4.0
作品が暴く美術館空間の妙
豊田市美術館は最も好きな美術館。夾雑物が視界を遮ることもない小高い丘という立地に恵まれ、巨大な構造物でありながら、規則正しい幾何学モチーフが端正な佇まいを醸し出して、威圧感やモニュメンタルな自己主張を感じさせない。展覧会への高揚感を静謐感で抑制し、ゆったりとした鑑賞体験へ誘ってくれる稀有な建築だと思う。
玉山拓郎:FLOORの展示は、その美術館空間を、人が歩く素材であるカーペットで縦横無尽に満たした。鑑賞者は、足跡が印されるべきカーペットを辿りながら各展示室を巡る中で、壁の中にも貫入する作品の行方を想像し、美術館空間の構造を理解する。余計な演出もない極めてストイックな作品だけに、自然光の移ろいを確かめることも含めて何度も探検したくなる。豊田市美術館の魅力を再発見させてくれる素晴らしい作品だった。