東京スカパラダイスオーケストラと「アート」。
「NO BORDER」で進み続けた37年の軌跡
インタビュー Vol.1|展覧会「TOKYO SKA HAS NO BORDER」WALL_alternative

前列左から、小林健太、大野修、vug、島影圭佑
Photo by ryota haraguchi
今年でデビュー37周年を迎える東京スカパラダイスオーケストラ(以下、スカパラ)は、日本を代表するスカバンドとして、第一線で活躍し続けている。そんな彼らの37年の軌跡を「アート」と「リサーチ」から再解釈する展覧会「TOKYO SKA HAS NO BORDER」が、WALL_alternative(東京・西麻布)で開幕した。
彼らの代表曲の1つ「Paradise Has NO BORDER」は、国や文化、世代、価値観など、あらゆる「ボーダー(境界)」があるこの世界において、音楽が鳴っているところだけはボーダーを越えた「パラダイス」だという想いが込められている。本展では、バンドの軸となる「NO BORDER」をキーワードに、リサーチチームと、3人のアーティストが独自の解釈で「スカパラ」を表現する。
本記事は前編と後編に分け、展覧会の紹介と、実際の展示を鑑賞した直後のスカパラメンバーへの取材レポートをお届けする。
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- 「TOKYO SKA HAS NO BORDER」
開催会場:WALL_alternative
開催期間:2026年8月11日(火・祝)〜8月29日(土)
東京スカパラダイスオーケストラ
1989年デビュー。ジャマイカ発祥の「スカ」をベースに、様々なジャンルを融合させた唯一無二のサウンド「トーキョースカ」は、国内に留まらず世界各国で人気を博す。2013年、アメリカの3大フェスの1つ「コーチェラ」に日本人として初めてメインステージに出演するなど、これまで世界32か国で公演を果たし、海外の音楽フェスにも多数出演。2022年には東京五輪の閉幕式に出演。「Paradise Has NO BORDER」(2016年)は、キリン「氷結」のCMで、さかなクンや志村けんらなどの共演が話題となり代表曲となるほか、令和6年度の小学校6年生の音楽の教科書に掲載。現在のメンバーは大森はじめ(パーカッション)、沖祐市(キーボード)、加藤隆志(ギター)、GAMO(テナーサックス)、川上つよし(ベース)、NARGO(トランペット)、茂木欣一(ドラム)、谷中敦(バリトンサックス)の8人。
リサーチとインタビューでひも解く「共同体としてのスカパラ」

「リサーチ」では、島影圭佑(キュレーター/リサーチャー)を中心としたチームが、過去の書籍や本展のために行われたインタビュー映像などを交え、「スカパラ」の本質を浮かび上がらせる。

バーカウンター横の壁に掲示されたダイアグラムは、インタビューの内容を可視化させたもので、「最も『Paradise Has NO BORDER』を感じた瞬間は?」という質問に対して8人の回答を示している。この星座表のような図は、木の年輪のように、中心をデビューの1989年とし、1年ごとに同心円状に円が広がり、それぞれの円周を12ヶ月で区切り、メンバーが回答したエピソードの年月を表の中に示す。ヨーロッパツアーを挙げるメンバーもいれば、意外にも国内での出来事を答えるメンバーもいて、「NO BORDER」の捉え方も8人8様だ。

またインタビューでGAMOが語った「動的平衡」から図示されたこの図は、新陳代謝を繰り返しながら常に新しく進み続けるバンドの在り方、その核となる信念を表す。37年の歴史の中では、メンバーの死別や脱退など、辛い逆境の時期もあり、それに伴いバンドの構成も度々変化してきた。あるいは2001年より始まり、今ではバンドの重要な活動となっている「歌モノ(=外部のアーティストをボーカルに迎えた楽曲)」では、ゲストのカラーに合わせた楽曲を制作するため、毎回「動的平衡」的な生まれ変わりを繰り返し、「スカパラ」という生命体を維持している、というメタファーが示されている。

その他に、メンバー全員のインタビュー映像の近くには、映像の中で言及されているライブなどに関連する資料として、当時の雑誌や書籍などが展示されており、彼らの歴史にアクセスできるようになっている。雑誌に掲載された当時の写真や、バーカウンターの後ろの壁に映し出された映像などは、まるでタイムカプセルの箱を開けたように、当時の時代の空気感まで漂い、スカパラの「現在」と「過去」が交差する。

3人のアーティストが表現する「スカパラ」
今回、3人のアーティストが本展のために作品を制作したが、ギャラリーに入ってまず目に飛び込んでくるのが、白い半身像の彫刻だ。ブリコラージュの手法で、主に廃材などを使った作品を制作する大野修(おおの・しゅう)は、スカパラが結成当初から貫くスーツ姿に、兜をかぶる半身の“スカパラ像”を制作した。兜は谷中敦がライブのオープニングで必ず言う「戦うように楽しんでくれ」というメッセージから着想を得ており、右手でクリーチャーを握るのは、スカパラが30周年を記念したベストアルバム『TOKYO SKA TREASURES 〜ベスト・オブ・東京スカパラダイスオーケストラ〜』で大友克洋が書き下ろしたジャケットデザインがオマージュされている。


顔の部分は木彫だが、他は段ボールや廃材、おもちゃなど身近なものを寄せ集め、最後に白一色に塗る。

大野は、その他にスカパラメンバーが実際に使用していたスティックやドラムヘッドを組み合わせた作品も制作した。作品の数か所に、振動に反応するセンサーを取り付け、近くで音がすると、空気の振動に反応し、取り付けられたモニターに波形が表示されるようになっている。会場内で流れているスカパラメンバー(大森、谷中、川上)セレクトの音楽や、近くのインタビュー映像の音などもキャッチし、波形で音を可視化させる。実際に使用されたものというだけあって、スティックはあちこちが傷んでいる。スカパラサウンドの痕跡そのものだ。

昨年「MEET YOUR ART FESTIVAL 2025」ですでにGAMOとコラボレーションの経験がある小林健太は、2023年のニューヨーク公演の写真などを組み合わせ、小林の代表作《smudge》シリーズで用いられる手法(Photoshopの指先ツールで写真のピクセルを引き延ばす手法)で構成した作品を2点展示する。小林は、「昨年のイベントの時、自身のデジタルな表現とサックスの生演奏がどう融合するのか想像がつかなかったが、実際にやってみると、そうしたデジタルな表現も取り込む(懐の深い)感じがした」と語る。作品では、元の写真の色味(公演時の照明の光の色)を基に、スカパラの音楽のグルーヴ感を感じさせる流れを画面の中に創り出した。

そして、ストリートを原点とするアーティストvug(バグ)は、3点のイラストと壁画を制作した。一見するとスカパラを直接的に示す要素は見受けられないように思える。一連の作品は、vug自身が感じる「NO BORDER」を作品にしたもので、一番下の作品は、スカパラには明確なリーダーが存在せず、全員で話し合って決めるというスタイルから着想を得た作品だという。
展示を見た谷中敦は、「自分たちの楽曲には、『天空橋』や『SKA ME CRAZY』といった無邪気な曲があるけど、その雰囲気を感じた」と話し、NARGOは「無邪気さが突き抜けている。めちゃくちゃ明るくて好きな作品」とコメントするように、そのキャラクター性、ポップさは本展の中でも随一。


それぞれスカパラの「スカパラらしさ」とは何か、という問いと、自身の表現を掛け合わせて新しい作品が生まれている。ここでしか出会うことのできない「スカパラ×アート」のコラボレーションは、アーティストたちにとっても刺激的な機会となったようだ。
展覧会オリジナルメニュー&ドリンク

併設されたバーカウンターでは、展覧会限定のスペシャルメニューも用意されている。ドリンクは、スカパラが2003年に行ったヨーロッパツアーで、バスの中で箱ワインを買って飲んでいたというエピソードから、当時ツアーで回った国などゆかりのある土地の箱ワインが用意されている。銘柄は同じではないが、スカパラのメンバーが味わった国々の味を感じたい。

「実際はもっと大きいの買ってた」(谷中)と嬉しそうに話す。


バーの後ろの壁には、ヨーロッパツアーの映像が映し出されている。箱ワインと共に鑑賞すれば、気分は「パラダイス号」の一員だ。
後編では、プレス内覧会のレポートとスカパラメンバーへのインタビュー をお届けする。