可愛くて、おしゃれで、かっこいい 流石の府中市美術館
「かっこいい」という、一見安直でとっつきやすい感覚を切り口としながら、中身は金子学芸員による膨大かつ充実度の高い研究内容。初めて洋風画を見る人にとっても司馬江漢と亜欧堂田善の魅力を余すことなく感じることができ、美術ファンに…readmore
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油絵といえば西洋のもの、というイメージがありますが、江戸時代の日本でも描かれていました。鎖国下でも交流のあったオランダや中国を通じて、少ないながらも油絵が輸入され、それをまねて描く画家がいたのです。代表的な画家が、司馬江漢(1747-1818)と亜欧堂田善(1748-1822)の二人です。
ただし、二人の油絵は、私たちのよく知る油絵とは、かなり違います。荏胡麻の油などを使って自分で調合した絵具で、日本で古くから使われてきた薄くて繊細な絵絹に描いているので、滑らかでさらりとして、明朗かつ落ち着きのある色をしています。飾れば、西洋風とも日本風とも言えない不思議な雰囲気が醸し出されたでしょう。
府中市美術館では色々な展覧会で二人の油絵を紹介してきましたが、作品の鑑賞者からよく聞こえてきたのが、「かっこいい」という言葉でした。きっぱりとした水平線の上に広大な青空が広がる江漢の風景画、遠近法を使って果てしなく景色が続く様子を描いた田善の作品。どちらにも西洋の画法への興味がストレートに表れていて、西洋や明治時代以降の重厚で複雑な油絵とは異なる魅力を持っています。それが新鮮に、潔く感じられるのかもしれません。近代以降、「稚拙な段階の西洋画」というレッテルを貼られた二人の作品ですが、今、私たちが感じるような心地良さや、「きれい!」という感激こそが、江戸時代の人々が味わっていた趣に近いのではないでしょうか。
この展覧会では、油絵だけでなく、銅版画や、墨や在来の絵具を使った作品も紹介します。そして、二人の生い立ち、画家としての立場や環境の違い、目指すものの違いにも注目します。科学者であり文人でもあった江漢と、幕府老中もつとめた白河藩主松平定信のもとで黙々と技術を極めた田善。二人の違いが作品にどう表れているかも、大きな見所です。
江戸絵画ブームとも言われる昨今ですが、江漢や田善に興味を持つ人は多くはないようです。そのせいか、展覧会が開かれることは稀です。特に江漢の展覧会は、2001年に同館で開催してから一度もありませんでした。次はいつ開かれるか……。ぜひこの機会にご覧ください。
会期 |
2025年3月15日(土)~2025年5月11日(日)
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会場 |
府中市美術館
![]() |
住所 | 東京都府中市浅間町1丁目3番地(都立府中の森公園内) |
時間 |
10:00~17:00
(最終入場時間 16:30)
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休館日 |
月曜日 ※5月5日をのぞく |
観覧料 | 一般 800円(640円) 高校・大学生 400円(320円) 小・中学生 200円(160円)
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TEL | 050-5541-8600(ハローダイヤル) |
URL | https://www.city.fuchu.tokyo.jp/art/ |
「かっこいい」という、一見安直でとっつきやすい感覚を切り口としながら、中身は金子学芸員による膨大かつ充実度の高い研究内容。初めて洋風画を見る人にとっても司馬江漢と亜欧堂田善の魅力を余すことなく感じることができ、美術ファンに…readmore
3.0
会場の最初にある美術館の文章に笑ってしまいました。「過去洋風画に関する展示をやったが客でにぎわうことはなかった」と。なので今回「再挑戦」。会期終盤の土曜日に訪問しましたが、こと集客という意味では・・・再挑戦をお待ちしております。
内容としては、江戸時代に西洋画の影響を受けて①西洋画的技巧(遠近感等)を取り入れた絵、②油絵絵具のように西洋的画材を用いた絵、を紹介した展示です。
一般的に見慣れた日本画とも西洋画とも、似ていて非なる面白さがあります。
また、明らかに西洋絵画とは違う「洋風画のべたっとした色ののり方」(なんとなくお風呂屋さんのタイル絵のような)も私は好きなので、「過渡期」と片付けるのはあまりに勿体ない「時代の個性」を楽しみました。
さて、感想文タイトルに書いたことですが、この展示の題名は「かっこいい油絵」展ですが、図録の帯には『なぜ、洋風画はこんなに「かっこいい」のか』と書かれれています。油絵とは、油絵具で描かれた絵画です。しかし、洋風画とは「まだ油絵具等西洋画材が輸入されていない頃に陰影法・遠近法等西洋のテクニックを取り入れた絵画」を指しており、「油絵」と「西洋画」は全然イコールではありません。既にコンセプトがブレブレ。展示内容としては「かっこいい洋風画」の方が良かったと思いました(どこをかっこいいと主張しているのか?もまた微妙ですが。)。
秋田蘭画にもっと光を当てての「かっこいい洋風画」展、なんて次回如何でしょうか?府中市美術館さん。
3.0
展示の量も思ったより多く、充実した内容でした。
なるほど「西洋風とも日本風とも言えない」絵画です。独自に絵具を調合したり、絹に描いたりして醸し出される独特の風合いが魅力的です。
一般的に、西洋と日本ではモチーフの選び方や構図のとり方、背景に対する考え方の違いがあるというような説明があったと思いますが、当時の人が洋画を「遠くの見える絵」と表現したという部分には「なるほど」と思いました。
これから浮世絵の美術展へ行くときに、今回の洋風画を思い浮かべながら見ると、面白さが増しそうです。
4.0
司馬江漢と亜欧堂田善はそこそこ見てきたつもりでしたが、まずはこの二人が完全な同時代であることに気がついて、府中まで見に行く気になりました。というのも江漢が活躍したあとに、その後継者として田善が登場したように思い込んでいたためです。
歴史的には江漢は田沼時代の人で、田善は松平定信に取り立てられた人。しかし実態は、司馬江漢が1747年生まれで1818年没、亜欧堂田善は1748年生まれで1822年没。二人は同じ時代を生きた人でした。ただし、田善が松平定信に取り立てられたのは47歳。その後、長崎に行って銅版画を研究したことで、美術の世界にデビューしたわけで、かなり遅咲きの方だった。
司馬江漢と亜欧堂田善を、それぞれ単独で回顧展を見たことはあるんですが、それよりも、この二人を並べてみることで、双方の個性が際立った。江漢は浮世絵から秋田蘭画ときて文人画、洋風画を描いてきて、絵は巧みだ。一方の田善は、画家と言うより職人で、余技としての絵画という気がする。江漢と田善の違いがよく分かって面白い展示でした。
えーと撮影不可。展示替えあり。図録ありでした。
5.0
4月10日に見に行った展覧会
司馬江漢と亜欧堂田善「かっこいい油絵」府中市美術館。
前期後期展示入れ替え作品がたくさんあるので、前期展示中にまず行く。
やはり珍妙で、すっとぼけてて、もったりして下手で模索していていい。
ミュージアムショップで本「もっと知りたい司馬江漢と亜欧堂田善」を買うと、ポスターがもらえるという。
著者は今展覧会企画者。図書館で借りて読んだし、展覧会図録と作品写真も表紙も重なっているがポスター目当てで買う。
板橋区立美術館の歸空庵コレクションの図録も古本で買ったところだった。歸空庵コレクションからや、この前千葉市美術館で見た摘水軒コレクションからも出品されていた。
後期も行く。
企画展に2時間以上見て、常設展を30分で見て閉館時間になる。
武蔵小金井から吉祥寺の画廊に行くつもりだったが、帰る。
5.0
府中市美術館恒例の春の江戸絵画まつり。今年はかっこいい油絵という少々ニッチな展覧会。正直そこまで期待せずに軽い気持ちで出かけました。が!やはり府中市美術館!とても楽しい充実した内容で時間&体力が足りなくなりました。今まで何度かは見ている江漢の油絵でしたが、改めて気持ちの良いそして面白い油絵でした。田善は私は今回が初でした。この方もとても良かったのですが人の描き方が何ともユーモラスだったりしてとても面白かったです。今回の展覧会は銅版画もあったり、同じ江戸時代に生まれた作品も多数展示されていてそれらと比較して見ることができてよかったです。前後期で入れ替えがあるとの事。後期も行ければ頑張って行きたいです。
4.0
司馬江漢と亜欧堂田善は江戸時代に日本画や浮世絵を抜け出て西洋画を取り入れた二人です。よほど好奇心の強い二人なのでしょう。二人とも西洋の物まねでない独特の世界をつくり上げています。初期の作品は物まねから始まっていても後期の作品は何とも言えない独特の作品に仕上がっています。まだあまり注目されていませんが今の日本にとってこのようなチャレンジ精神こそ必要だとおもわれます。
5.0
202503
静かで、見やすく、程よい数。
展示の途中にあった「たのしい江戸絵画入門 「推し」の魅力に漫画で迫る」を購入してしまいました。
2階に三沢厚彦の彫刻があり、とても惹かれました。
あっ、今回の展示とはべつでしたね。
4.0
江戸時代中期、西洋画の中にある異質な要素を面白いと思い創作に取り入れた司馬江漢と亜欧堂田善の洋風画。
明治時代に入り、本場に渡り本物を追求した洋画の流れとはそもそも異なる。あくまで、取り入れ。浮世絵や中国風、或いは円山四条派といった画風を下地に。消失点がはっきりと描き込まれた遠近表現、使い分ける写実性、影や背景の描き込み、当時の独特の製法による油彩絵具(今では大いに変色)、といった西洋画の要素が加わる。こうして作られた西洋「風」の画面の世界に、独特の趣きや特異性を感じます。「風」ながら、素晴らしいオリジナリティ。主催者側は「かっこいい油絵」のコピーを付してますが同感、実に「粋」です。
洋風画とともに、二人の銅版画の展示作品は見事。併せて制作プロセスに関する解説が映像も含めて充実し、役立ちます。
メインビジュアルの田善《両国図》をはじめ、代表作が大集結。当館も良品を所蔵してますし、田善の故郷の須賀川市立博物館や多数の個人蔵作品が取り揃う。東京美術のもっと知りたいシリーズの著者で、長年洋風画を研究してこられた当館学芸員金子信久氏の気概・造詣の賜と感銘しました。おそらくは、このジャンルの企画展として一つの集大成となることでしょう。
図録あり、価格三千円。市立美術館の予算制約の中で、紙質・装丁・色再現など秀逸です。金子氏による、如何に図録を頑張ったかの説明コーナーもあり、ご愛敬ですが共感大です。
更にトリビアですが、江漢・田善の年譜も作品リストと併せて配布する心意気。
当館のコレクション展。何気に毎回、見応えを感じます。今回訪問では、鹿子木孟郎3作品、正宗得三郎5作品あたりを推しとします。
5.0
独自に調合された絵の具で軸に描かれた洋風画を堪能。日本画にも西洋油彩画にもない色味とマチエールは必見です。司馬江漢の南蘋派時代の作品が多数出てきいてこちらも良い!眼鏡絵(銅版彩色画)は実際反射式レンズ装置で観賞出来る展示も興味深いです。展覧会は江戸絵画の諸相として、やまと絵、狩野派、琳派、肉筆浮世絵、文人画、南蘋派、秋田蘭画の佳品も展示され得した気分です?
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