香月泰男 全版画展
香月泰男美術館|山口県
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香月版画全部見せます
香月泰男美術館については、当サイトの美術館レビュー欄にUPしましたのでご参照ください。小さいながらも本当にいい美術館ですよ。
と言いながら、もう10年以上行ってなくてどうもすみません。反省して今年久しぶりに2回行きました。2月に修復後の油絵展、4月に全版画展の前期。
どちらも良かったです。特に版画はまとめて見られる絶好のチャンスで、前後期総入れ替えなので、後期にも行くつもりです。
その版画展のレビューです。
香月が残した版画は全150点超だそう。多いのか少ないのかはなんとも言えませんが、全点を前後期2回で紹介できるというのは、ちょうどいい按配の点数なのかも。
技法は、リトグラフ、エッチング、木版で、今回の展覧会にはそのどれもが出ています。
白と黒のリトグラフ作品の多くには、後で彩色しています。モノクロの世界はどうしても、過去の忌まわしい抑留体験が重なるからでしょうか。
それもあるかもしれません。だけどやっぱり、作者の眼前にある動植物や風景の天然色をそのまま作品にも表したいとのごくごく普通の思いによるものでしょう。
どの草花、虫、鳥や家畜、魚や野菜にも色はあって、それは決して白と黒だけじゃないのだから。
「普通の思い」と書きましたが、当館に展示される香月作品すべてに共通するのは、普通、日常、ありきたり、といったワードです。諸外国を旅して描いた絵も、そこでは普通の光景ばかりです。
絵描きとして何をモチーフとして取り上げるかとなったとき、香月の場合は二つのみ。
重く暗いテーマと普通のテーマです。
前者「シベリア抑留」については、当館や当館企画展には無縁のものです。ここはそれをシャットアウトし、「陽」の香月世界に浸る場所だから。
木版画《みもざ》は、黄色、緑、水色の三色刷りがシンプルで美しく、好きな作品。
その版木も展示されていて、枚数は色と同じく三枚。彫りも単純で明快。刷り上がった作品同様に心に残りました。
エッチングで描いたのは、上野動物園の動物たち。1970年作だからパンダが来る前ですね。その後パンダを香月が見たかどうかはわかりませんが、人が多くてスケッチどころではなかったと思います。
でも、もし香月が上野のパンダを描くとしたら、それを見ている親子連れも一緒に描いたような気がします。
そんなこと思いながら図録見てたら、後期に出る《らくだ》では、ちゃんと親子も描いている。こんな嬉しくなる予定調和ってないよね。
海外旅行先での作品も明るくていい。香月が旅した諸外国は、どこも温暖で陽光溢れるとこばかりです。理由は言わずもがなですね。
そこでのスケッチも絵にしたり版画にしたりといろいろで、どちらであっても簡潔明瞭かつ狂いのないデッサンにつくづく見惚れてしまいます。
《ロバのいるカサブランカ》のロバ、馬でも犬でもない、どう見てもロバ。簡単に描いてるようでちゃんとロバなのがいい。
香月作品には珍しいヌードもありました。解説によると、東京都庭園美術館が制作現場だったそう。
今は国の重文指定になった建物なのでレンタルは無理でしょうが、当時は私企業所有の迎賓館だったから、そういう用途もOKだったのかな。
香月が描いた裸婦像は、このリトグラフの他には、召集前に倶知安での教師時代に描いた油絵があり、山口県美で現在公開中です。
当館で開催される企画展はすべてコレクションによるもの。何回もやってるうちにネタ切れになるんじゃ?との心配は全く無用です。香月が残した日常風景は、どんな切り口からも企画構成が可能だから。
「普通」とはそういうもの。無限の順列組み合わせが可能なテーマなのです。
来年は香月没後50年。当館でも記念企画展あるみたいですが、「シベリアシリーズじゃない」香月作品で、埋め尽くされることを期待しています。
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