足利将軍が愛した宋元仏画の魅力

10月25日 京都国立博物館で開催されている特別展「宋元仏画―蒼海を越えたほとけたち」に行ってきました。
(開催期間:9/20 ~ 11/16)
撮影NG
講演会「奝然(ちょうねん)招来の仏典とその影響」を聴講
展示作品名は【 】で示します。
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《はじめに》
最近、仏画から読み取れることが徐々に増えてきて、鑑賞が楽しくなってきました。そういう意味では、今回京都国立博物館の宋元仏画展を訪れることができたのは、非常に良いタイミングだったと感じています。
中国の宋(北宋・南宋)と元の時代の仏画が、なぜか日本に大量に存在する理由には、主に三つあると考えられます。
・ 中国本国では鑑賞や収集の対象になっていなかったこと
・ 日本がシルクロードと同様に交易の終着点であったこと
・それらを「唐物(からもの)」として収集し、「東山御物(ひがしやまごもつ)」という一大コレクションを築き上げた室町幕府の足利将軍の存在
特に東山御物の貢献度は高いでしょう。
《予習と方針》
本展の出陳リストを見ると、後期展示の主役は牧谿(もっけい)であるようでしたので、彼の作品を中心に鑑賞しようと計画しました。しかし、牧谿の名前はどこかで聞いた覚えがあり、メモ帳を見返してみたところ、今年の7月に大阪・藤田美術館での学芸講座で、酒と茶道と唐物趣味についての話を聞いた時だったと判明しました。
その講座では、唐物趣味は前後期に分かれ、前期は宋代の牧谿の山水画を見ながら抹茶を飲むのが流行し、後期は明代の沈石田の山水画を見ながら煎茶を飲むのが流行した、という話でした。以前学んだことと新たな知見が結びつくのは、やはり楽しいものです。
鑑賞の方針としては、福田美術館の上村松園展に引き続き、作品を比較しながら鑑賞を進めることにしました。一つ問題としては、関連している作品の展示位置がそれぞれ離れており、メモしておかないと記憶が飛んでしまうということでした。
《比較その1:牧谿と等伯》
【作品番号72 観音猿鶴図(国宝)と 作品番号164 枯木猿猴図(重文)】
とにかく一番見たかった牧谿の【観音猿鶴図】に向かいました。予想以上に大きく、掛け軸サイズというよりも、襖絵を無理やり掛け軸にしたような迫力がありました。
右幅のテナガザルはやはり愛らしく、左幅の鶴図は、鶴が一鳴きする様子を切り取ったかのような迫力があり、寂寥感と存在感が微妙なバランスで成り立っていました。中幅の白衣観音は、両脇の猿と鶴のおかげで深山に坐する雰囲気があり、三幅に一体感が満載でした。
一方、【枯木猿猴図】は長谷川等伯の代表作の一つですが、描かれているテナガザルは本当にそっくりでした。桃山時代に国内にテナガザルがいたとは考えにくいため、等伯が牧谿の絵を参考にしたと推測できます。雰囲気は似ていますが、深山感は薄く、人里に近い感じを受けました。
《比較その2:阿弥陀三尊像》
【作品番号40 阿弥陀三尊像(国宝)と 作品番号64 阿弥陀三尊像】
阿弥陀三尊像では、私は中尊よりも脇侍、すなわち勢至菩薩(右)と観音菩薩(左)につい目が行ってしまいます。国宝の40番の阿弥陀三尊像は普悦が描いたもので、三幅で構成されていました。朱色の着衣が華やかで、あまり顔に注目が向かわなかったように思います。今までも立像は何点も拝見してきましたが、脇侍が片足ずつ小さな蓮台に乗っていることには、今回初めて気づきました。
また、64番の【阿弥陀三尊像】は一幅で構成されており、彩色がより強かったです。さらに、脇侍から「デキる部下」の雰囲気がじわじわと伝わってきました。
《比較その3:四睡図》
【作品番号89 四睡図(重文)と 作品番号157 四睡図(重文)】
この2件はいずれも元の時代のものです。【四睡図】とは、豊干禅師、寒山、拾得(いずれも禅僧)が虎と共に眠る姿が描かれた、道教と仏教が融合した題材です。どちらの絵も人が2人しか認識できませんでしたが、残りの1人はどこにいるのか、気になりました。
89番の作品は山中での野宿に見え、157番の作品では街道でのうたた寝のように見えました。いずれも幸せそうに寝ている姿に、こちらもほのぼのとした幸せな気分になりました。
《比較その4:道宣律師像》
【作品番号25 道宣律師像・元照律師像(重文)と 作品番号151 道宣律師像】
25番の【道宣律師像】は頂相(ちんそう)で、静かにたたずむ様子が僧画のスタンダードな描画でした。上に書かれていた賛文を書き写し、Google Geminiで現代語訳してもらったところ、「人として、あのすぐれた師は、その偉大さゆえにただ褒め称えるだけでは済まされない。(中略)すべては人々のために為されているのである」と、師を褒めちぎる内容でした。(賛文を書き写す作業に時間を取られ、体力も25番という初手から消耗してしまいました)。
一方、151番の【道宣律師像】は、何やら戦場の修羅場での一コマのように見え、目に優しさは感じられませんでした。
《比較その5:梁楷の二面性》
【作品番号41 出山釈迦図(国宝)と 作品番号42 李白吟行図(重文)、ついでに 作品番号159 寒山図(重美)】
最後は、南宋の梁楷(りょうかい)が描いた2作品と、室町幕府4代将軍の足利義持の作品の比較です。梁楷の作品は、本当に同じ人が描いたのかと疑問に思うほど作風が全く違っていました。
41番の【出山釈迦図】は「精妙な筆」と呼ばれ、霧の漂う深山から人々の待つ下界に降りてきた釈迦の様子が、厳かに、細密に描かれており、かなりインパクトが強かったです。一方、42番の【李白吟行図】は「減筆体」と呼ばれ、少ない線で人物を表現する妙で描かれていました。この技法は、なんとなく日本画の「引き算の美学」にも繋がる点で、印象深く感じました。
さらに、ついでに挙げた足利義持の159番の【寒山図】では、筆の運びが李白吟行図とよく似ていましたので、減筆体を意識していたと感じました。
なお、雪舟の【倣梁楷黄初平図】よりも比較しやすかったため、この寒山図を選択しました。
《まとめ》
私の興味で展示作品の比較を書きましたが、本展のテーマには、中国の宮廷画家、高麗の仏画、道教・マニ教との絡み、絵巻物、そして3次元の仏像(オタク的表現)など、豊富すぎるほどの見どころが詰まっていました。この感想を全て書き出してしまうと、ブログではなく小論文になってしまうため割愛しました。
ただ、一つだけツッコミを入れさせてください。俵屋宗達の【蓮池水禽図】は、体力切れでヘロヘロになった最後の展示室に置かれていました。登場が遅いです(泣)。メモ帳の文字が泳いでいたため、集中して鑑賞できたかどうか不安が残りました。
仏教美術は、そのストーリー性や関連情報の豊富さが面白さであると理解でき始めていますので、今後もタイミングが合えば積極的に鑑賞していきたいと考えています。
