野田弘志 真理のリアリズム
山口県立美術館|山口県
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Absolute Realism
超リアル写実絵画の開祖の一人である野田弘志さんの個展が地元で開催とあって、すっ飛んで行った。
展覧会のタイトルは「真理のリアリズム」。英訳がAbsolute Realism。
「絶対的なリアリズム」のほうが私は好きだ。
2022年GWの開幕初日に山口市へ車を走らす。
駐車場はいつもの県立図書館前。そこから道路向かいの県美へ。
会場入口は当館企画展の通常ルートと違って、ロビー右手方向、すなわちいつもの二階出口から入る形だ。
当館来訪歴四十年で初めてのパターンだ。何か仕掛けがあるのだろうか?と期待が膨らむ。
展示は大きく4テーマに分かれている。初期作品、新聞連載小説挿画、静物・風景、そして人物だ。野田さんの画業を時系列的に並べると、こうなるというオーソドックスな順番だ。
二階展示室の皮切りは初期の画学生時代や卒業後のイラストレーター時代の作品が並ぶ。現在の写実画へと舵を切る伏線的な絵がこれに続く。
次が新聞挿絵。
鉛筆による写実画で、1983年5月から1年9カ月、朝日新聞に連載された小説のものだ。
連載は全628回、そのうち第1回~154回の間の116点が展示されている。
どれも目を見張る画力による超細密画で、当時話題になったというのも頷ける。
しかし、この展覧会に占める数量的な割合は多すぎる。見ていて明らかに中だるみになってくる。半分、いや三分の一ぐらいでよかったのでは。
野田絵画で見たいのはこれじゃない。との思いで階下へ。
そこにはようやく油彩による写実画が登場してくる。
まずは静物。
好きなのは壁に張られた紐を描いた『THE-9』。
高橋由一『鮭』の紐が重力なら、これは張力が伝わる傑作だと思う。
ただ、骨や剥製を描いたその他の静物画にはまだときめかない。野田さんじゃなくても描いてそうで。
風景画になってようやく野田ワールドに突入だ。
安芸灘大橋、美ヶ原、摩周湖、トドワラといったモチーフがまるで写真のごとく描かれる。しかしてそれは紛れもない油絵だ。
美しい風景が美しく描かれる。こんな当たり前のことをリアリズムは教えてくれる。
そして当展ラストを飾るのが野田絵画の真骨頂である人物画だ。
「筆舌に尽くしがたい」という陳腐な表現しか浮かばぬ自分が恥ずかしいが、このリアルさと美しさは何なんだ。
くどいようだが、これは写真ではなく油彩。写真を超越し、写真の向こう側に到達したアートとでもいうべきか。
ヌードも肖像も、野田さんが描く人物はいずれも等身大の全身像。大画面であるがゆえに、天井の高い一階を後半に持ってきたのだろう。
ならば、人物画の数がもっと欲しかった。生意気な言い草だが、挿絵や静物画の枚数減らして人物画を増やせなかったか。
ちょっと出し惜しみ気味なのが引っ掛かった。
なお、展示の最後の人物画二作品は、変わった配置というか鑑賞ルート設定が為されている。
理由は絵を見ればわかるが、「忖度」ということかな。
そこまでする必要はないと思うが・・・
超リアル写実画の聖地と言えば千葉のホキ美術館。
数年前に一度行ったことがあり、野田さんの作品もたくさん鑑賞した。
今回はその時見た絵との再会あり、別の美術館からやって来た初対面作品ありと、改めて新鮮な感動が得られた。
ホキ美訪問から今回までの間で、野田さんのトピックスと言えば、何と言っても、平成天皇皇后両陛下の御真影画の制作だろう。
かなり話題になっていたのでご存じのかたも多かろうし、三の丸尚蔵館で実物をご覧になったかたも。
私は残念ながらまだ拝見していない。
上皇ご夫妻となられた今は、ご新居の仙洞御所にでも飾ってあるのだろうか。
それはさておき、21世紀の今、宮内庁から御真影を依頼される画家は、野田さんだけだ。
その全国巡回展のトップバッターが山口県立美術館なのは嬉しいもんだ。
今後は、姫路、奈良、札幌だそう。地元のかた、お楽しみに。