蝉時雨の中、素晴らしい庭園の向こうに永青文庫がたたずんでいた。
私は肥後熊本細川候御殿の面影を残す回遊式庭園でしばし、蝉時雨と水の音を聴いていた。
樹齢数百年の大木の上に数種類の蝉が9月も半ばだというのにすさまじく鳴いている。
これが都会のただ中だと思えないくらいである。
そして、緑したたる庭を抜けた先に永青文庫があった。
今回の夏季展は『美しき備え』大名細川家の武具・戦着である。
永青文庫には大名細川家の歴代藩主が所有した武具が多数伝わっている。今回は2代忠興(1563~1645)が考案した
具足形式「三斎流」甲冑や、3代忠利(1586~1641)所用と伝わる変わり兜、鳥の羽を全面に装飾した珍しい陣羽織など
美的素養を有する藩主たちが誂えた武具・戦着が多数展示されていた。よく長い年月このようなものが戦乱の時を超えて現存していることに感動を覚える。なかでも、感慨深いのは忠興が作ったと伝わる竹二重切花入りである。簡素でありながら、美しく、茶の湯の心を伝える必見の逸品である。