没後50年 香月泰男展 第一期1931→1954
香月泰男美術館|山口県
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2024年 山口に来る理由
ニューヨークタイムズも罪なことをしてくれたもんです。今年行くべき場所の世界第3位が山口市だなんて。
いちばん驚いてるのは当の市民や県民です。そりゃまあ、選ばれたのは名誉なことだし、山口もいい町です。
だけど今はタイミングが悪すぎ。山口市で唯一誇れる観光SPOTの国宝瑠璃光寺五重塔が数十年に一度の大改修で見れないんですから。
この工事は2026年春まで続くので、来るなら2年後です。
しかし!美術ファン諸氏に申し上げます。山口に来るなら今年です。
なぜなら、今年は香月泰男没後50年にあたり、企画展が香月泰男美術館と山口県立美術館で開催されるからです。
その第一弾の回顧展が長門市の香月泰男美術館で始まってます。さっそく行ってきました。
お彼岸明けで、館の周りの桜の蕾はまだ固かったですが、おそらく今週あたりから開花し4月第1週には満開になるでしょう。
当館については、当サイトの美術館感想欄に書いてますのでご参照ください。
最大の特長は「シベリアシリーズ」がないことであり、それ以外の作品で香月泰男という画家を完璧に理解できる素晴らしい美術館です。
香月の命日の3月8日に始まった没後50年展第一期では、1931年から1954年までの作品が出展されています。
油彩が39点、素描が6点と展示数は少ないですが、少数精鋭のいい作品ばかりですのでご安心を。
第一展示室には絵描きを目指した若き香月の作品が並びます。
東京美術学校時代の作品《祖父》、《風景》はゴッホ調、国画会初入選作《雪降りの山陰風景》は梅原初期のようでもあり、卒業後の30年代後半~40年代初期には、青ピカソ風の《少年》やキュビズム感が漂う《カンナ》、《水鏡》、《波紋》など画風の変遷が続きます。
第二展示室はシベリア抑留から帰国して7~8年間の作品です。
モチーフは身の回りの室内風景、犬や牛、食卓とそこに上がる食材など、日常を捉えたスナップショットばかりです。
そしてそのどれもが、抑留時に夢に見た故郷であり生家の姿なのです。
そのせいなのでしょうか、色調は全体に明るく、あのシベリアシリーズの暗くて重い画風の片鱗さえもまだ見えません。
中にはやや明度を落とした《朝》や《会話》もありますが、後者での犬と蝸牛がまさに会話をしているようなシーンには極寒の抑留地で凍てついていた香月の心にようやく春が戻って来たんだなあと思わずにいられません。
とにかくこの美術館とその展示作品には、「癒し」とか「和み」といった言葉がよく似合います。
第1室と第2室との間にある通路沿いの《おもちゃ》の展示でそれが最も顕著です。
木っ端やブリキ板など廃材で作られた人と動物たちはみんな楽しそうで、ほんの一瞬前まで動き回っていたのを、ポーズボタン押して止めたかのようです。
ガラスケースの前で、ポン!と手を叩けば再び動き出しそう。
そんな温もりのある展示の先には、照明落とした暗くて狭い展示室があります。
おもちゃコーナーから第2室へ行く間にあるその部屋は、満州で板に描いた油彩小品や家族にあてた絵手紙(ハイラル通信として有名なハガキ)などが展示されています。
時にはシベリアシリーズの中の1点が山口県美から来ることもありますが、今回はシベリアシリーズの第1作として有名な《雨(牛)》の下絵(エスキース)が出てました。
香月が出征時に携行した絵の具箱とパレットもあり、箱の蓋の裏にはいずれ描く絵の構想を漢字一字で書き留めていたのが印象的でした。
(この絵具箱はシベリアシリーズで《絵具箱》として描かれ12文字の漢字も画中に入っています)
美術館最奥のアトリエはいつものように時が止まってそこにあります。
主はもう帰ってくることはないその部屋は、今回心なしか片付けと清掃がされていたような・・・
香月が来たら「ありゃ?あんまり片付いとるとどうも落ち着かん。」と、すぐにまた、いろんな物が卓上を占拠するかもしれません。
香月泰男没後50年展、第1期は6月2日まで。その後7月20日から第2期が始まります。
そしてシベリアシリーズですが、これは山口市の県立美術館で7月4日から8月25日まで全57点が出てくる展覧会があります。
2021年から22年にかけて東日本を巡回した展覧会で香月とシベリアシリーズを知ったかたも多いでしょう。
見逃しかたも、もう一度見たいかたも、是非今年は山口へ。(おいでませは、実は山口人はほとんど言いませんw)
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