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暮らしの手仕事が語る、
素顔のアフリカ

「ふたりのアフリカ、手仕事の宇宙──人類学者・川田順造と陶芸作家・小川待子のコレクション」
世田谷美術館にて、2026年9月6日(日)まで開催

内覧会・記者発表会レポート

世田谷美術館で開催されている「ふたりのアフリカ、手仕事の宇宙──人類学者・川田順造と陶芸作家・小川待子のコレクション」展示風景
世田谷美術館で開催されている「ふたりのアフリカ、手仕事の宇宙──人類学者・川田順造と陶芸作家・小川待子のコレクション」展示風景

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文・中島文子

アフリカ、ヨーロッパ、日本の3つの地点を比較研究し、広い視野で人類の文化を探求した人類学者・川田順造(かわだじゅんぞう 1934-2024)とその妻であり陶芸作家として国内外で高く評価される小川待子(おがわまちこ 1946-)。ふたりが収集したアフリカの手仕事のコレクションを紹介する展覧会「ふたりのアフリカ、手仕事の宇宙 人類学者・川田順造と陶芸作家・小川待子のコレクション」が世田谷美術館で開催中だ。

1970年代、ふたりは現地調査のためにアフリカに渡り、サバンナの国・オート・ヴォルタ(現ブルキナファソ)で暮らした。この期間に現地で集め、1970年代以降も少しずつ増え続けた夫妻のコレクションは実に600件を超える。本展はこの膨大なコレクションのうち350件を厳選し、紹介するもの。一部は1980年代に公開されたことがあったが、長らく展覧の機会がなかった。自然と共生する手仕事に向けられたふたりのまなざしを通して、遠いアフリカで暮らす人々の姿に目を凝らしてみたい。

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「ふたりのアフリカ、手仕事の宇宙
人類学者・川田順造と陶芸作家・小川待子のコレクション」
開催美術館:世田谷美術館
開催期間:2026年7月11日(土)〜9月6日(日)

川田順造の著書を手がかりに構成された展覧会

東京大学卒業後にパリへ留学し、「構造主義」の祖クロード・レヴィ=ストロースにも認められた稀代の人類学者・川田順造。レヴィ=ストロースの主著『悲しき熱帯』の邦訳でも知られる。日本、西アフリカ、フランスを往き来しながらフィールドワークを続けるなかで、3つの文化を比較検証する「文化の三角測量」を提唱し、人類学研究を大きく発展させた。

展示風景より、川田順造の書籍が並ぶ本棚、最上段にあるのは、小川待子が絵を担当した二人の共作による絵本
展示風景より、川田順造の書籍が並ぶ本棚、最上段にあるのは、小川待子が絵を担当した二人の共作による絵本

本展で紹介するのは、川田が妻の小川待子とともに収集した、アフリカの豊かな手仕事の数々だ。ふたりは1971年の暮れから1975年にかけて3年半もの間、西アフリカのオート・ヴォルタ(現ブルキナファソ)で暮らし、そこに生きる人々と同様に過酷な環境に身を置きながら、実地調査を地道に積み重ねていった。当時は現地に住み込む研究者はほとんど見当たらず、日本人はだれもいない時代だ。サバンナの暮らしに根ざした約350件もの手仕事は、ふたりだけの滞在生活の中で選び取り、集められたものであり、まさにここに「ふたりのアフリカ」が集約されているといえるだろう。

「イントロダクション:いろどる──赤、白、黒」で展示解説をする担当学芸員 塚田美紀
「イントロダクション:いろどる──赤、白、黒」で展示解説をする担当学芸員 塚田美紀

アフリカの現代美術コレクションも収蔵する世田谷美術館だが、担当学芸員の塚田美紀は夫妻が集めたコレクションの壮大さに感銘を受け、その魅力を伝えるために本展の構成に苦心したと話す。

「最初は当館の現代美術コレクションを組み合わせることも考えましたが、それはおこがましいなと思いました。まだ手付かずの状態で、あまり世の中に知られていない膨大な宝物の集積があるのであれば、それを愚直に調べて、リストアップして、何があるのかということを世の中にお見せすることが一番大事ではないかと判断しました」

展示風景より
展示風景より

イントロダクションと4章からなる展示構成は、川田のエッセイ『サバンナの博物誌』(1979年初版、新潮社)(1991年文庫版、ちくま文庫)を手がかりにしている。土地固有の歴史が刻まれる手仕事を民俗学的な資料として見せるのではなく、川田と小川のまなざしに接近していくかのように親密な距離感で紹介しているのが興味深い。残念ながら川田は2年前に他界してしまったが、展覧会の準備は生前から始まり、小川の全面的な協力のもと展示が組み立てられていった。

ふたりの視線を追って

赤、白、黒の3色を基調にセレクトしたものが並ぶイントロダクションでは、ふたりがとらえたアフリカの姿を端的に伝え、その世界観に鑑賞者をひきこんでいく。川田は赤、白、黒を「文化の三原色」といい、アフリカに限らず、どの地域でも大切にされている本質的な色として解釈した。

展示風景より、「イントロダクション:いろどる──赤、白、黒」 
展示風景より、「イントロダクション:いろどる──赤、白、黒」 
展示風景より、「イントロダクション:いろどる──赤、白、黒」 
展示風景より、「イントロダクション:いろどる──赤、白、黒」 

しらじらとした夜明け、あかあかと燃える太陽、日が落ちたときの暗闇、色は地上の生き物が共有する時間体験にも結びついている。この空間では、木の仮面や布、皮革製品から、土やバオバブの実といった自然物まで、サバンナの表情豊かな赤、白、黒のものが登場する。

展示風景より、小川待子によるマグレブ旅行のスケッチ
展示風景より、小川待子によるマグレブ旅行のスケッチ

イントロダクションから続く第1章では、「アフリカとの出会い」として、結婚後ふたりで巡った北アフリカ・チュニジアを起点とする「マグレブ」への旅を紹介する。旅行のメモを書き留める川田のフィールドノートの隣には、旅先の風景や人々を描いた小川のスケッチが並ぶ。その類稀な観察眼は、後にサバンナの調査に同行した際も発揮され、川田の著書の挿絵や共著の絵本にも展開した。陶芸家として知られる小川のもうひとつの才能にも注目したい。

サバンナの多様な手仕事を一望

第2章では、サバンナの手仕事を通して、暮らしながらものづくりの技術を調査したふたりの足跡をたどる。ふたりが暮らしたオート・ヴォルタは、旧宗主国のフランスによる命名で、ヴォルタ河の上流という意味をもつ。1960年の独立後、1984年に改名し、現在はブルキナファソとして知られている国だ。

「オート・ヴォルタ民族地図」 フランス 制作年不詳
「オート・ヴォルタ民族地図」 フランス 制作年不詳

国民の多くは農耕民のモシという民族だが、他にも多様な民族が共存し、極端な雨季と乾季をやり過ごしながら、過酷な環境を生きている。その姿を川田はまっすぐな視線で記録し、人々の暮らしを形作ってきた背景を考察する。いっぽう調査助手として同行した小川は細やかな感性で、土地で受け継がれてきた手仕事の中に類稀な美を見出す。それぞれの視点が交わることで、より豊かな発見があったことを想像させる。

展示風景より、第2章「サバンナに暮らす」
展示風景より、第2章「サバンナに暮らす」

展示は「ひょうたんの器」「草を編む」「土器をつくる」「火の熱さ」の4セクションに整理され、大小様々なものが並んでいるが、展示空間に佇むと不思議な一体感を感じることができるだろう。会場には川田が現地で録音した『サバンナの音の世界』(1988年、白水社)の音源が流れている。人々の話し言葉や歌、手拍子、楽器の音、労働の音....西アフリカの生活にある音の世界に感覚を開きながら、サバンナの色に染まる時間をゆっくり堪能したい。

展示風景より、第3章「アフリカの色とかたち」
展示風景より、第3章「アフリカの色とかたち」

第3章は、「アフリカの色とかたち」と題され、個性豊かな「布」「革」「ビーズ」がカラフルに展開する。特に注目したいのは、コレクションの調査のために夫妻の自宅を訪れた際に見つかったという、個性豊かな布の数々だ。ブルキナファソの藍染やマリの泥染めなど、ダイナミックな大判の布は、コンパクトな水平機で細巾の木綿の帯を織るところからはじまり、それを何本も接ぎ合わせてから染められる。帯を接ぎ合わせて新しい柄を作るという手の込んだ意匠もあり、現地の人々の技術力の高さに驚かされる。伝統が息づく布を一枚で身に纏う人々の心意気に、私たちはある種の豊かさを見出すことができるのではないだろうか。

展示風景より、第3章「アフリカの色とかたち」 さまざまな皮革のものが並ぶコーナー。中には、モシの王国の王から贈られたクッションもある
展示風景より、第3章「アフリカの色とかたち」 さまざまな皮革のものが並ぶコーナー。中には、モシの王国の王から贈られたクッションもある
展示風景より、第3章「アフリカの色とかたち」 ふたりが集めたさまざまなビーズコレクション
展示風景より、第3章「アフリカの色とかたち」 ふたりが集めたさまざまなビーズコレクション

モシという民族を研究していた川田の皮革のコレクションは、王から贈られたクッションや夫婦で北アフリカを旅した際に買ったものなど特別な思い出のある品々が並ぶ。また、色とりどりのビーズは、川田がヨーロッパによる奴隷交易時代のアフリカの歴史への関心から収集していたものの他に、小川が気に入って市場で買い求めたアクセサリーを並べて展示している。奴隷や金を買うためにイタリアやオランダから持ち込まれたガラスビーズと現地女性たちのファッションを彩るビーズ、それぞれのまなざしの向かう先に、時代の変遷を感じ取ることができる。

小川待子がディレクションした「海の見える家」

最終章は、小川待子が空間ディレクションに関わった「海の見える家──ふたりのアフリカ」が展開する。川田と小川が、アフリカから日本に持ち帰ったものと過ごすために海の見える高台に建てた家は、帰国後も増え続けたアフリカの手仕事やアフリカ人作家の作品も含めた膨大なコレクションを受け止め、それらと融合しながら、ふたりのイマジネーションの源泉であり続けた。今回の展示では、その再現ではなく「海の見える家」の再解釈として、あらたなイマジネーションの場が実現した。

展示風景より、第4章「海の見える家──ふたりのアフリカ」 右端の床の上に展示されているのは、《破盤》 小川待子 2016年
展示風景より、第4章「海の見える家──ふたりのアフリカ」 右端の床の上に展示されているのは、《破盤》 小川待子 2016年

ユニークな椅子や木彫りの人形、太鼓や弦楽器、弓矢、絵画など、100を超えるサバンナの手仕事が四方を囲み、静かだが迫力のある空間を作っている。その中に小川の近年の陶芸作品がさりげなく溶け込む様も印象的だ。時空を超えたセッションが繰り広げられているような広がりのある世界観に魅了される。

展示風景より、ナイジェリア出身の画家 ツインズ・セブン・セブンの作品
展示風景より、ナイジェリア出身の画家 ツインズ・セブン・セブンの作品
展示風景より、動物型や人物型などユニークな椅子が並ぶ
展示風景より、動物型や人物型などユニークな椅子が並ぶ

本展のサブタイトルに「人類学者・川田順造と陶芸作家・小川待子のコレクション」とあるが、ふたりのコレクションとして紹介されるのは、これが最初の機会になる。展覧会を締めくくる「海の見える家」は、ふたりのコレクションが世に知られていく今後の展開を予感させるものになったのではないだろうか。

記事で十分に紹介しきれないほど多彩な手仕事が並ぶ本展だが、ぜひ会場の所々にある川田と小川の言葉に目を留めてみてほしい。その言葉と共に展示を巡ることで、より鑑賞体験に奥行きが増すことだろう。また、会期中にはさまざまな関連イベントが予定されているほか、ショップではアフリカの雑貨や川田の書籍も販売されている。展覧会を見終えたあとも余韻が続くよう細やかな心配りがされているところも本展の魅力だろう。

※イベントの詳細は 美術館公式サイトイベントページ にてご確認ください。

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世田谷美術館|Setagaya Art Museum
157-0075 東京都世田谷区砧公園1-2
開館時間:10:00〜18:00
会期中休館日:月曜日

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