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FEATURE

絵画も工芸も「文字」に溢れている
古美術の魅力を文字に注目してひも解く

企画展 「はじめての古美術鑑賞 -美術のなかの文字-」が、根津美術館にて2026年7月12日(日)まで開催

内覧会・記者発表会レポート

「はじめての古美術鑑賞 美術のなかの文字」展 展示風景
「はじめての古美術鑑賞 美術のなかの文字」展 展示風景

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根津美術館で2016年より現在まで6回開催されているシリーズ企画展「はじめての古美術鑑賞」。難しいと思われれがちな日本・東洋の古美術に対して、より身近に感じ、楽しんでもらうためのシリーズだ。

今回のテーマは「美術のなかの文字」。「書」のように文字主体の作品ではなく、絵画や工芸といった図像主体の作品の中に書き込まれた「文字」に注目する。つい見落としてしまいがちな作中の文字を入り口にして、深淵なる古美術の世界に足を踏み入れてみよう。

※展示室内は撮影禁止です。記事中の写真は、許可を得て撮影をさせていただいております。

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企画展 「はじめての古美術鑑賞 -美術のなかの文字-」
開催美術館:根津美術館
開催期間:2026年5月30日(土)〜7月12日(日)

作者だけじゃない、「落款・印章」の文字

「美術のなかの文字」と聞いて最初に思い浮かべるのは、作者のサインだろう。古美術の世界では「サイン」のことを「落款(らっかん)」、画面に押された印を「印章」と呼ぶ。

《風竹図》 徳川家慶筆 1幅 紙本墨画金彩 日本・江戸時代 天保12年(1841)
江戸幕府12代将軍家慶の作。朱色の印章は作品のアクセントになるため、押す場所も重要。本作に関して、奥絵師で家慶に絵を教えていた狩野養信‘(おさのぶ)が印を押す位置までアドバイスしていたことが資料に残る。
《風竹図》 徳川家慶筆 1幅 紙本墨画金彩 日本・江戸時代 天保12年(1841)
江戸幕府12代将軍家慶の作。朱色の印章は作品のアクセントになるため、押す場所も重要。本作に関して、奥絵師で家慶に絵を教えていた狩野養信‘(おさのぶ)が印を押す位置までアドバイスしていたことが資料に残る。

さらに注目したいのが「鑑蔵(かんぞう)印」だ。作品の所有者が押した鑑蔵印には、将軍家や大名などの例がある。作品の中に所有者の印を押すなど現代の感覚では考えられないような文化だが、鑑蔵印により所有者が明確となり、作品の評価や、どのように伝来したかなどを知ることができるため、貴重な情報源となる。

《富士山図》 狩野安信筆 江月宗玩賛 1幅 紙本墨画 日本・江戸時代 17世紀
作者の「安信筆」の落款より「田安府芸台(たやすふうんだい)印」の館蔵印の方が大きく目立つ。
《富士山図》 狩野安信筆 江月宗玩賛 1幅 紙本墨画 日本・江戸時代 17世紀
作者の「安信筆」の落款より「田安府芸台(たやすふうんだい)印」の館蔵印の方が大きく目立つ。

また、鑑蔵印があることで作品の付加価値が高まるケースもある。たとえば狩野安信筆《富士山図》は別の作品の模本の可能性があるが、画面の両端に田安徳川家(江戸幕府8代将軍吉宗の弟・宗武を初代とする家系)の鑑蔵印が押されており、それが品質の証となる。

重要美術品《風俗図》 3幅 紙本着色 日本・江戸時代 17世紀
桃山~江戸時代初期に隆盛した風俗図。各幅に押されている印は、作者ではなく薩摩藩主・島津家久の鑑蔵印。
重要美術品《風俗図》 3幅 紙本着色 日本・江戸時代 17世紀
桃山~江戸時代初期に隆盛した風俗図。各幅に押されている印は、作者ではなく薩摩藩主・島津家久の鑑蔵印。

画中の「賛」―絵と文字の共鳴―

続く「美術のなかの文字」は、画面上部などの余白に書かれた漢詩や和歌などを指す「賛(さん)」の例が紹介されている。

重要文化財《江天遠意図》伝 周文筆  大岳周崇ほか11僧賛 1幅 紙本墨画淡彩 日本・室町時代 15世紀 
【展示期間:5/30-6/21】
作者の落款や年紀が記されていないため、賛を記した禅僧のうち、最も早く没した禅僧の没年が制作年の下限となる。
重要文化財《江天遠意図》伝 周文筆  大岳周崇ほか11僧賛 1幅 紙本墨画淡彩 日本・室町時代 15世紀
【展示期間:5/30-6/21】
作者の落款や年紀が記されていないため、賛を記した禅僧のうち、最も早く没した禅僧の没年が制作年の下限となる。

「賛」の例として日本美術の中で特に要となるのが、室町時代の禅僧らによって隆盛した「詩画軸」だろう。たとえば重要文化財《江天遠意図》は、周文の作と伝えられる絵の上に12人の禅僧による漢詩が書かれている。

《七夕図》 酒井抱一筆 1幅 絹本墨画淡彩 日本・江戸時代 19世紀 小林中氏寄贈
《七夕図》 酒井抱一筆 1幅 絹本墨画淡彩 日本・江戸時代 19世紀 小林中氏寄贈

江戸時代の絵師・酒井抱一の《七夕図》には、角盥に張られた水に梶の葉が浮かび、五色の糸が垂れる様子がサラリと描かれている。俳句も嗜んでいた抱一による「かささぎのはしで呼なり星の竹」の一句も流れるような書体で、瀟洒な一幅だ。

賛がしたためられた作品を見れば、絵と漢詩や和歌などの「文字」が組み合わさり、その相乗効果で画面全体から風雅な趣が漂うことが感じられるだろう。

仏画に潜む文字

仏教美術の中にも文字は様々な形で存在する。経典の文字をはじめ、サンスクリット語(梵字/ぼんじ)を用いて神仏を一文字で表す「種字(しゅじ)」などが代表的だろう。本展ではそうした典型的な例に加えて、「文字絵」による十一面観音像が紹介されている。

《文字絵十一面観音像》 大臨晋城筆 1幅 絹本墨画 日本・江戸時代 嘉永6年(1853) 福島静子氏寄贈
《文字絵十一面観音像》 大臨晋城筆 1幅 絹本墨画 日本・江戸時代 嘉永6年(1853) 福島静子氏寄贈

「文字絵」とはその名の通り、文字で絵を描く手法を指す。この十一面観音菩薩像は、遠目からは点描で描かれたように見えるが、その輪郭の部分を虫眼鏡を覗いてみると…。菩薩の髪の毛や竜の眼など一部を除いて、全て「観音経」の文字を連ねて描かれている。

《文字絵十一面観音像》部分
作品の前に虫眼鏡が設置され、細い線で書かれた文字を見ることができる。
《文字絵十一面観音像》部分
作品の前に虫眼鏡が設置され、細い線で書かれた文字を見ることができる。

景色に溶け込む「文字」

《吉野龍田図屏風》 6曲1双 紙本着色 日本・江戸時代 17世紀
《吉野龍田図屏風》 6曲1双 紙本着色 日本・江戸時代 17世紀

そして、本展でもっとも華やかで目を引く《吉野龍田図屏風》が登場する。テーマは、「景色のなかの和歌」。満開に咲き誇る桜と紅葉が各隻の屏風に描かれた本作のどこに「文字」があるかと言うと、桜や楓の枝のあちこちにつるされた短冊にご注目。それぞれの短冊には『古今和歌集』などの歌が記されている。

《吉野龍田図屏風》部分
《吉野龍田図屏風》部分

ここでは、根津美術館所蔵の《鏡山図》と類似作品3点の同時公開にも注目したい。《鏡山図》は滋賀県にある鏡山を描いた作品で、霞たなびく風景の中に「みがヽねどきよきこヽろのかゞみ山 くもヽあらしのさへわたりつヽ」の一首が書かれている。

《鏡山図》 1幅 紙本着色 日本・鎌倉時代 13~14世紀
《鏡山図》 1幅 紙本着色 日本・鎌倉時代 13~14世紀
右から《鏡山図》《紅梅図》《海浜図》
右から《鏡山図》《紅梅図》《海浜図》

本展では《鏡山図》と元は同じ巻物だったと考えられる《草花図》《紅梅図》《海浜図》の3点が、初めて同時公開されている。このように、平安時代中期には描かれた名所や景物に合わせた和歌を絵の中に書き添えることが流行した。絵と文字が混然一体となった風雅な世界が広がり、見る人の心を遠く離れたその場所にまで連れて行ったことだろう。

工芸の中の文字

工芸のエリアは青銅器の重要美術品の《饕餮文卣(とうてつもんゆう)》(写真手前)から始まる。
本作は「禾」の銘が刻まれ、制作された年代が推定できる。
工芸のエリアは青銅器の重要美術品の《饕餮文卣(とうてつもんゆう)》(写真手前)から始まる。
本作は「禾」の銘が刻まれ、制作された年代が推定できる。

本展の最後を飾るのは工芸作品だ。古代中国の青銅器などに記された銘文は制作された年代などを知る手掛かりとなり、銅鏡などの文字には表された図様の説明を記した例が紹介されている。

《秋野蜘蛛巣蒔絵料紙硯箱》 2合 木胎漆塗 日本・江戸~明治時代 19世紀
料紙箱と硯箱のセットで、それぞれ秋草と蜘蛛の巣が表されている。各蓋の蜘蛛の巣には「蜘」(料紙箱)と「蛛」(硯箱)の文字が見える。
《秋野蜘蛛巣蒔絵料紙硯箱》 2合 木胎漆塗 日本・江戸~明治時代 19世紀
料紙箱と硯箱のセットで、それぞれ秋草と蜘蛛の巣が表されている。各蓋の蜘蛛の巣には「蜘」(料紙箱)と「蛛」(硯箱)の文字が見える。

一方日本に目を向けると、硯箱などの調度品に文学作品や謡曲の一節を踏まえた文字を図様の中に組み込んだり、「福」などの吉祥的な意味をもつ文字を意匠の1つとして用いたり、あるいは印籠・刀の鍔などといった小さな物にも文字をデザインとしてあしらったりと、文字を使った巧みな意匠に、当時の職人たちのセンスが光る。

《染付日本地図長方皿》 肥前 1枚 日本・江戸時代 19世紀 山本正之氏寄贈
青海波文様で表された海に日本の地図が表されている。周囲の国の名前をよく見ると「小人国」など、架空の国名がつけられており、遊び心が感じられる。
《染付日本地図長方皿》 肥前 1枚 日本・江戸時代 19世紀 山本正之氏寄贈
青海波文様で表された海に日本の地図が表されている。周囲の国の名前をよく見ると「小人国」など、架空の国名がつけられており、遊び心が感じられる。

本展を見れば、絵画、工芸などの世界においても、実はたくさんの「文字」に溢れていることに気づく。それらは私たちに歴史的な事実を伝える「資料」的な側面を持つ場合もあれば、作品世界を形作る一要素になることもある。「難しい」と思われがちな古美術の世界も、見方を知れば豊饒な世界が広がっている。

同時開催の特集展示にも注目

展示室5「うた、ものがたりと蒔絵」展示風景
展示室5「うた、ものがたりと蒔絵」展示風景

展示室5「うた、ものがたりと蒔絵」では、和歌や謡曲、『源氏物語』や『伊勢物語』など人々に親しまれてきた歌や物語を題材にした蒔絵の作品が紹介されている。「美術のなかの文字」展では、作品の中に文字を探したが、こちらでは逆に作品の中に表された図様から文字(文学)を見出す。

《源氏物語図蒔絵貝桶》 1対 木胎漆塗 日本・江戸時代 18世紀
『源氏物語』の「若紫」「花散里」「野分」など代表的な場面が典型的な図様で表される。婚礼調度にもなる貝桶には『源氏物語』の図様がしばしば用いられる。
《源氏物語図蒔絵貝桶》 1対 木胎漆塗 日本・江戸時代 18世紀
『源氏物語』の「若紫」「花散里」「野分」など代表的な場面が典型的な図様で表される。婚礼調度にもなる貝桶には『源氏物語』の図様がしばしば用いられる。

また同館所蔵の茶道具を紹介する展示室6では「涼一味の茶」と題し、蒸し暑いこの時期に相応しく、涼感ただよう眼に心地よい取り合せで約20点の茶道具を紹介する。

展示室6「涼一味の茶」展示風景
小林一茶の句「此雨はのつ引きならず時鳥」が来館者を迎え入れる。
展示室6「涼一味の茶」展示風景
小林一茶の句「此雨はのつ引きならず時鳥」が来館者を迎え入れる。
床の間の展示風景
床の間の展示風景

床の間では室町時代の梅隠筆《蓮池水禽図》が飾られ、夏の到来を感じさせる。その器の景色が雨漏りの跡のように見えることから「雨漏茶碗」と呼ばれるようになった茶碗など、見どころの多い道具が並ぶ。梅雨時期は気分も沈みがちになりそうだが、この展示室に入れば、静かで心地よい風が心の中にサッと吹くことだろう。

重要美術品《雨漏茶碗 銘 蓑虫》 1口 朝鮮半島・朝鮮時代 16世紀
重要美術品《雨漏茶碗 銘 蓑虫》 1口 朝鮮半島・朝鮮時代 16世紀

「美術のなかの文字」展、そして同時開催の2展を見れば、美術館を出る頃には、すっかり古美術の多彩で奥深い世界に心躍らせていることだろう。

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根津美術館|the Nezu Museum
107-0062 東京都港区南青山6-5-1
開館時間:10:00〜17:00(最終入館時間 16:30)
会期中休館日:月曜日

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