アートがニューヨークを熱くする一週間。
ニューヨーク・アートウィーク2026
アートフェアから始まる、都市とアートの旅へ|Frieze & TEFAF ニューヨーク【前編】

構成・文:藤野淑恵
「世界のアートの中心はニューヨーク」— 昨年5月、ニューヨーク・アートウィークを歩いて、そう実感した。しばらく足が遠のいていたからなおさらのこと、アートを取り巻くニューヨークの変貌ぶりには目を見張った。パンデミックを経て美術館は改修・増築を終え、トランプ・タワーのお隣、五番街のティファニーには今をときめく現代アート作品が実装された。チェルシーのギャラリー街には美術館を凌駕する勢いのメガギャラリーが林立し、アートフェアはその規模と質を更新し続けている。
ニューヨークが最もアートの熱を帯びる5月、「ニューヨーク・アートウィーク」と呼ばれるこの時期は、フリーズ・ニューヨークとTEFAF(テファフ)ニューヨークという性格の異なる二つの国際アートフェアが同時開催され、ガゴシアン(Gagosian)やペース(Pace Gallery)といったメガギャラリーがシーズン最大の展示が幕を開け、ニューヨーク近代美術館(MoMA)やメトロポリタン美術館(MET)などの美術館が重要な展覧会を揃える。世界中のコレクター、ギャラリスト、キュレーター、批評家がマンハッタンに集結するこの一週間は、世界のアートの現在地を一気に把握できる稀有な機会だ。2026年はヴェネチア・ビエンナーレの会期中という国際的なアートシーンの文脈とも重なる。例年にも増して密度の高いシーズンとなるだろう。
ニューヨーク・アートウィーク2026 INDEX
フリーズ・ニューヨーク|Frieze New York
ガゴシアン|Gagosian
ハウザー&ワース|Hauser & Wirth
デイヴィッド・ツヴィルナー|David Zwirner
ペース・ギャラリー|Pace Gallery
ワンツーファイブ・ニュービュリー|125 Newbury
ホワイト・キューブ|White Cube
サテライトフェア——フリーズの外側に広がるもうひとつのシーン
TEFAF ニューヨーク|TEFAF NY

Frieze New York 2025. Photo by Casey Kelbaugh. Courtesy of Frieze and CKA.
世界の最重要フェアのひとつ、フリーズ・ニューヨーク。 現代アートの最前線が、ハドソン・ヤーズに集う
ニューヨーク市マンハッタンのハドソン川沿いの都市再開発エリア、ハドソン・ヤーズの先端に浮かぶように建つ、ザ・シェッド(The Shed)。「マコート」と呼ばれる可動式の外殻が特徴的なこの建築は、ニューヨークを拠点とする建築・デザイン事務所「ディラー・スコフィディオ+レンフロ(DS+R)」と「ロックウェル・グループ」が設計し、2019年に開館した。フリーズ・ニューヨークは2021年からこの場所で開催されている。かつてのフリーズ・ニューヨークは、マンハッタンの東側に流れる川に位置する、多くの公園や美しい夜景スポットが整備されたランドールズ島に約200近いギャラリーが集った大型フェアだったが、現在は67ギャラリーという厳選された規模となり数よりも質というスタンスで開催されている。

Photo by Casey Kelbaugh. Courtesy of Frieze and CKA.
2026年の第15回フリーズ・ニューヨークには26カ国67ギャラリーが参加する。フリーズは1990年にロンドンで創刊されたアート雑誌を母体に、2003年のフリーズ・ロンドン開催を皮切りに国際的なアートフェアへと発展した。現在はロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルス、ソウルで年4回のフェアを展開する、世界で最も影響力を持つアートフェア・ブランドのひとつだ。なかでもニューヨーク版は、世界最大のアート市場を擁するこの都市で開催されることから、国際的なコレクターとギャラリーが集まる最重要の舞台として位置づけられている。設立12年以下のギャラリーによるソロ・プレゼンテーション枠「フォーカス・セクション」は今年も11ギャラリーが参加し、そのうち5つのギャラリーがフリーズ・ニューヨーク初参加だ。

フォーカス・セクションに 二人の日本人アーティストが登場
若手ギャラリーの個展が開催されるフォーカス・セクションでは2名の日本人アーティストに注目したい。ひとりは1998年大阪生まれ、京都在住の竹林令香(Reika Takebayashi)。先のフリーズ・ロサンゼルスでは日本のタカ・イシイギャラリーのグループ展に登場したアーティストだ。今回はロンドンのPublic Gallery(パブリックギャラリー)から出展し、フィンランドでのアーティスト・イン・レジデンス滞在をもとにした新作絵画とセラミックを発表する。淡い油彩の重ね塗りで場所の記憶を変成させる作品は、今年フリーズが公式に発表した「注目の5作家」にも選出された。フリーズのスポンサーであるファッションブランド、Stone Island(ストーンアイランド)とのコラボレーションでフェア・スタッフのユニフォームもデザインしている。もうひとりは東京出身、ハドソン・バレー在住の後藤亜希(Aki Goto)。ニューヨークのギャラリー、EUROPA(エウロパ)から、子どもたちの日常を捉えた映像をテキスタイルプリントと組み合わせた彫刻的インスタレーションで出展する。

フリーズ・ニューヨークは今年、ホイットニー美術館とディア・アート・ファウンデーション(Dia Art Foundation)とのコラボレーションを実現し、フェアの体験を街全体へと拡張している。Dia Art Foundationは1974年にニューヨークで設立された非営利の芸術財団で、通称「Dia(ディア)」として、規模の大きな施設を運営している性質ゆえに通常の美術館やギャラリーでは実現できないアーティストの野心的なプロジェクトを支援してきた。ミニマリズムやコンセプチュアル・アートの巨匠——ドナルド・ジャッド、ダン・フレイヴィン、ウォルター・デ・マリア、リチャード・セラ——との深い関わりで知られ、チェルシーのDia Chelseaとハドソン川沿いのDia Beaconを主な拠点とする。そのDia Chelseaでは現在、アルゼンチン人コンセプチュアル・アーティスト、デイヴィッド・ラメラスの初の大規模個展を開催中で、フリーズとのコラボレーションにより彼の映像作品がフェア会場内にも展示される。

ホイットニー美術館とのコラボレーションでは、ジョナサン・ゴンサレスがビエンナーレのために制作した写真インスタレーションをザ・シェッド内で展示するほか、5月15〜17日にはホイットニー美術館のテラスから、ここを南側の起点にはじまるマンハッタンの古い高架鉄道の跡地を再利用した全長約2.3kmの空中公園、ハイライン(The High Line)にかけての持続的パフォーマンスも繰り広げられる。アートフェア会場からハイラインを歩いてフリーズ・ニューヨークに出展するギャラリーが集結する世界有数のアートギャラリー街チェルシーへ、さらにその先のホイットニー美術館へ——パフォーマンスも展示も動線に溶け込むこのシーズンのニューヨークは、フェアの「外側」にこそ見逃せないものがある。

- アートフェア情報|アメリカ・ニューヨーク
Frieze New York(フリーズ・ニューヨーク)
会期:2026年5月13日(水)〜5月17日(日)
VIPプレビュー:5月13日(水)〜14日(木)
会場:The Shed(ザ・シェッド) 住所:545 West 30th Street, New York, NY 10001
https://www.frieze.com/fairs/frieze-new-york
ザ・シェッドのフリーズ・ニューヨークから ハイラインを渡って、チェルシーのメガギャラリーへ
ザ・シェッド(The Shed)の会場の位置するハドソン・ヤードから、ハイラインを歩けば10分足らずでチェルシーのギャラリー街にたどり着く。フリーズ・ウィーク中、メガギャラリーはフェアのブース出展と並行してチェルシーの本拠でも重要展示を開幕させる。フェアで出会ったギャラリーに赴き、開催中の展覧会でまったく別の発見をする——この往復がニューヨーク・アートウィークの醍醐味だ。

チェルシーのギャラリー街はウェスト20丁目から27丁目にかけて、ハドソン川寄りの数ブロックに凝縮している。ペース(Pace Gallery)、ガゴシアン(Gagosian)、ハウザー&ワース(Hauser & Wirth)、デイヴィッド・ツヴィルナー(David Zwirner)という4つのメガギャラリーがすべてこのエリアに複数スペースを構え、ホワイト・キューブ(White Cube)、グラッドストーン(Gladstone Gallery)、リッソンギャラリー(Lisson Gallery)といった世界の重要ギャラリーも軒を連ねる。これほどの質と密度が数ブロックに集中したギャラリー街は世界でも他に類を見ない。もちろん、すべて無料で入場・鑑賞できる。1ブロック歩くごとに展示が変わるこの一帯を歩くだけで、美術館とは異なる生きたアートの現在に触れることができる。
ガゴシアン|Gagosian

© Sarah Sze Courtesy the artist and Gagosian
世界18都市に20以上のスペースを展開する、文字通り世界最大のメガギャラリー。ラリー・ガゴシアンが1980年にロサンゼルスで創業し、ピカソ、アンディ・ウォーホル、アニッシュ・カプーアからバスキア、ジェフ・クーンズ、杉本博司まで、20〜21世紀美術の頂点に立つ作家を網羅する。ニューヨークだけでチェルシーに2スペース、アッパー・イースト・サイド(セントラルパークの東側に広がるエリア)のマディソン・アベニューに1スペースを構え、今年はその980番地に新たな1階スペースが加わった。

フリーズ・ニューヨークではダーリック・アダムス、ナン・ゴールディン、サラ・ジーらによるグループ・プレゼンテーションを開催。チェルシーではヘレン・フランケンサーラー展(ウェスト21丁目、〜7月2日)が会期中。アートウィーク開幕と同じ5月15日には、ウェスト24丁目でアンゼルム・キーファーの新作展「Seal My Ears Shut and I Shall Hear You Still」が開幕する。ライナー・マリア・リルケの詩とカスパー・ダーヴィト・フリードリヒの絵画、古代神話の女性像からインスピレーションを得た新作絵画群を展示。電解沈殿物など独自の素材を駆使し、自然と変容を探求する(〜6月27日)。さらにマジソン・アベニュー980番地の新設スペースでは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のデュシャン回顧展と呼応するように4月25日からデュシャン展がこけら落としとして開幕。ギャラリーと美術館が同一作家を異なる文脈で見せるという、ニューヨークならではの重なりが生まれている。
- ギャラリー情報|アメリカ・ニューヨーク
Gagosian(ガゴシアン)
980 Madison Avenue / 522 West 21st Street / 541 West 24th Street, New York
https://gagosian.com/
ハウザー&ワース|Hauser & Wirth

チューリッヒを本拠地に1992年に創業し、現在はニューヨーク、ロンドン、ロサンゼルス、サマセット、香港など世界20拠点以上を擁するギャラリー。存命作家と歴史的作家を両輪に据え、フィリップ・ガストン、ルイーズ・ブルジョワといった20世紀の巨匠から、抽象絵画で注目を集めるエイヴリー・シンガー、写真と映像で人種と記憶を問い続けるロレーナ・シンプソンら現在進行形の作家まで幅広く代理する。近年は主要美術館の展覧会と所属作家が連動するケースが相次ぎ、その影響力と存在感はギャラリーの域を超えつつある。

フリーズ・ニューヨークにはエイヴリー・シンガーとシンディ・シャーマンの新作によるデュオ・プレゼンテーションで出展する。また、ホイットニー美術館、グッゲンハイム美術館など主要美術館では、同ギャラリー所属作家が出展する展覧会が同時に開催されている。チェルシーでは22丁目の拠点でドミニカ共和国出身の具象画家、フィレライ・バエスと、イタリアのアウトサイダー作家、キャロル・ラマの個展(〜7月31日)、18丁目では画家フィリップ・ガストンの晩年の作品を軸にした《Life with P.》(〜7月10日)が開催中だ。
- ギャラリー情報|アメリカ・ニューヨーク
Hauser & Wirth(ハウザー&ワース)
542 West 22nd Street / 511 West 18th Street, New York
https://www.hauserwirth.com/
デイヴィッド・ツヴィルナー|David Zwirner

ドイツ出身のデイヴィッド・ツヴィルナーが1993年にニューヨークで創業。現在はニューヨーク、ロンドン、パリ、香港に拠点を持ち、ゲルハルト・リヒター、ジャスパー・ジョーンズといった巨匠から、昨年新たに所属した奈良美智、そして具象と抽象の間を自在に往来するニューヨークの画家ジョー・ブラッドリーら現在進行形の作家まで幅広く代理する。ニューヨークのチェルシーには19丁目と20丁目に2スペースを構えるほか、アッパー・イースト・サイドの69丁目にも第3のスペースを持つ。昨年のフリーズ・ウィーク期間中には同スペースで日本人画家・西村有の米国初個展を開催し、チェルシーとは異なる親密なスケールの展示として注目を集めた。

フリーズ・ニューヨークでは、ジョー・ブラッドリーのソロ・プレゼンテーションを展開。新作絵画とペーパー・ワークをフェアで初公開する。豊かな色彩と力強いマークが幾何学的な形態を複雑に折り重ねる《Mayday》(2026年)をはじめ、ブラッドリーの真骨頂が堪能できる構成だ。チェルシーでは537 West 20th Streetでゲルハルト・リヒター《Landschaften》(〜7月10日)を、533 West 19th Streetでは所属20周年を記念したリサ・ユスカヴェイジ(Lisa Yuskavage)の新作絵画とコラージュによる個展(5月14日〜)を開催する。
- ギャラリー情報|アメリカ・ニューヨーク
David Zwirner(デイヴィッド・ツヴィルナー)
537 West 20th Street / 525 West 19th Street / 34 East 69th Street, New York
https://www.davidzwirner.com/
ペース・ギャラリー|Pace Gallery

ニューヨークを最大の本拠地とするギャラリーとして、ペースの存在感はひときわ際立つ。アーネ・グリムチャーが1960年にボストンで創業し、現在はニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、ジュネーヴ、ベルリン、東京、ソウルなど世界の都市に拠点を持つ。なかでもニューヨークのチェルシーには25丁目だけで8階建てのフラッグシップを含む2棟の大型スペースを構え、その総面積は他を圧倒する。デイヴィッド・ホックニー、アレクサンダー・カルダーといった巨匠から、現在ロサンゼルスのペース・ギャラリーで個展を開催中の名和晃平(〜6月13日)ら現在最も注目される作家まで、守備範囲の広さもペースの特徴だ。

フリーズ・ニューヨーク開幕と同じ5月15日、チェルシー本拠で4本の展覧会が同時に幕を開ける(いずれも〜8月14日)。画家・映画監督として知られるジュリアン・シュナーベルの「Italy Through Its Trees」は、イタリアの象徴であるイタリアン・アンブレラパインを描いたプレート・ペインティングとマップ・ドローイングによる新作群。デイヴィッド・ホックニーの「The Moon Room」は、コロナ禍にノルマンディーの農家に隔離された期間中にiPadで制作した月をテーマの絵画シリーズで、ペースとの10回目の個展となる。フェアとギャラリーを同日に開幕させるという演出は、ニューヨークを最重要拠点と位置づけるペースならではのスケールだ。

David Hockney《31st October 2020, No. 1》2020 © David Hockney

- ギャラリー情報|アメリカ・ニューヨーク
Pace Gallery(ペース・ギャラリー)
540 West 25th Street / 510 West 25th Street, New York
https://wwwpacegallery.com/
ホワイト・キューブ|White Cube

1993年にジェイ・ジョプリングがロンドンで設立しダミアン・ハースト、トレイシー・エミン、ギルバート&ジョージを擁する「YBA(ヤング・ブリティッシュ・アーティスト)」ムーブメントの震源地となったギャラリー。現在はロンドン、ニューヨーク、パリ、ジュネーヴ、ソウル、香港に拠点を持つ。

Courtesy White Cube
フリーズ・ニューヨークではトレイシー・エミン、シアスター・ゲイツ、ダミアン・ハーストらによるグループ・プレゼンテーション。TEFAFニューヨークではサイ・グオ=チャン(蔡國強)のソロ・ブースを構成する。数十年にわたり主に黒色火薬で制作してきた同作家が、初めて鮮やかな色彩の火薬を用いたキャンバス作品を発表する。マジソン・アベニューのギャラリーでは、アフリカ系アメリカ人の日常や人種問題を独自の素材と批評的ユーモアで問い続けてきたデイヴィッド・ハモンズと、石炭、鉄、生きた馬など日常的素材でギャラリー空間を変容させたアルテ・ポーヴェラの旗手、ヤニス・クネリス(1936〜2017年)の二人展を開催。フリーズとTEFAFとギャラリーで濃密な展示を同時進行させる振り幅の大きさこそが、ホワイト・キューブというギャラリーの真骨頂だ。
- ギャラリー情報|アメリカ・ニューヨーク
White Cube(ホワイト・キューブ)
1002 Madison Avenue, New York
https://www.whitecube.com/
フリーズの外側に広がる、もうひとつのアートシーン
— サテライトフェア

フリーズ・ウィークと同じ時期、チェルシー周辺ではサテライトフェアも活況を呈する。1993年にマイアミで創設されたNADA NY(ナダ・ニューヨーク/New Art Dealers Alliance、5月13〜17日)は、新興ギャラリーとアーティストの発掘に特化したフェアで、今年は121ギャラリーが参加。東京のAKIINOUEギャラリーが永嶋雪菜をNADA Projectsに出展し、京都のCOHJU(コウジュ)もギャラリー部門に登場する。2012年にニューヨークで始まったインディペンデント(Independent、5月14〜17日)は、ギャラリーではなくアーティストやキュレーターとの直接的な関係を重視する実験的なフェアとして知られる。今年は新会場ピア36(Pier 36)に移転し76ギャラリーが参加。東京のA Lighthouse called Kanata(ア・ライトハウス・コールド・カナタ)が前田正憲の個展で初参加する。12回目を迎える1-54現代アフリカ美術フェア(1-54 Contemporary African Art Fair、5月13〜17日)も、アフリカン・ディアズボラの表現を独自の視点で提示する。
- アートフェア情報|アメリカ・ニューヨーク
NADA New York(ナダ・ニューヨーク)
会期:2026年5月13日(水)〜5月17日(日)
会場:Starrett-Lehigh Building(スターレット・リーハイ・ビル)
住所:601 West 26th Street, New York, NY 10001
https://newartdealers.org/
Independent New York(インディペンデント・ニューヨーク)
会期:2026年5月14日(木)〜5月17日(日)
会場:Pier 36(ピア36) 住所:299 South Street, New York, NY 10002
https://www.independenthq.com
1-54 Contemporary African Art Fair(1-54現代アフリカ美術フェア)
会期:2026年5月13日(水)〜5月17日(日)
会場:1-54 住所:155 West 25th Street, New York, NY 10001
https://1-54.com/
時を超えた審美眼。 パーク・アヴェニュー・アーモリーで開催されるTEFAFニューヨーク

アッパー・イースト・サイド、パーク・アベニュー66丁目に位置するパーク・アベニュー・アーモリーは、1881年竣工の歴史的建造物でニューヨーク市のランドマークに指定されている。約5,100平米の柱のない巨大な空間であるドリル・ホールと、16の歴史的なピリオド・ルームを持つこの建物が、毎年5月にTEFAFニューヨークの舞台となる。ルイス・コンフォート・ティファニーらが手がけた豪奢な16の歴史的ピリオド・ルームを持つこの建物は、毎年5月にTEFAFニューヨークの舞台となる。ピリオド・ルームをアートフェアに独占使用できるのはTEFAFだけという特権的な環境で、出展作品はすべて専門家によるヴェッティング(真贋・状態審査)を通過したもの。フリーズがコンテンポラリーの最前線を映す鏡であるとすれば、TEFAFは時代と素材を超えた「目利き」の場だ。

TEFAFとは「The European Fine Art Fair(ヨーロッパ美術・骨董品フェア)」の略称で、1988年にオランダ南部の古都マーストリヒトで創設された。アート・バーゼルやフリーズがコンテンポラリー・アートを主軸に据えるのに対し、TEFAFは古代から現代まで、絵画・彫刻・工芸・宝飾・古書に至るあらゆる時代とメディアを横断する唯一の国際フェアとして知られる。出展作品すべてに独立した専門家パネルによる厳格なヴェッティング(真贋審査および状態確認)を義務づける制度は、創設当初から変わらない。3月開催のマーストリヒト本拠地のフェアは「世界最高峰のアートフェア」として長年君臨しており、2016年にそのニューヨーク版として「TEFAFニューヨーク」が誕生した。

《リンデゴーデンの大広間の室内(Interior of the Great Hall in Lindegaarden)
》1909年油彩、カンヴァス © Vilhelm Hammershøi, Courtesy Private Collection Photo: Annik Wetter
2026年の第9回TEFAFニューヨークには88ギャラリー、14カ国が参加。会期は5月15日から19日(招待制プレビュー:14日)。ガゴシアン、ハウザー&ワース、ペース、ツヴィルナーの4社がフリーズ・ニューヨークと重複出展するが、ブース内容は対照的だ。フリーズではギャラリーの「今」を示す現役作家の新作を並べるのに対し、TEFAFでは歴史的価値の確立した作家のソロ展示で「目利きの深さ」を示す。昨年はガゴシアンのアンナ・ウェヤント展が完売、ツヴィルナーのルース・アサワ展が開幕日にほぼ完売するなどフリーズ・ニューヨークを上回る熱気を記録した。

今年はハウザー&ワースが復帰し、デンマーク出身の画家ヴィルヘルム・ハマースホイ(1864〜1916)の4点による個展を構成する。コペンハーゲンの自邸で、室内の光と空間を静謐な油彩に閉じ込め続けたハマースホイは、フェルメールの系譜に連なる画家として知られる。出品作にはロンドン滞在中に描かれた《Interior in London, Brunswick Square》(1912年)も含まれており、北欧の視線がロンドンの室内空間をどう捉えたかという、稀有な記録でもある。ハマースホイの作品がアメリカで公開される機会は稀という。TEFAFというフェアの選択が作品の本質にふさわしい。

ガゴシアンは、ニューヨーク拠点のキャスリーン・ライアンによる「Bad Fruit」シリーズ(2018年〜)の最新彫刻作品でブースを構成する。腐敗した果物を拡大した形態に、宝石・半貴石・真珠・オパールを一本一本ピンで留めて覆うという精緻な手仕事による作品群は、ヴァニタスの美術史的伝統を継承しながら、消費資本主義への批評をユーモラスかつ痛切に体現する。

ペースはTEFAFニューヨークで「リアリズム」をテーマにしたグループ・プレゼンテーションを構成する。チャック・クローズの大型肖像画《Joel》(1993年)を中心に、シルヴィア・プリマック・マンゴールドらの作品を並べ、写実表現の多様な展開を横断するキュレーション型のブースとなる。
フリーズ・ニューヨークを起点に、ハイラインを渡ってチェルシーのギャラリー街へ、さらにアッパー・イースト・サイドのTEFAFニューヨークへ——5月のニューヨークは、街全体がひとつの巨大なアート空間になる。一日では到底巡りきれないほどの密度と多様性が、この都市の一週間に凝縮されている。

後編では、一年で最も注目を集めるオークションと美術館にフォーカスを当てる。サザビーズ新拠点ブロイヤー・ビルを舞台にした春のオークション、クリスティーズのマーキー・ウィーク——ポロック、ブランクーシ各1億ドル級を擁する史上屈指のシングルオーナー・セール群——は、アートウィークをマーケットという角度から照らし出す。美術館ではニューヨーク近代美術館(MoMA)、ホイットニー美術館、グッゲンハイム美術館に加え、アッパー・イースト・サイドのメトロポリタン美術館(MET)とフリック・コレクションまでを紹介する。ニューヨーク・アートウィークの旅は続く。