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東山魁夷の名品揃い踏み
「東山魁夷と日本の夏」、もう4半世紀ですか‥。早いですねぇ。ご冥福をお祈り申し上げます。山種さんに魁夷さんの作品を、何時も気軽に観させてくださるおかげで、そんなに経ったとは思えないのです。今展では山種さんが所蔵する東山魁夷作品を全点公開、ということでした。行かないなんてありえません。昔、高校大学と7年通った渋谷も恵比寿も、あまりに大きく変わってしまって、山種美術館が広尾に来てからはずっと、1年に4-5回は来ているのですが、それでも変化に対応できません。渋谷から母校の大学博物館が「神輿」展をやっているのでチラッと覗きながら徒歩で伺いました。
8月の記録的酷暑の平日昼前、地下展示室に入って涼やかな空気で深呼吸し、いつもながらに山種さんは空気感までも魁夷の作品世界に合わせてくれているような感じで、一作品一作品ゆっくり観巡り始めます。魁夷氏の人気の賜物でしょうか、やはりなかなかに混雑していました、が観辛いほどではなく、今回の展示内容は、何度も観ている作品が多いのですが、まあ特に私好みではありましたので、じっくりしっかり堪能させて頂ました。
冬の蔵王の樹氷林を描いた《白い嶺》、好きな作品の一つです。前景はふわっとやわらかく、と遠景は冷たく厳しい雰囲気の、雪をかぶった樹林の描写に、感じいります。そして、それらを押し包む厳冬の冷たい空気の重み、のようなものも見逃せません。これでかなり熱っていた自分の体温も下げられた感じになりました。そしてこれらに続いて並べられていたのが、川端康成の「京都は今描いといていただかないとなくなります、京都のあるうちに描いておいてください」という言葉に触発されて描いたという「京洛四季」のシリーズ、描かれた順は違うのですが、《春静》《緑潤う》《秋彩》《年暮る》です。これら四点はもちろんこれまでそれぞれに何度も観て来ているて、《春静》《年暮る》はA4判ほどの写真額をも家に持っているのですが、改めてこうして4点揃えて観てみると印象が違います。
今回の目玉メインビジュアルは、やはり『満ち来る潮』ですね。皇居新宮殿に納められた障壁画《朝明けの潮》と同趣の絵を広く人々が見られるように描いてほしい、という山崎種二の求めに応じて描かれたこの作品は、穏やかな海景を描く皇居の作品とは異なり満ち潮の中での岩と波とのせめぎ合いを主題としており… Read More