絵を描くことは、終わりのない遊び。
安西水丸の創作の原点をたどる
「イラストレーター 安西水丸展 ぼくのあそび I DRAW TO PLAY」が、PLAY! MUSEUMにて2026年7月12日(日)まで開催

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文・中島文子
小説、漫画、絵本、エッセイ、広告、多方面で活躍したイラストレーター、安西水丸。2014年に急逝後もその人気は衰えることなく、現在進行形で作家活動が続いているような錯覚を覚えるほど。ファンではなくても、書籍や雑誌のカバーなど、何かしらの出版物で彼のイラストに触れている人は多いのではないだろうか。

2016年から日本各地を巡回し、大好評を得た展覧会「イラストレーター 安西水丸展」が、このたび立川のPLAY! MUSEUMから再始動した。「あそび」と「仕事」を行き来する安西の制作スタイルに着目し、原画や版画、印刷物、関連資料まで、新たな展示を加えて500点以上が並ぶ。注目は、PLAY! MUSEUMの特徴的な楕円の展示室で見せるホリゾン作品だ。安西の感性を育んだ千倉の海と約70点もの作品がシンクロし、イマジネーションがどこまでも広がっていく。生涯を通じて、「描くこと」を心底愛したイラストレーター、安西水丸の世界観に没入したい。
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- イラストレーター 安西水丸展 ぼくのあそび I DRAW TO PLAY
開催美術館:PLAY! MUSEUM
開催期間:2026年5月20日(水)〜7月12日(日)

子どもの頃からずっと変わらない「あそび」の感覚
シンプルで独特の間が絶妙な安西水丸のイラスト。ときにヘタウマと評されるその絵は、機知に富み、ユーモアがあり、観る者を自然と郷愁に誘う。本の装丁や装画、漫画、絵本、広告……型にはまらない多彩な表現活動を展開したが、実は安西水丸の名が広く知られるようになったのは40歳を超えてから。学生時代は美術大学でグラフィックデザインを学び、広告代理店や出版社を経て、39歳のときにフリーになり独立した。

安西にとって、さまざまな職業を経験したことは全て、イラストレーターになるためだったのだという。新聞広告に寄せた言葉「今でも小学生の絵を描いている。普通の人です」は、ある種の宣言とも受け取れる。いつも絵を描いて遊んでいた、子どもの頃の感覚をずっと大切に温め続けていたのだ。

まず、最初の展示室から「あそび」をテーマに掲げた本展の特色が表れている。入り口から入ってすぐに目に入るのは、今回から展示に加わった、安西が7歳の頃に描いたターザンの絵だ。もとの絵はクレヨンで描かれていたそうだが、躍動感あるタッチに、無心に絵を描く少年の姿が浮かぶ。この絵に、安西は61歳の時の言葉を添えて、一冊の作品集『あそび』(HBギャラリー 2003年)にまとめ上げた。50数年を経た言葉が7歳の感性に違和感なく溶け込み、当時の記憶を鮮やかに伝えている。
和田誠、村上春樹、嵐山光三郎、知己との共作
安西の瑞々しい感性は、絵本や漫画の世界でひときわ魅力的に輝く。中でも1987年に刊行した絵本『がたん ごとん がたん ごとん』(福音館書店)はいわずと知れた名作だ。シンプルな絵と言葉の中に驚きと抑揚を忍ばせて、想像力を刺激するのびのびとした世界を繰り広げた。


しかし、フリーで活躍するよりも前に、その才能を鋭く見抜いたのが、作家の嵐山光三郎である。1970年代、アメリカ帰りの安西は平凡社に入社し、そこで雑誌『太陽』の編集者だった嵐山と出会う。同い年の2人はすぐに打ち解けて、プライベートで共作を手掛けるほか、嵐山の勧めがきっかけで、安西は漫画雑誌『ガロ』に漫画を描き始めるようになる。子ども時代の体験が色濃く反映された漫画集『青の時代』は、中でも思い入れの深い作品で、安西は「自分にとって記念碑的な本」と後に語っている。パントーン・オーバーレイという透明のカラーシートを使った技法も、平凡社時代の1976年から取り入れるようになった。

『ピンキーとポッキー』(福音館書店)は、嵐山と安西が自分たちの子どもたちのために作った手描き絵本で、福音館書店に持ち込むとその場で出版が決まった。1976年に初版が刊行され、続編が2編生まれたが、シリーズ最後の1冊が出版されたのは2013年。「絵が上手くなりすぎて、最初の絵に戻すのに時間がかかった」という逸話もあるが、実際に安西は絵が技巧的になるのを避けていた節がある。上手い下手ではない、自分にしか出せない味をなにより大切にしていたのだ。

平凡社を退社しフリーになった安西は、村上春樹と出会い、村上作品の装丁や挿絵、共著など数々の仕事を共にする。中でも『中国行きのスロウ・ボート』(中央公論社)は、あえて線を省いた切り絵風のデザインが評判になり、このイラストに影響を受けてグラフィックデザイナーになったという若者が出るほど、世に知れ渡ることになった。

今回の展示では、近年アトリエで見つかった、村上の初期の短編『午後の最後の芝生』をイメージして描かれた原画も展示されている。安西は絵を描くことを通して、小説の世界に浸っていたのではないだろうか。生い茂る夏の草原と空虚な部屋の対比が印象的な余韻を残している。

後ろは、安西水丸と和田誠の2人展の作品
もうひとり、安西とつながりがある重要な人物が和田誠だ。安西が憧れの先輩として慕った和田とは、2001年の2人展「NO IDEA」を発端に、2人で1枚の作品を仕上げるというユニークなコラボレーションを2014年まで続けた。1枚の絵を右と左でそれぞれが半分ずつ描き分けるスタイルで、まずどちらかが先に左側を埋めてから相手に手渡し、残りの右側を仕上げる形で作業を進めていたのだという。失敗したら描き直しという緊張感すら、楽しんでいたのだろう。お互いに刺激を受けながら共作を継続していたことがうかがえる。2014年は開催準備中に安西が急逝したため、和田が安西の応答を想像して13枚のイラストレーションを完成させ、最後の2人展が開催された。
ホリゾン作品と言葉から立ち上がる、千倉の原風景
奥に進むと、本展のハイライトである大きな楕円の展示室が現れる。壁に並ぶ安西の文章を読み、作品を眺めながら、ゆっくり歩みを進めたい。約70点ものホリゾン作品が展示されているが、画面を横切る水平線の高さを揃え、ずらりと並ぶ様は圧巻だ。近年アトリエで発見された原画に加え、原画をもとに新たに作成されたジクレー版画など、これまで発表の機会がなかった作品も公開されている。

線を水平に1本引くというシンプルな技法だが、転々と並ぶものが台の上に置かれているかのように落ち着き、前景と背景が生まれる。安西は幼少期を房総半島の港町・千倉で過ごし、海は身近な存在だった。今回はホリゾン作品に連なるように「房総半島・千倉の海」の映像が上映される。空間全体が大きなインスタレーションとなり、読了感のある展示を演出している。

誰も真似できない絵を描き続ける
雑誌の表紙や広告、立体物など、ジャンルも様々に膨大な仕事をこなした安西水丸。一堂に会すと、その引き出しの豊富さに圧倒される。常に内容に合わせて技法を変え、ベストな表現を模索しながら、絵を描き続けた。


安西にとって、内容に合わせて技法を変えるということ自体、意識するまでもなく、自然に取り組んでいたことのかもしれない。たとえば、村上春樹と共作した絵本「ふわふわ」では、ひたすらふわふわ感を出すことに注力し、結果的に猫を部分的に描くことにした。通常、ホリズン作品ではシャドー(影)をつけてものを描いていたが、この時はふわふわ感を出すためにあえてシャドーは省いたのだという。こうした感覚的な判断は、真似しようと思ってできることではない。それこそ、遊びの心や子どもの感性が働いていたのではないだろうか。
PLAY! MUSEUMでは、本展開催期間中に、描いて作って楽しむ「水丸るワークショップ(一部有料)」を開催。ミュージアムショップでは、安西のイラストをあしらったユニークなグッズを多種揃えるほか、展覧会図録や書籍など、充実のラインナップだ。展覧会を楽しんだ後の余韻まで堪能したい。

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- PLAY! MUSEUM|PLAY MUSEUM
190-0014 東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3 2F
開館時間:10:00〜17:00(土日祝は18:00まで/入場は閉館の30分前まで)
会期中休館日:無休