰富士が描かれた作品のうち、近代日本画の巨匠である横山大観の「扶桑第一峰」と奥村土牛の「山中湖より」でそれぞれ有名な富士の画家の気迫に圧倒されて思わずのけ反るような思いがしました。芸術の森公園や館内にある富士見の窓からの美しい眺めを見たあとだけに、なおさらその「無窮の姿」(大観の言葉で無限や永遠の意)がより一層感慨深く感じられました。
また酒をこよなく愛し豪放磊落な性格でもあった大観は「画は人なり」など様々な語録を残していますが、90年の生涯で2千点近く描いたとされる富士については次のように述べています。「富士を描くということは富士に映る自分の心を描くことである。描く限りは全身全霊を打ち込んで描いている」。その言葉通り亡くなる前年の病床でも筆を握るのがやっとながら最後の気力を振り絞って絶筆を描いたといいます。その大観が60代の円熟期に描き、昭和の大礼の際に衆議院から昭和天皇へ献上された「扶桑第一峰」はわが国一番の霊峰という意味で尊皇心の強い画家が皇室に重ね合わせた作品です。ただそれだけでなく個人的にはこれを観る者を映す写鏡のようでもありその鏡に映った姿にはっとさせられるような怖さがあります。
この先達を限りなく尊敬するとともに片ぼかしの技法などその影響を受けて独自の描き方を生み出した土牛は、名前の通り牛のようにゆっくりと着実な足取りで日本画壇の頂点にまで上りつめました。百歳を超える長寿のなかでその絶筆に至るまで富士を描くことに執念を燃やし、百寿を迎えてもなお不自由な体ながら間近に見なければ新しい富士は描けないと語っています。その約十年前に山梨側から見た富士を描き、香淳皇后が愛蔵された「山中湖より」も、新年や天皇誕生日など皇居に飾られる晩年の大作「富士」のために水彩で描かれた写生図です。画家独特の技法である薄塗りを丁寧に何度も重ねて表現する土牛の一筆一筆の筆遣いがひしひしと感じられて思わず息を呑みました。
ちなみに先に述べた最期の作品に密着し、以前に再放送されたNHK特集「百歳の富士・奥村土牛」ではなかなか制作が思うようにいかず、大観が天霊地気と力強く揮毫した掛け軸をじっと見て気合を入れる姿が映し出されていました。この50年間天霊地気を座右の銘としてきた土牛は、この4文字に宇宙を感じ富士を見て描くのだと思ったといいます。そしてこのあとのインタビューのなかで土牛は富士についてこう話しました。「富士を描くには第一に精神が大事です。横山先生などは心がなければ富士は描けない・・・」。それぞれ長い生涯のなかで富士を描くことに命をかけ、絶筆もまた同じく富士となった2人の画家の生き方に裏付けされた言葉と作品の重みを強く感じさせます。
その他江戸中期に琳派を大成させた尾形光琳や最後の文人画家と言われる富岡鉄斎らによる富士と見事な書など、多種多様で色々な見どころがあってまったく見飽きることがありません。今回皇室の名宝が一堂に会した光景はまさに壮観そのもので、日本文化を感じる豪華絢爛な展覧会は一見の価値があります(サライ6月号に狩野永徳「檜図屏風」の引き出し付録が付いていますが実物の金屏風はスゴイの一言)。ただ惜しいことにこの展覧会も来月1日までと1か月を切っており、会期終了間際はどうしても混雑を避け難いところがあります。ここ山梨で皇室の美に触れられるまたとない機会になりますので、これはお見逃しのないようにぜひお早めのご鑑賞を強くお勧めします。