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千葉正也の作品は、絵とインスタレーションが相互包含関係にある。
千葉の絵画ほど、絵画というメデュウムについて考えさせる絵画はないと思った。
千葉正也の作品の特徴について、まずひとつめは、端的にいえば現代アートでは珍しく絵が写実的で、絵そのものとしてうまい、日展などの具象画系画壇の写実的作品の水準からいってもかなりの描写力がある。ふたつめは、具象絵画の主要三形式、つまり、人物画、風景画、静物画のすべての要素が入っている。
三つめの特徴は、絵の内容とインスタレーション全体の内容とが似かよったイメージになっているということ。この特徴はとてもユニークで重要だ。絵の中のモチーフとインスタレーション全体とが相似形、つまり、部分と全体が同じ形をしている。例えばカンバスは壁に掛けられずに木材で作られたスタンドにより自立している。絵の中のモチーフの多くも同じように自立している。したがって、展示全体のどこを切り取っても同じようなイメージになっている。それぞれの絵単体としても作品として成立しているし、ある絵と周囲のインスタレーションを含めても作品として成立しているのだ。
つまり、絵の中の世界とインスタレーション全体の世界が地続きになっているということだ。さらにこの特徴は、ひとつめの特徴、描写力がある、トロンプルイユ(だまし絵)的であることによって強化されている。絵画では「画中画(がちゅうが)」という絵の中に絵が画かれることがあるが(画中画は、フェルメール、マネ、ゴッホ、マティスなど多くの画家が試みている)、これをもじっていえば、千葉の作品は「インスタレーション中画」ということになる。一方、絵の方にだけ着目すれば「インスタレーションをモチーフとした絵」ともいえる。つまり、絵とインスタレーションが互いに含みかつ含まれているという関係にあるのだ。