
ボストン美術館展 芸術×力
東京都美術館|東京都
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二人の面白おじさん
「吉備大臣入唐絵巻」。何度かテレビで見ていたので、見た気になっていたが実物は初めてだった。赤鬼になった阿倍仲麻呂と吉備真備が超能力(結構ズルに近い)を使って唐皇帝の使者からの難題をクリアしていくフィクション。私のお気に入りは『文選』のくだり。難解な詩文集に関する問題が出ることを知った二人は事前に宮殿で盗み聞きするが、その様子は最早コント。
この絵巻は平安時代後期の説話集『江談抄』(ごうだんしょう)を元ネタとしており、後白河院プロデュースで作成されたらしい。後白河院は大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では西田敏行さんが演じたクセ者だが、こんな人をおちょくった作品はクセ者だからこそ実現したのかもしれない。また、実物を見て気になったのは詞書に漢字が少ないこと。ほとんど「ひらがな」なので頑張れば私でも少しは読めそうだ。「ひらがな」ばかりだと若干稚拙な感じもするが、これも堅苦しくならないように敢えてのプロデュースなのだろうか。
さて、そもそも何で奈良時代の超エリートの二人が400年後の平安時代にこんな面白おじさん達として表現されたのだろうか。阿倍仲麻呂に至っては鬼にまでされて。絵巻が作成された時代、菅原道真によって894年に遣唐使が廃止されてから疎遠になった中国との交流が日宋貿易で再開されたが、中国への劣等感から「おらが国にもスゴイ奴がいたんだ」と逆にバカにしてやる思いから作成されたという説もある。ただ、個人的には何となくしっくり来ない。それまでも貴族たちは私的な貿易で唐物を買い漁っていたのに今更劣等感って。。まったくの個人的な意見だが、当時の貴族たちは「日宋貿易で一人私腹を肥やしていた平清盛が嫌いだから清盛を贔屓する中国が嫌い」というロジックから出てきたお話ではないか。なんて感じで、この独創的な絵巻にあやかって私も妄想を膨らめて楽しみたい。
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