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初めて化石を「美しい」と思わせてくれた。

「Sony presents DinoScience 恐竜科学博 ~ララミディア大陸の恐竜物語~」へ行ってきました。

こちらは恐竜の化石を展示する博物館のような特設展示。恐竜全盛期といえば白亜紀ですが、あえて「ララミディア大陸」に限定することでより具体的な展示と説明がされています。ソニーグループ株式会社が協賛しているのでリアルな恐竜の様子が伝わる展示パネルや、ショートストーリーの映像が見所です。

また、化石の目玉は日本初の「レイン」というトリケラトプス。

この「レイン」はそれまで小部分しか見つかっていなかったトリケラトプスが、80%以上、しかも皮膚まで綺麗に残っていたため会場内では「美しい化石」として紹介されていました。


とにかく企画の面白さ&工夫に感動。これまで行った博物館では、化石と説明パネルが展示してある動きのない展示しか見たことがありませんでした。でもこの展示はすごい!2章では「レイン」の化石を元にトリケラトプスの子供の骨格を学者たちが想像したものを使って、ストーリー仕立てに様々な恐竜の化石を鑑賞できます。

幼いトリケラトプスが、ふとしたきっかけで群れからはぐれ、薄暗い森にさまよい込んでしまう。危険がいっぱいの外の世界で、ひとりぼっちの彼は生き残れるのか…?途中で様々な恐竜と出会い、命の危険にあいながらも冒険が続きます。

まず、ストーリー仕立てで化石を鑑賞するということが初めてで、とても楽しい。恐竜と言えば小学生の男の子が大好きなイメージで、家族連れもたくさん来場していましたが、この展示方法は子供も集中して観やすいのではないでしょうか。

また、とても面白かったのがストーリーシーンを再現するポーズで化石を展示していたことです。草食性のダチョウ型の恐竜が肉食恐竜から逃げるシーンを再現するため、かなり左に曲がっている化石などは、見た瞬間に思わず声が出てしまいました。命からがら、左に旋回する一瞬を捉えたポーズは、彼らがどのように動いていたかを感じさせます。企画側として綺麗な標本のような状態で展示したい!という思いもあるのではないでしょうか?それをあえて曲げて展示するアイディアも、それを実現させる技術を持った展示業者も素晴らしい。大げさかもしれませんが、この展覧会に携わった様々な人たちが「いいものを作りたい」という気持ちと息が合わさって、素敵なものをつくってくれたんだ、と感じました。企画だけが意気込んでも、あえて化石を曲げて展示する技術を持ち、難しい要望やアイディアを受け入れる企業がなければ成立しません。単純な展示の面白さだけでなく、こんな展示を実現させる技術にも驚かされます。

また展示中の合間合間に影絵で少年トリケラトプスがトコトコ壁を歩き回っているのがとても可愛い。短い旅ですが、彼に感情移入して思わず「がんばれ!」と言いたくなります。

途中でティラノサウルスが少年トリケラトプスのあとを追いかけるシーンがあり、あれれ?なんだか不穏な予感…


次の3章では群れに帰った少年トリケラトプスのショートストーリーを鑑賞します。

ソニーが製作したリアル感満載の映像なので映画のようなクオリティが楽しめ、しかも振動エリアでは、恐竜が歩く地響きなども体験できます。無事に親のもとへ戻れたと安心したのもつかの間、前章の不安が現実に。トリケラトプス親子をティラノサウルスが襲います。2匹の運命やいかに…


映像が終わると最後の章へ。映像の世界観を引き継ぎ、ティラノサウルス「スタン」とトリケラトプス「レイン」の化石がお互いを睨むように向かい合います。ティラノサウルスは、正に今食いつこうと口を大きく開けて大声をあげている。トリケラトプスは、頭の角を相手に向けて、隙を見せまいと必死に身を守っている。緊迫した一瞬を見事に表現していました。周りのパネルには、「レイン」がいかに希少性が高く、奇跡的な発掘であったのか、画像データなどを流して発掘から組立までの流れを説明しています。


全ての章を終えた少し先に、携わった人たちのインタビュー動画が流れていました。これまで門外不出とされ、ヒューストン自然科学博物館でのみ展示されていた「レイン」。館長がその思いと、コロナの影響で来日して実物の展示が観られず、残念だと話している動画。私はその動画を見て、こんなに素晴らしい展示をぜひ観てほしかったなぁと心の底から思いました。少し紹介されていたヒューストン自然科学博物館での展示は、私がこれまで観たような動きのない綺麗な「標本」の展示でした。1つの展示会をストーリー仕立てにして、そのシーンに合わせて化石から躍動感を感じるような展示は、きっと館長にも感動と発見を届けただろうになぁ。日本ではこんなすごい展示をしたんだよ!って体感してほしかったです。この展覧会で初めて化石を「美しい」と感じました。そしてこの奇跡の化石「レイン」にとても愛着が湧きました。

こんなにたくさん人が来場してみんなが興奮して鑑賞できているのは、つくった人たちの「いいものを作ろう」という気持ちがこの展覧会にダイレクトに反映されているからなんでしょう。素晴らしいものをつくって、人に驚きやわくわくを届けている彼らは、アーティストとは呼ばないかもしれませんが、ものを創造して人を感動させられる名もなき作り手なんだと感じました。それって、すごいことですよね。展示の内容はもちろん、顔が見えない「人の仕事」や「仕事の質」についても深く感動しました。


いつかまた「レイン」に会いたい。ヒューストン自然科学博物館に行って、久しぶりだねと声を掛けたい。その時「レイン」は何と返してくれるか?声を返してくれていると感じられるか?私たちはきっと何年も先に再会するだろう。「レイン」は変わらないが、私は生きている者として、多くの時間を経てあなたに会うだろう。そのとき、私はあなたから何を感じるんだろう。きっと今日とは違うことを感じ、今日のことを思い出す。だからあなたも、成長した私を楽しみにしていてください。


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momo
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