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幻想のフラヌール 版画家たちの夢・現・幻

町田市立国際版画美術館

フランスには、「マンタロー」という飲み物があると知り、旅行の際には、ぜひ飲んでみよう決めていた。モンマルトルのカフェで注文した念願の「マンタロー」は、人工的な蛍光緑色のミント水だった。こんなものをフランス人は好んで飲むのかと文化の違いに驚いた。はるか40年前の夏の思い出だ。


幻想のフラヌール、はじめに展示されているのは、木村茂の「樹」

とても繊細で、どこか懐かしいような作品たち。

フラヌールとは、フランス語で「遊歩者」とのこと。「版画の森へようこそ」と導く仕掛けか。

続く木原康行の作品は、少しの乱れも許さない精密な幾何学模様でありながら、顕微鏡で覗くボルボックスやクンショウモみたいで、今にも動き出しそうだ。



写真の作品は、門坂流の「荒波」

撮影は、一部のみで、ガラスケース越しなので、作品の良さを残すのは難しい。

記憶の中に必死に留めよう。

門坂の作品で、心を惹かれたのは、「満開の桜」

「満開の桜の下にいると酔う。特に夜桜は。」と言った友を思い出す。


パウル・ヴンダーリッヒの「モナ・リザにヴェールをつけて」は、暗闇の中に浮かぶフェイスヴェールをつけたモナ・リザの目が、意味深で、悪だくみをしているかのように怖い。

この版画一枚で、短編小説が書けそうだ。


多賀新「不安な室」

多賀新の作品は、受付で貰った小冊子の表紙を飾っているので、一押しの作家なのか。

いろいろなところに仕掛けがあり、時の経つのを忘れて見てしまった。

「三界」は、フレミングの法則のように四肢が伸びており、口から仏が飛び出している空海上人像のように何かが飛び出している。近づいてよく見ると、仏ではなく歯。

他の作品も、頭蓋骨や筋肉、内臓など、壊れた人体模型図みたいで、全体にグロテスクだ。

「四散する四肢」は、中心から手や足がたくさん出ており、インドの神を連想させる。表情は、悲しげで不気味。怖いから見ないようにしようと思っても、気になってつい見てしまう。子どもの頃にタイムスリップしそうだ。


蒲池清爾「蜃気楼」



山田彩加「命の繋がり」

星野美智子「バベルの図書館」、西村沙由里「御霊くだり」、山田彩加「命の繋がり」、小林ドンゲ「浅茅ヶ宿」など、女性作家の作品も個性豊かで、見ごたえがあった。

なかでも、清原啓子の「海の男」と「詩人・クセノファネス」に心惹かれた。

なぜかずっと眺めていたい気持ちになる。


清原啓子「領土」

文学や歴史に造詣が深かったなら、もっと楽しめるのだろうなといった力作や大作が続く。

一つ一つの作品に込められた内容が、盛りだくさんなのだ。

ふと気づくと、虫眼鏡を持参して鑑賞されている人がいた。





そんな中、一際強烈な個性を放っていたのが、小林ドンゲ。

視線を外した切れ長の目が、儚さ、悲しさ、悔しさ、意地悪さ、高貴さ、気高さなどを感じさせ、「どうしてそんな表情をしているの?」と問いかけたくなる。


展示の最後は、菊池怜司。

文字がたくさん書き込まれていて、標本かカルテのよう。

今まで展示されている作品とは、雰囲気が違う。

22歳で夭折、病と闘いながら作品を生み出していたことが偲ばれる。

私は、若い人の作品の粗削りな所と瑞々しさに毎回惹かれてしまう。

人は、いつか死ぬ。早いか遅いかは人それぞれ。

「いかに生きるかですよ」と最後の作品で投げかけ、幻想の世界から現実に戻る趣向なのか。

どの作品も見ごたえがあり、もう一度訪ねてみたくなる。今回も堪能した。

次回も楽しみである。


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