忘れてはならない〈記憶〉と〈人々の生きた証〉をつなぐ
映画『原爆資料館 語り継ぐものたち』
2026年7月18日(金)より東京・ポレポレ東中野、7月24日(金)より広島・八丁座ほか全国順次公開

映画『原爆資料館 語り継ぐものたち』
文:森聖加
そこには、忘れてはならない〈記憶〉と〈人々の生きた証〉がある。広島平和記念資料館には、あの日、広島で何が起きたのかを知ろうと世界中からこれまでに8000万人を超える人が足を運んできた。映画『原爆資料館 語り継ぐものたち』は、核兵器の恐ろしさと被爆の現実を未来へ伝え、語り継ごうと自らの人生を捧げてきた人々の思いと言葉を伝える。50年以上にわたって記録された、100時間を超えるアーカイブ映像をもとに語り起こすドキュメンタリーだ。

約2万2千の「無言」のものが発するメッセージ
「おれの国はなんということをしたのだろう‥‥」
原爆資料館の展示室を出たあと、彼はしばらくうつむいたまま動かなかった。
2025年2月、私はアメリカ人の友人らと広島へ旅をし、原爆資料館として知られる広島平和記念資料館へと向かった。私自身は高校時代の修学旅行以来、2回目。友人は初めての訪問だった。そして、1945年8月6日、広島市の上空で炸裂した原子爆弾がそこに暮らしていた赤ちゃんからお年寄りまで、多くの人の人生をどのように変えてしまったのかを展示された物を通じて、初めて目の当たりにしたのだ。

映画は地元、広島ホームテレビが50年にわたって取材してきた原爆資料館の記録を基にする。あの日からの広島を語り継いできた「者」と「物」に焦点をあてて、その軌跡を描く。
1955年に開館した原爆資料館には、累計8000万人の人がこれまで訪れ、近年はそのうちの4割を外国人が占める。海外では、学校教育のなかで原爆の実相を学ぶ機会は少ないと聞くし、原爆がもたらした惨状と初めて向きあう人がほとんどだろう。当然のように友人も、原爆が戦争をはやく終結させたと教わったと打ち明けた。
2019年に3回目のリニューアルで展示方法を刷新した館内は、黒を背景に統一された空間になっていた。血が染みて引き裂かれた学生服、米粒まで黒焦げになったお弁当箱、小さな子が愛用していた三輪車。あるいは被爆者が投下直後の街のようすや、学校の校庭に遺体が並べられ火葬される光景を描いた「原爆の絵」。それらがもとの所有者や体験者の写真とともに並ぶ。展示は「声を奪われた人」のことばを現代へよみがえらせ、来館者に語り掛ける。映画は、原爆資料館のありようをその人生を懸けて支えた歴代館長を中心に据え、物語を進めていく。

はじまりは、熱線で溶けた瓦礫(がれき)から
監督の斎藤俊幸と立川直樹は、広島で報道にたずさわるものが必ず取材対象とする原爆資料館に記者として通い取材を続けてきた。映画は、2023年にはG7広島サミットの際、核保有国のトップたちが資料館を訪問したものの、彼らがなにを具体的に見たのかを知らされない異様さに愕然とした12代館長、志賀賢治さんの悔しさをきっかけにスタートした。ふたりは同社に保存されてきた100時間以上におよぶアーカイブ映像を1から見直し、そこに残されていた館長たちの思いを丹念にすくいあげる。

原爆資料館は1955年、原爆投下から10年後に開館した。現在、2万2千を超える遺品や資料を収蔵する。そのはじまりは、初代館長を務めた地質学者の長岡省吾(在任期間1955-1962)が、集め始めた瓦や石などの瓦礫だった。長岡は原爆投下時山口県にいたが2⽇後に爆⼼地に入る。そこで灯籠に腰を下ろし、手のひらに針で刺したような痛みを感じる。腰を下ろした灯籠の花崗岩の表面が溶けていた。市に落とされたのが特殊な爆弾だと気付いた瞬間である。以降、被爆の痕跡が残る資料を集めて後世に残すことが、彼の使命となった。

人間の叫び。普通の生活の一端から見える原爆の残酷性
長岡は溶けたガラス瓶や陶器といった、一般には傷ついた「ガラクタ」と思われる生活用品をも含めて集め、毎日大八車で自宅に運んだという。そこに、人々の生きた証を見、声を聞いたからだ。歴代14人の館長に共通する思いはただ、あの原子爆弾によって人生を奪われ、すべてを変えられてしまった人々の「声なき声」を、いかに真っすぐ私たちへ伝えるか。そのための最善の方法を問い続け、日々行動に移してきた。資料館を見学することは、私たちひとりひとりが遺された物に向き合うことで、個人の痛みを、みずからの記憶に引き受ける作業なのかもしれない。

声を奪われた人々の苦しみ、怒り、やるせなさを、物は人に代わって語り続ける。映画はその語りを受け継いできた館長や学芸員、遺族たちの姿を通して、「忘れないこと」と「語り継ぐこと」が何を意味するのかを、私たちに問う。1945年8月6日の出来事は、遺品を守り、記録を残し、言葉を手渡してきた無数の人々の営みがあってはじめて、現在に生きる私たちと結びついている。原爆資料館とは、そうした記憶の継承を支えるひとつの「場」だ。
本作を見て改めて感じたのは、平和とは、過去の痛みから目を背けず、直視し続ける意志のうえに成り立つ、ということ。あの日の広島に生きた人々の証を未来へ手渡すために、私たちもまた、その声に耳を傾け続けなければならない。

- 映画『原爆資料館 語り継ぐものたち』
監督 斉藤俊幸/立川直樹 音楽 石橋英子 『ドライブ・マイ・カー』『悪は存在しない』
後援 広島市、広島平和文化センター 制作 広島ホームテレビ 配給・宣伝 きろくびと
2025年|日本|101分 ©広島ホームテレビ
映画『原爆資料館 語り継ぐものたち』公式WEBサイト
https://abombmuseum-film.com/
2026年7月18日(金)より東京・ポレポレ東中野、7月24日(金)より広島・八丁座にて公開ほか全国順次 ©︎ 広島ホームテレビ
2026.7.18(土)より東京ポレポレ東中野、7.24(金)より広島・八丁座にて公開ほか全国順次