空海が築いた密教の世界と
時を超え受け継がれる祈りのかたちに出会う
弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」が東京国立博物館で2026年9月6日まで開催

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構成・文・写真:森聖加
弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」(東京国立博物館)は、真言宗各派総本山会に所属する寺院や関係寺院から88件の名宝を集めた大規模展だ。高野山・金剛峯寺の本尊《弘法大師坐像》をはじめとした秘仏、密教絵画、国宝絵巻、書跡など、空海が築いた密教世界の広がりと、その教えを受け継ぐ人々の祈りの営みをたどることができる。
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- 弘法大師生誕1250年記念 特別展「空海と真言の名宝」
開催美術館:東京国立博物館 平成館
開催期間:2026年7月14日(火)〜9月6日(日)
※会期中、一部の作品の展示替えを行います。
今も、人々のあいだに生き続ける空海
日本で最も広く知られる僧侶の一人、弘法大師 空海(774–835)。遣唐使として唐に渡り、密教を体系的に学んだのちに帰国して、日本に真言密教を広めた。その思想や密教の美しい造形は1200年以上にわたり受け継がれ、今も私たちの文化の深層に息づいている。
集められた名宝の数は88。数字は、もちろん四国八十八ヶ所霊場、空海とともに歩む遍路の旅にちなむ。

会場では冒頭で、高野山真言宗の総本山、和歌山・金剛峯寺の本坊持仏間本尊《弘法大師坐像》が来場者を出迎える。生誕1250年の節目を記念し特別公開が実現した秘仏のひとつだ。衣をまとい袈裟をかけ、右手は金剛杵(こんごうしょ)を持って胸の前に掲げ、左手には膝の上で念珠をとる。この典型的なポーズこそが、空海その人が長く信仰の対象として敬われてきたことを象徴している。
信仰の実践の中で生まれ、受け継がれるかたち
![国宝《十二天屛風》のうち「伊舎那天」、「帝釈天」、「火天」 平安時代・建久2年(1191)京都・教王護国寺[東寺]蔵 展示期間: 7月14日(火)~7月26日(日)](https://i.artagenda.jp//feature/1/images/0b7e089562a305e60a18a62b0dca37cb_middle.jpg)
展示期間: 7月14日(火)~7月26日(日)

前期展示:7月14日(火)~8月9日(日)
空海は、密教の深遠な教えは言葉だけでは伝えきれないと考え、仏像や曼荼羅など「イメージの力」を重視した。多くの顔や腕を持つ密教の仏は、その異形の姿によって人々に畏怖と神秘を感じさせ、教えを視覚的に伝える役割を果たした。やがて密教は天皇家や貴族と結びついて儀式の規模が大きくなり、そこで用いられる密教絵画も巨大化していく。教王護国寺[東寺]の国宝《十二天屛風》や醍醐寺の国宝《五大尊像》などがその代表例だ。

奥に見えるのが《五大力菩薩像》
仏の姿の約束事や儀式をまとめた密教図像のコーナーで、特に興味深かったのは和歌山・普賢院の重要文化財《五大力菩薩像》。墨の輪郭線を主体に仏の姿を描く白描(はくびょう)図像の最大級の作品には、画面に描き直しの跡が残る。研究員の古川攝一(しょういち)氏によれば、本尊制作のための下絵と考えられてきたが、急遽執り行われた儀式の本尊として実際に用いられた可能性も想定されるという。限られた期間で施主の要望に応えようとした絵師の試行錯誤の痕跡が、図像が信仰の実践の中で生まれ、受け継がれてきた証であることを実感させる。
宮中の祈りを支えた秘仏と、受け継がれる法会
第2章では、空海が始めた真言宗でもっとも重要な法会「後七日御修法(ごしちにちみしほ)」の世界が展開される。天皇の身体健全、ひいては国家の安泰を祈るため、毎年1月8日から7日間にわたり行われる法会では、重要文化財《聖観音菩薩・梵天・帝釈天立像》の三尊像が用いられる。かつて宮中の仁寿殿で行われた儀式の本尊は、のちに清涼殿二間に場所を移したことから二間観音(ふたまかんのん)とも呼ばれるそうだ。
![重要文化財《聖観音菩薩・梵天・帝釈天立像(二間観音)》鎌倉時代・13世紀
京都・教王護国寺[東寺]蔵](https://i.artagenda.jp//feature/1/images/24aeff517e12ab91460cfff2f06391dd_middle.jpg)
京都・教王護国寺[東寺]蔵
わずか20数センチの小さな像は希少材の白檀から彫り出され、そこへ髪の毛ほどに細く切った金箔を貼り付ける截金技法が惜しみなく施されている。三体それぞれが複数の衣をまとい、衣の種類ごとに文様を変えるだけでなく、同じ衣の表裏で異なる文様を描き分ける細やかさに息をのむ。金属製の光背、華やかな彩色の台座など、像を構成する要素のすべてに鎌倉時代の最高水準の技を凝縮。今回は特別に厨子から出された状態で展示され、四方から細部を確認できるのがありがたい。
国宝絵巻から秘仏まで、真言文化の豊かさ
第3章では、真言宗各派の本山が守り伝えてきた書画・工芸の名宝が並ぶ。奈良・朝護孫子寺の《信貴山縁起絵巻》、奈良・西大寺の《金銅透彫舎利塔》、香川・善通寺の《一字一仏法華経序品》(いずれも国宝)など、真言文化の豊かさはどこまでも多彩だ。
続く第4章は、空海が構想した立体曼荼羅を思わせる仏像の章で、中心には「秘仏」を紹介する特別な空間が設けられた。今回9件11体が特別公開され、通常は拝むことができない貴重な仏像が一堂に並ぶさまは、尋常ではない。

なかでも、33年に一度しか開扉されない三重・観菩提寺の重要文化財《十一面観音菩薩立像》が目を引く。頭が異様に大きくアンバランスなプロポーション、六臂を備えた極めて珍しい姿に、不機嫌そうにも見える厳しい表情が独特の存在感だ。随筆家の白洲正子が『十一面観音巡礼』で紹介したことでも知られる。
大阪・大門寺の重要文化財《如意輪観音菩薩坐像》、日本最小の国宝彫刻として知られる京都・仁和寺の《薬師如来坐像》、皇女和宮の念持仏と伝わる京都・泉涌寺《厨子入十一面観音菩薩立像》など、秘仏といっても各寺によりさまざまな姿が楽しめるのもこのセクションの見どころだ。


さらには京都・安祥寺の国宝《五智如来坐像》がある。五軀がそろう現存最古の作例で、ふくよかな造形は初期密教の曼荼羅が立体化したかのような迫力を備え、9世紀初期の密教彫刻の姿を伝える。山梨・放光寺の《愛染明王坐像》は、「天弓愛染」と呼ばれる弓を頭上で掲げる特異な姿で知られるもの。この2つは特別に撮影が可能なフォトスポットにもなっている。空海の生涯と、彼が日本にもたらした密教の精神世界をたどる、またとない機会を堪能したい。
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- 東京国立博物館|Tokyo National Museum
110-8712 東京都台東区上野公園13-9
開館時間:9:30〜17:00 (金曜・土曜は~20:00)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日 (ただし8月31日は開館)
最新情報は、展覧会公式サイトの「開催概要」をご確認ください。