杉本博司 絶滅写真
開催期間: ~
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この展覧会を見たら、銀塩写真は絶滅しないと信じたい
この回顧展は、観者にとっての回顧展でもあります。
これまで杉本氏の写真を、長い時間をかけて、繰り返し断片的に見てきました。そんな私のような観者にとって、本展は、杉本作品とのお付き合いを、答え合わせする機会になりました。回顧は懐古に非ず。見せ方が新しく、新作もあり。杉本作品は、何度見ても新しい印象を抱きます。
杉本氏の写真は、コンセプチュアル・アートの現代美術です。
これ、今や多くの人の認識でしょうが、私自身は廻り道しました。最初に見た杉本氏の写真作品はジオラマのシロクマ。おそらく、数十年も前に雑誌で(今はなき〇〇カメラ系?)だと思うのですが、当時はジオラマだとは気づかず、星野道夫さんのようなネイチャー系の写真作品として記憶に残りました。恥ずかしくも、完全にダマされていました。
後に、ジオラマシリーズや海景シリーズを色々な場所で見るなかで、杉本氏の制作の意図やプロセス、蛇腹大判カメラ&広角レンズの技法、ニューヨークで開花したキャリア、といった背景を知る。それと並行して、彼の作品がコンセプチュアル・アートの文脈で見えてくるようになりました。
本展は、杉本氏の写真制作の全体像を俯瞰する構成になっており、そのため、コンセプチュアルな要素がよくわかります。
本展の会場は、徹底轍尾のトータルコーディネーションが印象的です。
作品数は約60点、これが各章にテーマ毎に割り振られ、ストーリーを構成するにギリギリの塩梅です。各テーマではもっと見たい、でも全体としては丁度良い、の量感でしょう。
作品・額装の仕上げ、壁面・照明の統一感、動線に合わせた作品配置、と、大作家には僭越ながら見事です。巨大な作品サイズ、マットな質感の額、外枠の中に内枠を入れる二重構造のマウンティング。銀塩プリントの質感を引き出す反射のないガラス(照明も)はどれだけ高価なものなのか。隅々まで、実にスキがない。
海景の部屋は、没入感たっぷりのシアターです。
円弧型の壁面に7作品。左から右に、初期のカリブ海(1980年)から最近の江之浦(2025年)まで年代順に、海面が一直線に面一で並ぶ。上下のトーンも、最初のカリブ海は明るい空&暗い海のシャープなコントラスト。それが、中央では空と海が淡く混濁し、最後は空と海の明暗が上下逆に、と展開。コンセプチュアルです。背後の壁際に設置された木製ベンチ(これも何気に杉本作品?)に座り、しばし時を過ごすと。まるで実際に、海辺の岸壁から移ろいゆく水平線を望み、波音が聞こえてくるような錯覚を感じます。素晴らしい空間です。
劇場シリーズの華と廃。
華はパリ・オペラ座。天井桟敷から見下ろす画角で撮影され、画面下部にはステージの白い銀幕、画面上部には名物のシャガール天井画、と両方に視線を誘導する作品です。シャガールへの敬意(?)で両立させているけど、ピントや露光計算、暗室ワークも含めて、相当な力技だと妄想します。
一方の廃は、米国ラストベルトの荒廃したパレス・シアター。スタッフ総出で埃まみれになってセットアップしたのでしょうね。この作品、額が他と違うことに気づく。暗くてよく見えないが、錆びついたような、苔が生えたような、表面加工が施されています。このこだわりが嬉しい。
コレクション展3階にも劇場・海景の作品あり。
1970年代後半~90年頃の作品だが、他所でもよく見るサイズで、回顧展よりはかなり小さい。プリント自体も古いものなのでしょう。ネガが同じでも、焼きが明らかに違う。繊細で細部に立体感があり、ニュアンスが豊か。寄って観るのに良い。これ、おそらく印画紙の違いだろうなあ、昔は色んなバライタ印画紙が入手できたのに、等々と黙想します。
銀塩写真は絶滅するのでしょうか。
今でもテンペラ絵画をやってる人がいるし、と思いつつ、写真の場合は工業製品に頼らざるを得ない。フィルムや現像薬品の生産はどうなるの。ましてや、印画紙の選択肢は。銀塩のもつ独特の表情に魅せられる人がいる限り、細々ながらも消えはしないと信じたい。杉本氏の、極限的な技術的完成度の銀塩表現をみて、感化され、やってみようと思う人が増えることを祈ります。
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