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没後50年 香月泰男展 第二期1955→1965

没後50年 香月泰男展 第二期1955→1965

香月泰男美術館|山口県

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シベリアシリーズへの序章

中尾彬さんが去る5月に亡くなられた。
俳優業と並行して描いておられた絵の腕前は、さすが武蔵野美大油絵科卒といえるほど本格的で、趣味で絵を描く他の多くの芸能人とは一線を画していた。
徹子の部屋に出演されたとき、画廊に置いてもらった自分の作品が売れたときはものすごく嬉しかったと語っておられたように、制作活動は余業とは呼べないほどプロ魂が込められたものだった。
中尾さんの絵画コレクションもかなりの数があったそうで、今は出身地の木更津市に寄贈されたとのこと。
その数ある収集品の中から、TVの鑑定番組に出されたのが香月泰男の作品だった。
これは嬉しかった。凄腕の芸能人アーティストとして中尾さんが選んでくださった唯一の作家が香月泰男だったことは、山口県人として本当に誇らしかった。
昨年秋には、長門市での単独トークショーにも来て香月を語ってくださった。
中尾さん、本当にありがとうございました。感謝と共に謹んでご冥福をお祈りします。

長門市三隅の香月美術館では、香月没後50年展の第2期が始まっています。初日に行ってきました。
今回は香月がシベリア抑留から復員してから8年後、1955年の作品から始まり、1965年ごろまでの作品が並ぶ。
故郷の生家に腰を据え、当初は地元の女学校での教鞭を取りつつ、1960年にはその職を辞し、いよいよ画家香月泰男としての活動が本格化していく時期である。
そしてそれは香月作品の特徴的な色使いである黒と黄土色が初めて登場した時期であり、後にシベリアシリーズで完成されるあのゴツゴツとした方解石によるマチエールが生み出された時期でもある。

まず第1室では、1955年ごろに初めて試みた黄土色下地の上に色を重ねていく作品が紹介される。
《椅子の上の山鳥》ではまだ赤や緑といった色も使われるが、やがてそれはなくなりクリーム色主体の画面に転化していく。
この部屋はクリーム色の部屋といってもいいぐらい、穏やかな色調の絵が多い。《山羊》はその代表作だろう。
そしてこの部屋の後半、1956年ごろには黒が登場してくる。それはやはり冬だった。
あの極寒のシベリアでの記憶は春夏秋には姿を隠していたかもしれないが、雪と共に亡霊のように蘇ってきたのか。
《雪山》での、雪の白に浮かび上がる黒い樹木。香月の心に澱む塊は黒という色をもってついにその貌を表したのだろうか。

第2室は黒と黄土色の世界が、故郷三隅の場を借りて展開する。これらはいわばシベリアシリーズの三隅バージョンとでもいえるかもしれない。
1961年の《流》から、《瀬》、《冬の川》、《漣》、《堰》と、香月が毎日橋の上から眺めていた静かな流れも、まるで抽象画の如く暗黒の心象風景となってキャンバスに塗り重ねられている。
タイトルがないとそれは何なのかはわからない。しかし、香月の人生における黒い記憶の時代を描こうと決意した序章は、他のどの場所でもなく、故郷の山河がモチーフでないとならなかったのかもしれない。

現在、山口県立美術館ではシベリアシリーズ全作が公開中だ。
鑑賞されるなら、その前でも後でもよいので、是非香月美術館にも足を伸ばしてその布石となった油彩作品群も見てほしい。

今期の展示では、第1室と2室との連絡通路、「おもちゃ」展示コーナーの向かい側に香月が絵付けをした萩焼作品も出ています。
坂田泥華、田原陶兵衛、坂倉新兵衛といった巨匠とのコラボで、香月の素朴な絵に束の間ホッとすることもできます。

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