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FEATURE

アール・デコ建築の旧朝香宮邸で見る
ルーシー・リーの魅惑の器の世界

「ルーシー・リー展―東西をつなぐ優美のうつわ―」が、東京都庭園美術館にて2026年9月13日(日)まで開催

展覧会レポート

東京都庭園美術館で開催中の「ルーシー・リー展―東西をつなぐ優美のうつわ―」新館4章展示風景より
東京都庭園美術館で開催中の「ルーシー・リー展―東西をつなぐ優美のうつわ―」新館4章展示風景より

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イギリスを代表する陶芸家・ルーシー・リー(Lucie RIE /1902-1995)。目の醒めるような鮮やかな青やピンク、黄色の器は、まるで花が満開に咲くかのような佇まいで、見る人の心をひきつける。日本でも彼女の作品は広く親しまれ、1989年に本格的に紹介されると、これまで2010年、2015年に大規模な展覧会が開催されてきた。

それから約10年、東京都庭園美術館で開幕した特別展「ルーシー・リー展―東西をつなぐ優美のうつわ―」では、国立工芸館に寄託された井内コレクションをはじめ、国内のルーシー・リーの作品が集結する。

展示風景
展示風景
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「ルーシー・リー展―東西をつなぐ優美のうつわ―」
開催美術館:東京都庭園美術館
開催期間:2026年7月4日(土)〜9月13日(日)

ウィーンで生まれ、ロンドンで生きる

本展では、4章構成で作家の生涯と作風の展開をたどる。美術館の受付を過ぎると、まずルーシー・リーの作品を象徴する《青釉鉢》が大広間で私たちを出迎えてくれる。

大広間の展示風景
大広間の展示風景

1902年のウィーン、裕福なユダヤ系家庭に生まれたルーシー・リー(旧姓ゴンペルツ)は、20歳の時にウィーン工芸美術学校に入学し、陶芸を学ぶ。卒業後に実業家のハンス・リーと結婚し、30歳で初めてイギリスを訪れる。やがてナチスが台頭すると、迫害から逃れるため1938年に夫とともにロンドンに亡命する。

ルーシー・リーの初期作品《鉢》1926年頃 個人蔵
ルーシー・リーの初期作品《鉢》1926年頃 個人蔵

美術館本館では、ウィーン時代から戦後まで、リーの前半生の頃の作品を紹介している。また、生活全体を1つの芸術作品(総合芸術)としてデザインすることを目指した「ウィーン工房」の創設者の1人、ヨーゼフ・ホフマンら同時代の作家や、ドイツで興ったバウハウス、リーに大きな影響を与えるバーナード・リーチの作品など、当時の陶芸における潮流にも触れる。

手前:バーナード・リーチ《ブリタニーの玉葱売り》1934年 陶器 国立工芸館蔵
奥:バーナード・リーチ《鉢》1968年頃 京都国立近代美術館蔵
手前:バーナード・リーチ《ブリタニーの玉葱売り》1934年 陶器 国立工芸館蔵
奥:バーナード・リーチ《鉢》1968年頃 京都国立近代美術館蔵

注目したいのが、リーが戦時中から戦後にかけて制作した陶製のボタンだ。第二次世界大戦中、高級品であった陶器は贅沢品と見なされ、制作が困難となり、生計のためにボタン製作を始めた。しかしリーの創るバリエーション豊かな造形のボタンは人気となり、戦後も注文があったという。

ルーシー・リー《ボタン》(一部) 1940-50年代 公益財団法人岡田文化財団パラミタミュージアム蔵
ルーシー・リー《ボタン》(一部) 1940-50年代 公益財団法人岡田文化財団パラミタミュージアム蔵

またこの時期に大きな出会いも果たしている。戦後、彫刻家志望の青年ハンス・コパーが工房を訪ね、ボタン製作を手伝いながら陶芸を学び始める。リーは彼の才能を評価し、やがて2人で展示を行うなど生涯にわたる制作のパートナーとなるのだ。

同時代の作家との交流、東洋への憧憬

ハンス・コパーの作品群の展示風景
コパーは様々なイメージソースから独自の造形を追求する。
ハンス・コパーの作品群の展示風景
コパーは様々なイメージソースから独自の造形を追求する。

続く新館では、彼女に影響を与えた東西の作家たちの作品を紹介し、そして開花するルーシー・リーの独自の世界を堪能する空間となる。2章ではリーに影響を与えた作家の中でも、特に前述のコパーの作品が多く並ぶ。独特の形状をした斬新な器は彫刻作品、あるいは古代遺跡から出土した土器のような印象を受け、元は彫刻家志望であったコパーの造形感覚が冴えわたる。また、リーとコパーが共作したカップやコーヒーセットも展示されており、2人の信頼関係がうかがえる。

左:ルーシー・リー / ハンス・コパー《コーヒーセット》1955年頃 陶器 滋賀県立陶芸の森 陶芸館蔵
右:ルーシー・リー / ハンス・コパー《カップ》1960年頃 陶器 国立工芸館蔵
左:ルーシー・リー / ハンス・コパー《コーヒーセット》1955年頃 陶器 滋賀県立陶芸の森 陶芸館蔵
右:ルーシー・リー / ハンス・コパー《カップ》1960年頃 陶器 国立工芸館蔵

続いて、リーに多大な影響を与えたバーナード・リーチや日本で「民藝運動」を牽引した濱田庄司などの作品が紹介されている。リーチは長い日本滞在中に各地の窯を調査し、イギリスでは東洋陶磁の魅力を発信し、陶芸表現の可能性を追求した。リーチが出版した『陶芸家作品選集』には鎬文が施された磁州窯の碗や、口縁の広い青白磁の碗など、宋代の陶磁器が掲載されている。リーの器の特徴である小さい高台、大きく広がる口縁などは、こうした東洋陶磁からの影響が多分に感じられる。

また濱田庄司もリーと関係の深い作家の1人だ。1952年に開催されたダーティントン国際工芸家会議で、リーは民藝運動の中心人物・柳宗悦や濱田と知り合い、2人を家に泊まらせるほど交流を深めた。

左:濱田庄司《刷毛目珈琲碗セット》1925年 陶器 国立工芸館蔵
右:濱田庄司《掻き落とし文大鉢》1923年頃 陶器 国立工芸館蔵
左:濱田庄司《刷毛目珈琲碗セット》1925年 陶器 国立工芸館蔵
右:濱田庄司《掻き落とし文大鉢》1923年頃 陶器 国立工芸館蔵
バーナード・リーチの作品群の展示
バーナード・リーチの作品群の展示

一見すると、リーチや濱田の器の素朴な味わい、ずっしりとした重さを感じる風情は、リーの洗練された造形とは離れているように見える。しかし、リーの器に見られる装飾的な文様、花器や鉢などのスッキリとしたフォルムには、東洋陶磁のそれを思わずにはいられない。ビビッドな青やピンクの釉薬を使いながらも洗練された趣を感じるのは、東洋陶磁の古典的なムードが内包されており、それが一つの器の中で調和しているからだろう。そのことは、最後の展示空間で存分に味わうこととなる。

鮮やかに開花するルーシー・リーの世界

ルーシー・リー《ピンク線文鉢》1975–80年 磁器 井内コレクション(国立工芸館寄託)
ルーシー・リー《ピンク線文鉢》1975–80年 磁器 井内コレクション(国立工芸館寄託)

落ち着いた色調の展示空間で、リーチや濱田らの作品を見た後、一転して明るく開放的な空間となる。展覧会の最後となる第4章では、自らのスタイルを確立した1970年以降の作品が集う。冒頭にも展示されていた「これぞルーシー・リー」というべき作品群だ。

青、ピンク、黄色、緑など鮮やかな色彩の器は、高台が高く、口縁に向かって薄くつくられ、スッキリとして洗練されたフォルムを見せる。口縁部分にブロンズ釉を施すのは、東洋陶磁に見られる覆輪(ふくりん)を思わせるが、釉が流れ落ちる様も一種の文様にしてしまうところが彼女の器の特徴だろう。自然に流れる釉を表現として積極的に取り入れる点は、茶の湯の文化にも似通う。鮮烈な色彩ながら、落ち着いた雰囲気を感じるのも、そうした日本の茶陶の美意識と通じる部分があるからかもしれない。

ルーシー・リー《スパイラル文花瓶》1980年 陶器 国立工芸館蔵
ルーシー・リー《スパイラル文花瓶》1980年 陶器 国立工芸館蔵
新館4章の展示風景
新館4章の展示風景

東京都庭園美術館ならではの空間との共鳴

本館の展示風景(大食堂)
本館の展示風景(大食堂)

本展では、作品そのものをじっくりと鑑賞することはもちろんだが、朝香宮邸として建てられた本館のアール・デコの優美な内装との調和を楽しむことも醍醐味だ。

本館の展示風景(大客室)
本館の展示風景(大客室)

大きなカーテンのドレープと、リーの器の細く引かれた線文様が呼応していたり、棚の区画に合わせてティーカップが並んでいたり、浴室に展示されている鉢の質感が妙に浴室の雰囲気とマッチしていたり…。場所の雰囲気と作品の風情がさりげなく調和する。次の部屋には何があるのか、自然と心が浮き立つ。

本館の第一浴室に展示されているルーシー・リー《大鉢》1963年 陶器 京都国立近代美術館蔵
本館の第一浴室に展示されているルーシー・リー《大鉢》1963年 陶器 京都国立近代美術館蔵

ルーシー・リーの器の美を触って探る
「さわ会―さわっておしゃべり鑑賞会」

取材した7月12日には、日本庭園内にある重要文化財の茶室「光華」にて、「さわ会―さわっておしゃべり鑑賞会 茶室で感じるうつわの世界」が開催された。「さわ会」は建物や作品に触れながら、感じたことを自由に言葉にして楽しむ鑑賞会で、今回で3回目となる。取材時は、視覚障害のある方も多く参加していた。

イベントは、まず茶室の解説から始まる。茶室「光華」は朝香宮が施主、武者小路千家の茶人・中川砂村(是足庵)が設計し、大阪の数寄屋大工の棟梁・平田雅哉によって建てられた。「光華(こうか)」という名前も朝香宮が名付け、小間、広間、立礼席の三つの茶席が設けられている。立礼席は、近代になって考案された、椅子に座りテーブルの上で点前をするための空間である。伝統的なわび茶の茶室建築とは異なる、明るく開放的な造りが特徴である。

複雑な建物の構造の説明には、触知案内図を用いる。
(画像提供:東京都庭園美術館)
複雑な建物の構造の説明には、触知案内図を用いる。
(画像提供:東京都庭園美術館)

解説後は実際に小間に移動して茶室内の柱を触り、その感触を発表し合う。それぞれ柱の太さ、形、用いられている技術が異なるため、参加者が発表する感想を聞いて他の参加者は想像を巡らせる。

実際にルーシー・リーの器に触り、表面の質感や重さを体験する。
(画像提供:東京都庭園美術館)
実際にルーシー・リーの器に触り、表面の質感や重さを体験する。
(画像提供:東京都庭園美術館)

広間に戻り、いよいよ茶碗を触る。まず1人1つの器が配られ、参加者は触った感想を発表する。質感やわずかな表面の凹凸、大きさ、重さなど感じ取ったことを自由に発表する。「私だったらお菓子を入れたい」「小さな丼椀みたい」など自由な感想が飛び交い、和やかに会が進む。

そして最後に、ルーシー・リーの器、そしてルネ・ラリックのガラスの器2点を触る。触る前にまず「音」の違いを感じてみよう、ということでスタッフがそれぞれの器を軽く叩く。ラリックのガラスの器の高く遠くまで響く音に対し、リーの器は柔らかみがありつつ、澄んだ音をしていた。磁器で厚みも薄いリーの器だからこその音だろう。普段の展覧会では知る機会がほとんどない器の「音」に参加者たちも驚く。視覚的な鑑賞以外にもリーの器の特徴がわかる方法だ。

ルネ・ラリックの器を触る参加者(画像提供:東京都庭園美術館)
ルネ・ラリックの器を触る参加者(画像提供:東京都庭園美術館)

その後は、参加者が順々にリー、ラリックの器を実際に手に持って味わっていく。ある参加者は、「下の方が厚くて上の方が薄い」と、その驚きを口にする。一見すると均一な厚さに見えるリーの器も、高台から口縁にかけて微かに厚さを変えることで、焼成する際の耐久性を維持しつつ、洗練されたシャープなシルエットが実現しているのだろう。些細なようで、リーの器の造形における本質にもつながる発見だ。器に触りながら楽しそうに感想を言い合う参加者の姿を見て、器を愛でることの喜びと、その本質を学ぶ機会となった。

イギリスを拠点に、洋の東西の様々な作家と交流し、独自の世界を切り拓いたルーシー・リー。花開くような、鮮やかで繊細優美な作品を東京都庭園美術館で味わう時間は、この夏の贅沢なひと時となるだろう。

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東京都庭園美術館|Tokyo Metropolitan Teien Art Museum
108-0071 東京都港区白金台5-21-9
開館時間:10:00〜18:00(最終入館時間 17:30)
会期中休館日:月曜日

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