新版画 進化系UKIYO-Eの美
千葉市美術館|千葉県
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新版画の歴史を、1会場で通覧できる
大正期から第二次大戦後にかけて展開された、「新版画」の世界を一覧できる貴重な展覧会である。新版画は、絵師・彫師・摺師の分業体制で発展した浮世絵を、大正初期に再興しようとした版元渡邊庄三郎を中心に展開された活動と言ってよいと思う。今回の展覧会は、渡邊画舗のもとに集まった数々の版画作家の作品を中心軸に、その影響をうけ、あるいは独立していった版画作家の作品を、おおよそ制作時順に190点余並べた展示構成である。最近注目のあつまる新版画であるが、従前は川瀬巴水展(新宿SOMPO、秋田等を巡回し、現在は鹿児島市美術館で開催中)、吉田博展(都美術館、川越、千葉市、大分等多数を巡回)など単独作家の展覧会が多かった印象だが、今回のように、大正から昭和にかけての「新版画」の歴史を通観できるのは、ありがたい試み。タイトルのukiyo-eが英語になっているのは、おそらく浮世絵の再興を目指した新版画の版元・画商たちが、アメリカを最大の市場としていたからであろう。
また、現在、ひろしまから巡回して、茅ヶ崎で開催中の渡邉庄三郎に焦点をあてた展覧会とも異なり、渡邊版画店(のちの渡邊木版美術画舗)の活動だけでなく、同時代の他の版元の作品や、渡邊画舗を離れた後の作家の作品と見比べることができるのは、得がたい経験。新版画というと風景の印象がつよいが、役者絵やモダンガール(小早川清の作品)を扱う版画作品を多数展示しているのも、特徴的。各分野で代表作といってもよさそうな作品を、よくこれだけ集めたなと思う。キュレーターと思われる西山純子氏はじめとする学芸員さん達の並外れた知識のたまものと想像され、脱帽である。メインビジュアルも、まんなかに葛飾北斎の富嶽三十六景・神奈川沖波浪が描かれているのが、浮世絵へのリスペクトのあらわれと、西山氏の説明である。
展示は、川瀬・吉田ファンにとってみると、若干彼らの点数が少ないので物足りないかもしれない。確かにひろしま展よりは川瀬吉田作品は多くない印象だが、吉田博の代表作である帆船は、朝昼夕夜等6パターンそろっているし、各作家の代表作が並ぶだけに、みどころは多い。展示作品が、2センチくらいの幅の白木製額縁でほぼ統一されていて、また各作品にあてられる照明も適度の明るさがあり、とてもみやすい。10点に1点くらいのひとこと説明ポップに、作品のポイントが示されているのも、なかなか工夫されている。全部ではないところが、心憎い。
また、並行開催されている版画展示も見逃せない。「新版画の先駆ともいうべき、明治末期に来日して日本の職人とともに木版画を制作したヘレン・ハイドとバーサ・ラムの作品約50点もあわせてご覧いただきます。美人・風景・役者各ジャンルの花形作家たちの競演を、伝統技術の粋と革新的な表現の煌びやかな融合を、ぜひご堪能ください。」との美術館側の弁は、やや力がはいりすぎた表現ではあるが、誇張ではない。
なお、10月18日は、市民の日で無料とのこと。