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蔵から現れた新発見の至宝の数々
伊勢の名刹・専修寺が伝える公家文化

「伊勢の名刹 専修寺― 寺宝からみる公家文化」が、霞会館記念学習院ミュージアムにて開催

展覧会レポート

《桐鳳凰蒔絵書棚》 木胎 漆塗・蒔絵 江戸時代後期・1850年代(手前右)
「伊勢の名刹―寺宝からみる公家文化」展示風景
《桐鳳凰蒔絵書棚》 木胎 漆塗・蒔絵 江戸時代後期・1850年代(手前右)
「伊勢の名刹―寺宝からみる公家文化」展示風景

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伊勢の寺社と言えば、誰もがまず「伊勢神宮」を思い浮かべるだろう。しかし実はもう1つ、歴史的にも重要で知っておきたい場所がある。その寺は三重県津市に位置し、浄土真宗の高田派の本山として重要な役割を担ってきた「専修寺(せんじゅじ)」である。

その専修寺に伝わる品々を紹介する展覧会「伊勢の名刹―寺宝からみる公家文化」が、学習院大学の博物館「霞会館記念 学習院ミュージアム」で開幕した。同大学の調査によって絵画・工芸などを紹介する本展では、22点の展示品のうち20点が初公開となる。

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特別企画展「伊勢の名刹 専修寺― 寺宝からみる公家文化」
開催美術館:霞会館記念学習院ミュージアム
開催期間:2026年5月22日(金)〜6月13日(土)

伊勢の名刹・専修寺とは

展示の前に、まず専修寺について簡単に紹介しよう。

専修寺如来堂(左)、御影堂(左) 撮影:大屋孝雄
専修寺如来堂(左)、御影堂(左) 撮影:大屋孝雄

専修寺の歴史は、鎌倉時代に浄土真宗の祖・親鸞が下野(しもつけ)国(現在の栃木県)に念仏道場を建てたことに始まる。やがて室町時代、第10世の真慧(しんね)上人が現在地に寺を移し、宮廷や大名の庇護を受け飛躍的に発展した。そして室町時代の常磐井宮(ときわいのみや)家の入寺に始まり、飛鳥井家、近世以降は伏見宮家、有栖川宮家、あるいは近衛家といった宮家、公家から住職を輩出し、門跡寺院として、その格式を守り継いできた。

広大な寺の敷地の中でも特に重要なのが、如来堂と御影堂。共に国宝に指定されており、特に親鸞の像を安置する御影堂は、木像建造物として日本で5番目の大きさというから、その威容は想像に難くない。如来堂は、大きさは御影堂の半分ほどだが、鎌倉時代を代表する仏師の一人・快慶の作とされる阿弥陀如来立像が本尊として祀られ、信仰の要として荘厳な佇まいを見せる。

親鸞上人直筆の『西方指南抄(さいほうしなんしょう)』(国宝)をはじめとする親鸞関係の資料が多く伝わっており、「専修寺文書」と呼ばれる歴代為政者の文書は重要文化財に指定されている。

大学の調査で発見された至宝の数々

伊勢の中で信仰の拠点として重要な役割を果たしてきた専修寺。仏教・政治に関連する資料はすでにその価値が高く認められている一方で、美術工芸品に関する調査はほとんど手つかずの状態であった。

そこで令和5(2023)年より、学習院大学の文学部哲学科(美術史学専攻)の教員、卒業生、在校生らによる寺の「悉皆(しっかい)調査」が始まった。春と秋の年2回、約30名のチームが現地を訪れ、2泊3日の日程で行われ、すでに5回の調査が実施されている。(5回目の調査以降、地域の皇學館大学を中心にした古文書班が古文書の調査を行っている。)

調査の様子
調査の様子

蔵の中をはじめ寺には、600点は優に超える品が所蔵されており、本展ではその中でも、特に宮廷・公家にゆかりある作品が並ぶ。門跡寺院としての性格ゆえに、おのずと公家文化を色濃く伝える文物が多く残されるようになったのだ。現在進行形で調査が進んでいるため、本展はまさに「調査の最前線」と言えるだろう。

運慶風を伝える阿弥陀如来立像

展示は3つのテーマで構成され、まずは寺の信仰の様子を知るべく、仏像と絵巻が紹介されている。

《阿弥陀如来立像(御対面所本尊)》 慶俊 木造 金泥塗り・切金 玉眼嵌入 鎌倉時代・延応2年(1240)専修寺蔵
《阿弥陀如来立像(御対面所本尊)》 慶俊 木造 金泥塗り・切金 玉眼嵌入 鎌倉時代・延応2年(1240)専修寺蔵

この《阿弥陀如来立像》は、運慶の弟子とみられる仏師・慶俊(けいしゅん)の作と考えられており、端正な佇まい、左右非対称で写実的な衣のひだの表現など、充実した作風を見せる。高さ3尺の阿弥陀如来像は、快慶が作ったものが広く流布するが、運慶の作風による3尺の阿弥陀如来像の例は珍しいという。

像全体が黒ずんでいるが、ところどころに金泥が残っており、光を当てると金泥のマットな質感が浮かび上がる。
像全体が黒ずんでいるが、ところどころに金泥が残っており、光を当てると金泥のマットな質感が浮かび上がる。

一方、重要文化財《親鸞聖人伝絵》は、親鸞の生涯を描いた絵巻で、取材時は親鸞が9歳で出家した場面が展示されていた(会期中、場面替えあり)。

重要文化財《親鸞聖人伝絵》詞書:覚如 紙本著色 鎌倉時代・永仁3(1295)年 専修寺蔵
重要文化財《親鸞聖人伝絵》詞書:覚如 紙本著色 鎌倉時代・永仁3(1295)年 専修寺蔵

親鸞聖人伝絵として現存最古の本作は、詞書にも大きな特徴がある。絵巻には珍しく、全ての漢字にふりがなが振られているのだ。この理由として、詞書を記したとされる覚如(かくにょ)が関東にいる弟子に送ったものと考えられていることから、初めて伝絵をみる関東の人にも読めるようにということからではないか、という見解がある。

重要文化財《親鸞聖人伝絵》(部分) 親鸞聖人が出家する場面
重要文化財《親鸞聖人伝絵》(部分) 親鸞聖人が出家する場面

公家文化が香る絵画

続いて、本展のテーマである公家文化を伝える作品へと移る。まず、絵画作品のエリアでは、円山応挙をはじめとする京都画壇で活躍した絵師たちの作品が並ぶ。

展示風景
展示風景
《漁夫図》円山応挙 絹本著色 江戸時代・18世紀後半
《漁夫図》円山応挙 絹本著色 江戸時代・18世紀後半

江戸時代の京都画壇の巨匠である円山応挙の《漁夫図》は、寺に伝わる書簡には、明治時代の政治家として活躍した近衛家29代当主・近衛篤麿(あつまろ)の遺品として、その実弟である専修寺22世堯猷(ぎょうゆう)上人に贈られたことが記されている。

そのほか、様々な絵師が描いた五節句にちなんだ作品や、重要文化財に指定されている鎌倉時代の名品《佐竹本三十六歌仙絵巻》の断簡になる前の姿を彷彿とさせる《佐竹本三十六歌仙絵巻模本》など、美術史において興味深い作品も展示されている。

宮家・公家伝来の華麗で精巧な工芸作品

続く工芸のエリアでは、一目見ただけでその精巧さに目を奪われ、思わず見入ってしまう品々が並ぶ。

《桐鳳凰蒔絵書棚》 木胎 漆塗・蒔絵 江戸時代後期・1850年代
《桐鳳凰蒔絵書棚》 木胎 漆塗・蒔絵 江戸時代後期・1850年代

この《桐鳳凰蒔絵書棚》は、江戸幕府第14代将軍・徳川家茂が将軍に就任の際に近衛忠房が拝領したものだ。本作も、忠房の没後に三男である堯猷上人へ遺品として贈られ、寺に伝わった。天板の桐に鳳凰という図様、細部にわたり精密、華麗に仕上げられた端正な造形は、幕末期の江戸時代の武家・公家の交流の証としての風格を感じさせる。

《透彫双耳三足香炉》 薩摩焼 陶胎 明治時代~大正時代・19~20世紀 昭憲皇太后御遺品
専修寺蔵 撮影:大屋孝雄
《透彫双耳三足香炉》 薩摩焼 陶胎 明治時代~大正時代・19~20世紀 昭憲皇太后御遺品
専修寺蔵 撮影:大屋孝雄

技術と美の粋が尽くされた精巧で華やかな品はもちろん、動物や植物を写実的にかたどった置物など、思わずクスッと笑ってしまいそうな面白く可愛らしい品も天皇・皇后所持の品として伝わる。もちろんそれらも高い技術があってこそ成せるものであり、宮廷伝来のコレクションの技術と美の粋を示す。

《玉製鵞鳥置物》 玉 明治時代・20世紀 明治天皇御下賜品 専修寺蔵 撮影:大屋孝雄
《玉製鵞鳥置物》 玉 明治時代・20世紀 明治天皇御下賜品 専修寺蔵 撮影:大屋孝雄

また、主に輸出用と考えられる磁器の器なども展示されているが、これらの品々が寺に伝わった経緯は不明とのこと。ただ、長く門跡寺院としての格式を保ってきた専修寺の歴史を踏まえれば、当時の一級の技術の粋が尽くされたこうした品々が寄進などで伝わることも不思議ではないだろう。今後の調査によっては、こうした品々の伝来経緯なども明らかになるかもしれない。

展示風景
展示風景

教員・学生によるギャラリートーク

本展では、ギャラリートークが企画されており、会期中は連日12時40分~13時の間、学生(学部生・大学院生)や卒業生による解説を聞くことができる。また、6月6日(土)には近藤壮教授、13日(土)には荒川正明教授(霞会館記念学習院ミュージアム館長)(共に14時~)が予定されている。

学生によるギャラリートーク風景
学生によるギャラリートーク風景

取材時は、皿井舞教授のギャラリートークが開催されており、多くの参加者が、熱心に解説に耳を傾けており、トーク終了後も阿弥陀如来立像の前で次々と質問が飛び交っていた。現地調査に現在進行形で携わっている教員、学生らの解説や感想を聞くことができる貴重な機会だ。

展示室の照明を受けて輝きを放つ作品を見ると、本当にこうした輝かしい作品が人知れず蔵の中に眠っていたのかと疑いたくなるほどだ。しかし、皿井教授によれば「調査はまだ半ば。調査に行く度に次々新しい作品が出てくる」とのこと。まだまだ専修寺に伝わる美の世界は深いようだ。

知る人ぞ知る伊勢の名刹・専修寺。蔵の中に長い間収められていた品々は、学習院大学の調査チームの丹念な活動によって、まるで眠りから覚めたように、展示室の中で華麗なる姿を見せる。そしてタイムカプセルのように、伊勢と京都、寺と公家たちの結びつきの深さを物語り、私たちに伝えてくれる。

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霞会館記念学習院ミュージアム|Gakushuin University Museum of History
171-8588 東京都東京都豊島区目白1-5-1
開館時間:10:00〜17:00
休館日:日曜・祝日

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