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FEATURE

世界が注目する日本の女性写真家30名が集う
写真史上前例のない大規模展が日本上陸

「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」が、ヒカリエホールにて2026年8月26日(水)まで開催

内覧会・記者発表会レポート

ヒカリエホール(渋谷ヒカリエ9F)で開催中の「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
ヒカリエホール(渋谷ヒカリエ9F)で開催中の「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

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文・中島文子

フランスのアルル国際写真祭で大きな話題を集めた世界巡回展「I’m So Happy You Are Here」がついに日本に上陸した。2026年7月4日から8月26日の間、現在移転準備中のBunkamura ザ・ミュージアムがヒカリエホール(渋谷ヒカリエ9F)を舞台に、日本の女性写真家30名の作品約200点を集め「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」を開催している。

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「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」
開催美術館:ヒカリエホール(渋谷ヒカリエ9F)
開催期間:2026年7月4日(土)〜8月26日(水)

本展は、1950年代以降の日本の写真史および美術史で重要な役割を果たしてきた女性写真家に焦点を当てた大型書籍『I’m So Happy You Are Here:Japanese Women Photographers from 1950 to Now』(全440頁、英語版・仏語版 2024年夏)の刊行に合わせて企画され、アルル国際写真祭を皮切りに世界を巡回中の展覧会だ。日本の写真表現に対する評価が男性写真家に偏りがちな中で、独自の表現を追求してきた女性写真家の活動を紹介し、写真史を新たな角度から捉え直す試みとして、国際的に高く評価されている。渋谷のヒカリエホールで開催される日本展は、欧米巡回展を拡大させた特別バージョン。出展作家26名に4名加えた計30名の女性写真家を選出し、日本の写真史・美術史に欠かせない多彩な顔ぶれが集まった。

出展作家30名は以下のとおり。
石内都、石川真生、今井壽惠、岩根愛、潮田登久子、岡上淑子、岡部桃、オノデラユキ、片山真理、川内倫子、小松浩子、今道子、澤田知子、志賀理江子、杉浦邦恵、多和田有希、常盤とよ子、長島友里枝、楢橋朝子、西村多美子、蜷川実花、野口里佳、野村佐紀子、原美樹子、ヒロミックス、藤岡亜弥、やなぎみわ、山沢栄子、米田知子、渡辺眸(50音順)

プレス内覧会では、出展作家30名のうち20名が参加。前列右端は、レスリー・A・マーティン(世界巡回展「I’m So Happy You Are Here」共同キュレーター)、前列左端は竹内万里子(日本展担当キュレーター)
プレス内覧会では、出展作家30名のうち20名が参加。前列右端は、レスリー・A・マーティン(世界巡回展「I’m So Happy You Are Here」共同キュレーター)、前列左端は竹内万里子(日本展担当キュレーター)

圧倒的なスケールで見せる、十人十色の世界観

2024年フランス・アルル国際写真祭から始まり、すでに14万人を動員している世界巡回展「I’m So Happy You Are Here」。その成功を受け、日本展では出品作家の増員のみならず、映像や大型インスタレーションを取り入れるなど展示内容を拡張。会場となるヒカリエホールは1600平米に及ぶ床面積と高さのある天井で、約200点もの作品を懐深く受け止め、濃い内容でありながら、開放感ある展示空間を実現している。

「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
小松浩子による写真と映像によるインスタレーション《繁殖模倣変換器》2026 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
小松浩子による写真と映像によるインスタレーション《繁殖模倣変換器》2026 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

展示は、「写真というメディウムの多様性」「記録と記憶」「ジェンダー・身体・セクシャリティ」「日常」に言及する4つの章で構成されている。しかし、それらはあくまで鑑賞の手がかりにすぎず、作家を分類するために設けられているわけではない。展示を巡ると、女性写真家たちの独立した世界観がいかに尊重されているかがわかるだろう。日本展担当キュレーターの竹内万里子は、「一人ひとりがバラバラであることを大事にしたい」と話す。

「作家のみなさん一人ひとりが異なるアイデンティティや思考、写真へのアプローチを持っています。女性であるということは、複雑なアイデンティティのたったひとつの要素にすぎないわけですが、世の中では、女性であるという、ただそれだけの理由で、アイデンティティがないがしろにされたり、搾取されたり、ときには暴力の対象になることがある。だからこそ、それぞれの世界観がこれだけ奥深く違うのだということを、展覧会としてお見せしたいと思っていました」

長島有里絵によるインスタレーション 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
長島有里絵によるインスタレーション 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

自身や家族、友人を被写体とする写真から、立体作品やインスタレーション、コラボレーションによる作品へと表現を拡張する長島有里枝は、実母との協働でテント、パートナーの母との協働でタープを制作し、女性の労働や家族という仕組みの割りきれなさを視覚化した。社会との関わりの中で複雑に編まれていく個のアイデンティティを想像させる。

写真家のイマジネーションと実験性 

写真に写し出されるのは、確かに存在しているものであり、空想の産物ではない。一方で、カメラや印画紙など道具を介して像が結ばれるという意味では操作的であり、現実をそのまま再現するのとは違う。制作の技術やプロセス、環境によってものの見え方が変わる写真は、さまざまな要素が絡む、実験的なメディウムといえる。本展でもフォトグラムやコラージュ、モンタージュ、スライドプロジェクションなどさまざまな手法が展開されている。

山沢栄子の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
山沢栄子の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

日本画の素地があり、1920年代に渡米し油画と写真を学んだ山沢栄子は、1930年代から半世紀以上にわたり、日本の女性写真家の草分けとして活躍。ポートレート写真や広告写真を数多く手掛けた後、人生の後半は抽象写真の制作に励んだ。絵画的アプローチを写真に実験的に展開し、構築的な画面を生み出している。

今井壽惠の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
今井壽惠の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

今井壽惠は油画を学んだ後に写真の道に進んだが、山沢の鮮烈な色使いに対して、抽象と具象の間をたゆたうような幻想的な表現が印象的だ。〈オフィリアその後〉の連作など文学的な作品も高く評価された。

今道子の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
今道子の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

今道子が手がけるモノクローム写真は、綿密なオブジェの制作計画から始まる。夥しい量の青魚を集めて作ったオブジェは、一見するとグロテスクに思えるが、鈍い光沢が銅版画のようなニュアンスある陰影を生み出す。生をぎゅっと凝縮して、写真に留めたかのような強度のある作品が並ぶ。

多和田有希の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
多和田有希の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

多和田有希は、プリントした写真に対して焼く、削る、剥がすなどの行為を施し、表層に表れない精神的な領域を掘り起こそうとする。古代ローマ時代の副葬品「涙壺」にヒントを得た〈Lachrymatory〉は、ワークショップの参加者の燃やしたい写真を目の前で焼き、その灰でできた釉薬を涙壺にかけて焼成したもの。変容のプロセスが知覚を刺激し、人の内面世界へと意識を向かわせる。

蜷川実花の作品〈Dancing with Shadows in the Light>より 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
蜷川実花の作品〈Dancing with Shadows in the Light>より 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

ビビッドな色使いが特徴の蜷川実花は、今回の展示作品では色彩を封印し、モノクロのコントラストで神秘的な海の中の世界を表現した。作品の前に立つと、思わず目を細めたくなるほど、空間に眩い光が充満している。

写真に潜む、見えない何か

写真はある瞬間の記録にとどまらず、場所や時代、人生の記憶をつなぐことができる。それはときに作者の意図を超え、見る者の個人的な感情に訴えることもあるだろう。目に見えないものを感じ取る力が、写真のイメージに新たな生命を与える。

石内都の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
石内都の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

1979年の写真集『Apartment』で女性写真家として初の木村伊兵衛写真賞を受賞し、現在に至るまで国際的に高く評価される石内都。代表作でもある〈Mother’s〉のシリーズでは、波乱の人生を送った母親の身体や遺品をまっすぐに見つめ、〈ひろしま〉では原爆の犠牲になった女性たちの遺品の美しさを丁寧に掬い上げた。その静かなまなざしは、遺されたものがまとう気配まで丹念に写し出す。

常盤とよ子の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
常盤とよ子の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

赤線地帯で働く女性たちを取材した写真エッセイ集『危険な毒花』で大きな注目を浴びた常盤とよ子。戦後の女性たちの日常に大胆に踏み込んだ写真は、ありのままの瞬間を見逃すまいとする作家の決意が表れている。その視線は周縁の人々の疎外感や歪な社会構造まで浮き彫りにする。

岩根愛の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
岩根愛の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

2006年から日系ハワイ移民を取材し、移民たちの墓や踊り継がれる盆踊りを撮影してきた岩根愛。東日本大震災後は現地で人気の「フクシマオンド」に着目し、ハワイと福島の関わりをテーマに作品制作を続けている。会場に展開するパノラマのインタレーションは、鑑賞者を踊りの熱狂に引き込み、異なる時間軸へと誘導する。自然と淘汰される土地の記憶がある一方で、距離と時間を超えて蘇る記憶もある。忘却と再生の間に人の思いが介在することの可能性について考えさせられる。

米田知子の作品〈Between Visible and Invisible〉より 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
米田知子の作品〈Between Visible and Invisible〉より 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

歴史上の人物の眼鏡を通して、その人物に関連する事物を撮影した米田知子の〈Between Visible and Invisible〉シリーズ。記憶が折り重なり紡がれていく歴史は、ひとつに解釈することはできない。個人の思考に降りていく米田の視点は、不断に考え続けることの尊さを教えてくれる。

生きることのリアリティ。それぞれのまなざしと挑戦

人が社会の一員として生きるとき、ジェンダーや身体、セクシャリティの規範から自由でいることは難しい。この不自由さは個人的な感覚であるにも関わらず、写真のイメージはそれを他者と共有することを可能にする。たとえば、やなぎみわが初期作品〈エレベーター・ガール〉シリーズで見せた、エレベーターガールたちのマネキンのような佇まいは、やなぎ自身が感じていた消費社会への違和感や断絶感とつながっている。社会を風刺する鮮やかな切り口に思わず頷き、勇気づけられた人も多いのではないだろうか。

片山真理の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
片山真理の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

片山真理は、自身の身体を中心のモチーフに据え、手縫いのオブジェや装飾を施した義足と共に、セルフポートレート作品を継続的に制作。演出から撮影、作品制作まで自身で行い、さまざまな手法を柔軟に取り入れながら表現を広げてきた。鏡面に囲まれた空間で撮影した〈tree of life〉シリーズは、万華鏡のような反復性のある画面で、身体の記憶を作品の中に拡張している。

野村佐希子の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
野村佐希子の作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

写真家として男性を被写体にヌード写真を撮る野村佐希子。男性が女性のヌードを撮るという固定観念を軽やかにかわし被写体に接近するまなざしは、気負いを感じさせず、どこか淡々としている。黒い闇の中で輪郭を曖昧にする風景や人物の儚さに魅せられる。

刹那と永遠を結ぶ、写真の力

写真は儚くも消えてしまう瞬間をつかまえる。それがありふれた日常の一場面だとしてもはっとさせられるのは、それを作品に留めておこうとする作家のまなざしを感じているからのかもしれない。

潮田登久子の作品〈冷蔵庫〉より 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
潮田登久子の作品〈冷蔵庫〉より 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

身近な事物を独自の視点で記録する潮田登久子。彼女の手にかかると無機質なものも人格があるかのように個性豊かな佇まいになる。〈冷蔵庫〉シリーズは、スクエアの画面に扉の開閉で表情の異なる冷蔵庫が並び、暮らしのリアリティを軽妙に切り取っている。

右に並ぶのは野口里佳の作品、左はヒロミックスの作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
右に並ぶのは野口里佳の作品、左はヒロミックスの作品 「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

画面に光が澄み渡る野口里佳の〈不思議な力〉の作品群は、重力や浮力、磁力など、目に見えない普遍的な力を日常の場面に見出そうとする。クロースアップと俯瞰の視点が共存しているような不思議な世界観が広がる。野口の向かいに展示されるのは、1990年代のガーリー・フォトブームを牽引したヒロミックスの写真作品だ。無垢な視線がとらえた日常のキラキラした瞬間は、時を経てより説得力を増していく。一瞬を永遠に留める写真の本質を瑞々しく体現している。

「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景
「まなざしの奇跡 日本女性写真家の冒険」展示風景

4章からなる展示を見終えて最後の空間に入ると、1926年から現在までの日本の写真史のあゆみが、社会のできごとや美術・文化の動きとリンクする形でまとめられている。その100年史と向かい合って展示されるのは、著名な女性写真家たちの写真集の数々だ。壁には本展の作家たちの名言が散りばめられ、未来に希望を込めた締めくくりとなった。

30人の女性写真家たちの作品が一堂に会す本展は、ボリュームの大きさもさることながら、作家それぞれの世界観に圧倒される。相当見応えある内容なので、一度とは言わず、会場に何度か足を運び、ショップで気になる写真家の写真集を手にとってみるのもいいだろう。また、会期中はヒカリエホールを中心に、さまざまな角度から「写真」にアプローチする連携企画が予定されている。展覧会を起点に、鑑賞者自身のまなざしが向かう先を探求してみてはいかがだろうか。

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