奥谷博―無窮へ
神奈川県立近代美術館 葉山|神奈川県
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体育会系藝大生は描き続ける
東京藝大に運動部はあるのだろうか。野球部とか柔道部とか陸上部とか水泳部とか。
日体大に美術部がある確率よりは高そうだ。
だけど、日体大生が美術展に入選するより、藝大生がスポーツ大会で入賞する確率は低そうだ。
ここに一人の藝大OBの画家がいらっしゃる。
そして、そのかたは何と東京藝術大学空手部を創設され主将を務めたかただ。
空手部が今も存続しているかどうかは知らないが、そのご本人奥谷博さんは現役バリバリで制作活動中だ。
奥谷さんの個展へ行ってきた。神奈川県立近代美術館葉山館だ。
当館へは4年ぶり2回目の訪問。前回はレンタカー借りて女房との二人旅だったが、今回は京急電車と路線バスを乗り継いでの単独行だ。
京急逗子葉山駅からバスで20分ぐらいで館の真ん前に到着。入館し受付で予約のスマホ画面を見せた後、入場料払って会場内へ。
平日午後で客は少ない。広い会場がますます広く感じるも、そこに並ぶ奥谷絵画の迫力に圧倒される。
展示は昭和~平成~令和の年代順で、画業の変遷がよくわかる。
変遷といっても画風が大きく変わってきたわけではない。
途中シュールな骸骨系が出てきたりはするが、一貫しているのはモチーフが明確な具象画ということ。
ただ、なぜこれとこれが一緒に並んでいるのかという絵はある。まあ、そんなのは美術の世界では普通なので、全然気にはならない。
むしろ、鮮やかな色彩とダイナミックな構図によるインパクトが大なので、ああ素晴らしい油絵だなあという感動で一杯になる。
画風の変遷はないと書いたが、モチーフは様々だ。
動物、植物、人物、建造物、海、仏像と、作者の興味の対象は無限である。
そして、それこそが作者の座右の銘「芸術無終」ということなのかもしれない。
展示作品は大型が多いので、天井高く、広いフロアの当館に相応しい。
近づいて見るもよし、離れて見るもよし、次は何かなと期待と興奮を交互に感じながら会場を周った。
印象に残ったのは、やはり私の地元に近い厳島神社や原爆ドームの絵。
二つの対照的な世界遺産を真っ向勝負で描ききった力業。大鳥居の赤や傾いたドームに込められた作者の想いは、正拳突きの如く見る者に迫り来る。
展覧会の最後は、作者が藝大に入学する前、故郷の高知県宿毛市時代の水彩画小品だ。
当然上手い。なるほど藝大に入るにはこれぐらい描けて普通なのか。絵心ない私は単純に感心してしまう。
でも、そんな奥谷画伯も、入試は二浪なさってるとは驚きだった。
そして晴れて画学生となって空手部興し、絵筆を持つ拳と精神を鍛え上げ、無窮への道を進んでこられた。
心身ともに磨かれた画家の傑作の数々を葉山で満喫。幸福な時間だった。