特別展「野田弘志 真理のリアリズム」
奈良県立美術館|奈良県
開催期間: ~
- VIEW1413
- THANKS2
新聞連載小説「湿原」の挿絵原画が106点、ひと部屋に並ぶのは圧巻
写実絵画の騎手、野田弘志さんの回顧展とでもいうべき大規模な展覧会である。野田画伯のごく初期の作品(写実でないのに少し驚くが)から、近作まで、ほぼまんべんなく見ることができる。全国を巡回中で、私は姫路(終了)と今回の奈良で見た。大作等、いくつか作品の入れ替えがあるように思うが、それ以上に2か所で展示会場の特質のためか、印象がだいぶ異なった。
奈良展は、6室に分かれて展示が構成されている。第1室は、若い頃の作品が並び、第2室は画業初期の「黒の時代」の作品群(フライヤーに用いられた「やませみ」もここに展示されている)、第3室が風景画、第4室に、骨、蜂の巣、鳥の羽等を描いた作品群、第5室に聖なるもの、崇高なるものシリーズ等の絵画が並ぶ。詩人・谷川俊太郎氏や保木(画伯と縁の深い写実専門美術館であるホキ美術館創始者)の全身肖像画が並ぶ。2階展示室はここまでだが、全体にやや照明が暗く、とくに黒の時代の作品は詳細がよくみえなかった。姫路はだいぶ明るかったのと対照的(ただ、姫路でみたときに、「やませみ」はなかったと思う)。
1階におりると、最後の第6室。これは部屋に入って驚いた。壁全面に、朝日新聞に連載された小説「湿原」の挿絵原画だけを展示する部屋である。正面の長い壁に84点(連載72回から537回まで)、左右にそれぞれ10点ほどと、全部で106点が上下2段に並ぶ。それに、創作ノートや、取材時の写真等も部屋の中央に置かれたガラスケースに展示され、主人公厚夫と和香子にモデルがいるとのことで、その写真もあった。もちろん、連載回数全部では到底なく、行方不明の原画も多いということだが、それでもこれだけの点数が並ぶのは壮観である。実際に連載された当時に読んでいた者からすれば感慨も深い。野田画伯のある意味で画業のハイライトでもある湿原の原画を最後にまとめて見せる、その演出はこころにくく、パーティションで壁面をつくり、回って歩く展示方法の姫路とは大きく印象を異にする(姫路は、おそらく巨大な肖像画をメインと考えていたのではないか)。いくつもの顔をみせる野田画伯の画業をどのような角度からみせるのか、同じような作品でも展示のしかたで違って見えることを学んだ。
- THANKS!をクリックしたユーザー
- Audreyさん、morinousagisanさん