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FEATURE

次の誰かの「つくること」を支えるムーブメント
画材循環プロジェクト「巡り堂」

みずのき美術館キュレーター 奥山理子氏 インタビュー

インタビュー

家財整理業者から段ボール箱いっぱいの画材類が美術館に届けられ、一つひとつ丁寧に拭いて、新しい使い手の元に
家財整理業者から段ボール箱いっぱいの画材類が美術館に届けられ、一つひとつ丁寧に拭いて、新しい使い手の元に

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文・赤坂志乃

机や押し入れの奥に眠っている絵具やクレヨン、鉛筆など、不要になった画材を拭いて磨いて、次の使い手の元へ。京都府亀岡市の「みずのき美術館」が立ち上げた画材循環プロジェクト「巡り堂」が、環境・アート・福祉をつなぎ、誰かの「つくること」を支えるムーブメントを起こしている。どのような活動なのか、同館キュレーターの奥山理子氏に伺った。

みずのき美術館キュレーター 奥山理子氏
みずのき美術館キュレーター 奥山理子氏

奥山理子 プロフィール

みずのき美術館 キュレーター/一般社団法人HAPS代表理事
京都府京都市出身。母が、絵画活動で注目された社会福祉法人松花苑みずのきの施設長に就任したことに伴い、12歳より休日をみずのきで過ごす。2007年以降の同法人主催のアートプロジェクトや、農園活動にボランティアで従事した後、みずのき美術館の立ち上げに携わり、2012年の開館以降企画運営を担う。2万点を越える所蔵作品のアーカイブ、アール・ブリュットの考察、社会的支援を必要とする人たちとのアートプロジェクトなど、企画は多岐に渡る。アーツカウンシル東京「TURN」コーディネーター(2015-2018)、東京藝術大学特任研究員(2018)を経て、2019年より一般社団法人HAPSの「文化芸術による共生社会実現に向けた基盤づくり事業」に参画し、ディレクターとして相談事業「Social Work / Art Conference(SW/AC)」を開設。2025年、一般社団法人HAPS代表理事に就任。東京藝術大学Diversity on the Arts Project非常勤講師。京都市芸術新人賞(2024)。

不要になった画材類を回収、クリーニングし、次の使い手の元に

「拭くこと」を起点に、使われなくなった画材類を循環させる「巡り堂」プロジェクト 撮影:成田舞
「拭くこと」を起点に、使われなくなった画材類を循環させる「巡り堂」プロジェクト 撮影:成田舞

みずのき美術館は、社会福祉法人松花苑を母体に、2012年に開館。障害者支援施設「みずのき」の絵画教室から生まれた約2万点の作品を所蔵し、アールブリュットをベースに展覧会やアートプロジェクトを企画している。

巡り堂は、アーティストの親谷茂さんを介して、家財整理事業を行う一般社団法人ALL JAPAN TRADING(以下、AJT)から「回収した画材類を廃棄しない方法はないだろうか」と相談を受けたのをきっかけに立ち上がった。使われなくなった画材をきれいにクリーニングして、必要な人の元に巡らせるプロジェクトだ。

「以前から生前整理や遺品整理に興味があった」という奥山さん。「画材なら創作活動に力を入れている福祉施設や一人親家庭、若手アーティストのワークショップなどいろんなところで使っていただける。それに加えて、画材類の仕分けやクリーニングが、引きこもりなどさまざまな理由で社会的に孤立している人たちの仕事につながるのではないかと考えました」

2022年からAJTが回収した画材類を美術館で定期的に受け入れ。以前から交流のあった亀岡市のフリースクール「学びの森」に協力を依頼し、「ユーススクール」のメンバーが授業の一環として毎週参加することに。仕分け方や拭き掃除の仕方など、半年かけてみんなで仕組みづくりを行い、7月に巡り堂のお披露目展を開催した。

「輝きを取り戻した画材を種類や色ごとに展示すると見違えるよう。家財整理業者の方も驚かれていました。持ち帰り自由の展覧会でしたので、気に入ったクレヨンや絵具を袋いっぱいに持ち帰る方もいて手応えを感じました」

生きづらさを抱える人たちが社会と交わるファーストステップに

短くなったクレヨンや絵具の汚れを落とし、クリーニング。参加メンバーそれぞれが得意な作業を分担して行う
短くなったクレヨンや絵具の汚れを落とし、クリーニング。参加メンバーそれぞれが得意な作業を分担して行う

巡り堂の活動は口コミで少しずつ広がり、地域の相談員を通して、参加メンバーは一人、また一人と増えていった。現在、登録メンバーは25人ほど。美術館の向かいに建つ「みずのきカフェ」を拠点に、週2~3回、午後1時半~3時半に活動している。

参加する人の中には心の病やひきこもりなどさまざまな事情を抱え、体調が不安定な人も。スタッフは参加者が安心して過ごせるように気を配り、活動をサポートしている。ひきこもりが深刻だった人が、巡り堂に通ううちに話をしたり鼻歌が出るようになったり、うれしい変化も。

アーティストのヤマサキエイスケさんが巡り堂に並んでいた12色のパステルに触発されて描いた作品
アーティストのヤマサキエイスケさんが巡り堂に並んでいた12色のパステルに触発されて描いた作品

みずのき美術館にはさまざまなアーティストが出入りしている。巡り堂で目に留まった画材を持ち帰り、「こんな絵を描いたよ」と持ってきてくれることもあるという。作業場には、巡り堂の画材から生まれた作品が展示されている。

「自分たちが拭いてきれいにした画材から生まれた作品を見ることは参加メンバーにとっても大きな励みになります。ひきこもりの人たちにとって、アーティストの自由な発想や生き方に触れることは、多様な大人のロールモデルを知るきっかけにもなるのではないでしょうか」

巡り堂はどこでも展開できる

輝きを取り戻した画材は、美術館のイベントを通して配布され、毎回人気を集めている。亀岡市役所の地下1階には常設の「かめおか画材コーナー」がオープンした。巡り堂の取り組みは、作業場の外へも広がり、東京都練馬区の障害者支援施設「やすらぎの杜」のアトリエ「PoMA」でも巡り堂の活動が始まった。「プレイ!シアター」や「京都とっておきの芸術祭」などイベントへの出展も相次いでいる。

「環境への配慮はもちろん、さまざまな人の手を経て〝つくること〟を支える。アーティストやアートが好きな人だけでなく、こうして支える人もアートの登場人物として美術館の取り組みにすることができました」と、奥山さん。「これからは固有のプロジェクトではなく、例えば〝こども食堂〟のように、どこでもできる〝仕組み〟になるといいなと思っています」

使わなくなった画材の収集は、リユースに力を入れる家財整理業者と組んだり、市民から集めたり、活動の大きさによってさまざまなスタイルが考えられそうだ。環境とアート、福祉を結び、美術館のソーシャルアクションとして始まった巡り堂。小さな循環の輪が、さざ波のように少しずつ社会に変化をもたらしてくれそうだ。

「京セラギャラリー」で開催中の特別展「Unknown Trails-1959年からの歩み」

巡り堂でよみがえったカラフルな画材たち(京セラギャラリーの特別展「Unknown Trails-1959年からの歩み」より)
巡り堂でよみがえったカラフルな画材たち(京セラギャラリーの特別展「Unknown Trails-1959年からの歩み」より)

京都市伏見区の京セラギャラリーで開催中の特別展「Unknown Trails-1959年からの歩み」(8月1日まで)では、障害者支援施設みずのきの前身である亀岡松花苑からみずのき美術館に至る軌跡をたどりながら、みずのき美術館のコレクションを紹介。巡り堂についても大きく紹介されている。

地域に開かれた、みずのき美術館
地域に開かれた、みずのき美術館

施設情報
みずのき美術館
住所:621-0861 京都府亀岡市北町 18
開館時間:10:00–18:00
開館日:金曜日・土曜日・日曜日、祝日
入館料:一般 400円 / 高大生 200円 / 中学生以下無料 *展覧会によって変動
電話:0771-20-1888
https://www.mizunoki-museum.org

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