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FEATURE

纏うことで、歴史と記憶をつなぐ
シアスター・ゲイツとHOSOOが織り上げた「Glorious Robe」

「Theaster Gates:Glorious Robe」が、HOSOO GALLERY(京都)で2026年8月30日(日)まで開催

内覧会・記者発表会レポート

展示風景
展示風景

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構成・文・写真:森聖加

歴史と記憶が、日本の伝統の布に織り込まれる。現代美術家シアスター・ゲイツと京都・西陣の老舗テキスタイルブランド HOSOO の協働による展覧会「Theaster Gates: Glorious Robe」が、2026年4月11日、HOSOO GALLERYで幕を開けた。アメリカにおける黒人解放の歴史と、西陣織1200年を超える技術を交差させながら、衣服を思想の器へと変える試みだ。異なる文化圏に刻まれてきた記憶はいかにして一枚の布の上で出会い、未来へと開かれていくのか。その可能性を示している。

開催情報
展覧会「シアスター・ゲイツ:Glorious Robe (グロリアス・ローブ)」
会期:2026年4月11日(土)〜8月30日(日)
開館時間:10:30–18:00(祝日を除く、入場は閉館の15分前まで)
会場:HOSOO GALLERY 入場料:無料
https://www.hosoogallery.jp/exhibitions/glorious-robe/

シアスター・ゲイツとHOSOO、必然の出会い

展示風景。作陶による「Vessel(器)」は実用品にとどまらず人間の精神、歴史、文化などを
内包するものとして、ゲイツは創作において繰り返し、制作してきた
展示風景。作陶による「Vessel(器)」は実用品にとどまらず人間の精神、歴史、文化などを
内包するものとして、ゲイツは創作において繰り返し、制作してきた

アフリカ系アメリカ人の現代美術家、シアスター・ゲイツは、2024年に日本初個展「シアスター・ゲイツ展:アフロ民藝」(森美術館)を開催し、多くの支持を集めた。2004年の愛知県常滑市での滞在制作を契機に、日本との交流を深めてきた彼は、日本の自然観や宗教的思考を自らの表現に取り込みながら、世界を舞台に活躍を続けている。

ゲイツの「アフロ民藝」は、日本の民藝運動とアメリカで1960年代に起こったブラック・イズ・ビューティフル運動とを重ね合わせ、「抵抗」と「自らの美の肯定」を謳うマニフェスト。西欧的価値観や安易な工業化に抗いながら、見過ごされてきた手しごとと黒人文化の美を掘り起こしてきた。

シアスター・ゲイツ。背景に掛かる「Banner」は、両者の協働の契機となった森美術館での個展
「シアスター・ゲイツ:アフロ民藝」に出品されたものを再制作・再展示している
シアスター・ゲイツ。背景に掛かる「Banner」は、両者の協働の契機となった森美術館での個展
「シアスター・ゲイツ:アフロ民藝」に出品されたものを再制作・再展示している

テキスタイルブランドのHOSOOとゲイツの出会いは、この2024年の展覧会にさかのぼる。HOSOO代表取締役社長 細尾真孝(ほそお まさたか)は、1200年にわたる西陣織の技術を「過去の遺産」ではなく、「未来を構想するための資源」として再定義してきた。

細尾はこう振り返る。「私が中学生のころ、機織りの音が町から消えつつありました」。かつて2万軒を超えた西陣の織元は、現在では約10分の1にまで減少。十二代目は京の伝統が直面していた流れを転換し、世界のトップメゾンやアーティストと協働するなど革新的思想のもとに、伝統の布に新たな価値を生み出してきた。両者は、文化のアーカイヴを美意識と技術によって再生し、未来へと編み直す思想で共鳴している。2人の対話の成果が今回の展覧会なのだ。

ブラック・ルーツと日本の服飾文化が交差するとき

「Dashikimono(ダシキモノ)」。ダシキをはじめとするアフロセンチックな
衣装の象徴的な例として、スティーヴィー・ワンダーがアルバム『Talking Book』(1972年)の
ジャケットで着用した民族調の衣装が挙げられる
「Dashikimono(ダシキモノ)」。ダシキをはじめとするアフロセンチックな
衣装の象徴的な例として、スティーヴィー・ワンダーがアルバム『Talking Book』(1972年)の
ジャケットで着用した民族調の衣装が挙げられる

「Theaster Gates: Glorious Robe」は、日本とアメリカ、なかでも黒人文化という異なる2つの文化圏に根差した思想を、対話を重ねながら〈祝福の衣〉というかたちへ織り上げた展覧会である。その中心的存在が、ゆったりとしたシルエットで身体をやさしく包み込む「Dashikimono(ダシキモノ)」だ。名前のとおりに、アフリカの伝統衣装「ダシキ」と日本の「キモノ」を混合させた唯一無二のスタイル。大麻糸のみを用いたHOSOO Artisanal Hemp が、約1万年の歴史を持つ麻を別次元の衣装へと導く。

ダシキは、アメリカのアフリカ系の人々のルーツとされる西アフリカの民族衣装に起源を持つ。1960年代の公民権運動の時代、ブラックの人々は人間としての諸権利を求めた。そのさなかに広がったブラック・イズ・ビューティフル運動の中で、自らの「美」を肯定するファッションとしてダシキを着用するようになったのだ。主流派から押し付けられてきた価値観に抗し、「ブラック」であることの美しさへの目覚めが、黒人の誇り(ブラック・プライド)へと発展、やがて政治的主体性を求めるブラック・パワーへとつながっていく。アフロヘアとともに黒人の文化的覚醒を体現する象徴的アイテムなのである。

目を凝らすと繊細な帯紋様が浮き上がる「obi」。銀、金、赤で
ブラック・パワーを象徴するフィスト・マークを織り込む
目を凝らすと繊細な帯紋様が浮き上がる「obi」。銀、金、赤で
ブラック・パワーを象徴するフィスト・マークを織り込む

「Dashikimono」の近くには、西陣織の要ともいえる帯に、人々が抗議の場で突き上げるフィスト(握りこぶし)を大胆に織り込んだ作品が展示されている。「Obi(オビ)」と名付けられた黒と白の布には、HOSOOの約2万点におよぶ帯図案のアーカイヴから引用した紋様に、ブラック・パワーの政治的象徴として広く共有されてきたフィスト・マークを重ねた。さらにそこには、マーティン・ルーサー・キング牧師やマルコムⅩ、メドガー・エヴァーズといった、抵抗のさなかに命を落とした黒人解放運動の指導者たちの命日を刻む。不平等な世の中に異議を唱え、革新を求めた人々の声がここでは布の上に視覚化されている。

「Obi」は、「一九六五年二月二十一日」(マルコムⅩの命日)などブラック・レジェンズの命日が
帯をお太鼓結びにしたときに見えるよう、計算して配置
「Obi」は、「一九六五年二月二十一日」(マルコムⅩの命日)などブラック・レジェンズの命日が
帯をお太鼓結びにしたときに見えるよう、計算して配置

日本との交流の第2幕。最新アーカイヴ・プロジェクトも日本初展示

会場には、何かを朗読する女性の声が響いている。「われわれアフリカ大陸の兄弟たちが自由のための闘争においてかちとった成功を、アフリカの旅行中に見聞きする中から、この組織を支える思想を得た」。声の主は、石谷春日(いしたに はるひ/89)。朗読の内容は、急進的黒人解放運動指導者のマルコムⅩが1965年1月7日に行ったスピーチ「1965年における自由への展望」の一節だ。

シアスター・ゲイツと石谷春日(右)
シアスター・ゲイツと石谷春日(右)

これは、彼女のパートナーであったジャーナリスト、故長田衛(ながた えい)が翻訳し日本で発表したもの。本サイトではすでに報じているが、ゲイツはやはり2024年の日本初個展の際に長田と石谷が築いたマルコムⅩと黒人活動家たちに関する著作、翻訳その他の資料に出会った。2人は1965年2月、ニューヨーク・オーデュボン舞踏場でのマルコムⅩ暗殺に遭遇した数少ない日本人であり、長田が日本でその第一報を伝えた。ゲイツは日本における「ブラックネス」の軌跡を克明に伝える資料に森美術館での個展をきっかけに出会った。以来、この貴重な資料を引き継いで管理し、アーカイヴに新たな生命を吹き込む活動を行っているのである。

「マルコムⅩや黒人活動家の真実をゆがめず伝えたい。
多くの若い方々に資料をご覧いただく機会が得られ、うれしく思います」と石谷
「マルコムⅩや黒人活動家の真実をゆがめず伝えたい。
多くの若い方々に資料をご覧いただく機会が得られ、うれしく思います」と石谷

長田&石谷のアーカイヴは、2025年2月のゲイツのロンドンでの個展「1965 マルコム・イン・ウィンター:翻訳の試み(1965 Malcolm in Winter: A Translation Exercise)」で初公開された。そして本展は、同資料の一部の日本初公開の機会となった。つまり、「Theaster Gates: Glorious Robe」は、ゲイツが日本で思いがけず遭遇したブラック・アクティビストに関する資料がそもそものスタート地点にある。

手前左がジャーナリストの長田衛がマルコムⅩ暗殺の第一報を伝えた
『日本読書新聞』1965年3月8日号
手前左がジャーナリストの長田衛がマルコムⅩ暗殺の第一報を伝えた
『日本読書新聞』1965年3月8日号

マルコムXが説いた“白人中心の美の基準からの解放”、そして“アフリカン・ルーツの肯定”といった理念が、ゲイツの詩情あふれる表現で「Dashikimono」や「Obi」ほかの作品に結晶した。個人の記憶、集合的な歴史、そして芸術的再創造が、一枚の布の上で静かに交差する。遠く離れた時間と場所を乗り越えて、私たち日本人と黒人コミュニティとの交流のありようを、静かに、しかし力強く伝える展示をぜひ体感してほしい。

施設情報
HOSOO GALLERY |ホソオ ギャラリー
住所:〒604-8173 京都市中京区柿本町412 HOSOO FLAGSHIP STORE 2F
交通案内:烏丸線・東西線の烏丸御池駅/6番出口より徒歩2分
開館時間:10:30–18:00(祝日・年末年始を除く)
休館日:祝日*GW中は祝日も無休
入場料:無料 Tel:075-221-8888
https://www.hosoogallery.jp/access/

森 聖加

フリーランス編集者、ライター。書籍『歌と映像で読み解く ブラック・ライヴズ・マター』の編集、クエストラヴ著『ミュージック・イズ・ヒストリー』の監訳を担当(藤田正との共監訳/いずれもシンコーミュージック・エンタテイメント刊)などで、音楽を中心とするポップ・カルチャーの視点からアメリカ黒人の歴史と文化を発信。ほかにアート、建築など分野を超えクロス・カルチュラルの視点でわかりやすく伝えることをモットーに取材を続ける。

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