予想もできない展開が待ち受ける。
驚異の過剰性の先に現れる「消滅」
「驚異の部屋の私たち、消滅せよ。— 森村泰昌・ヤノベケンジ・やなぎみわ —」が、大阪中之島美術館にて開催

ヤノベケンジによる「Room1:博覧会は子供の領分」展示風景
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文・赤坂志乃
「さよなら、美術館。」そんな挑発的なコピーが添えられた、注目の展覧会「驚異の部屋の私たち、消滅せよ。— 森村泰昌・ヤノベケンジ・やなぎみわ —」が、大阪中之島美術館で開催されている。関西を代表する作家であり、国際的にも活躍するこの3人が集まるだけで何かが起きそうな予感しかない。それぞれの活動が凝縮された驚異の部屋から一転、消滅美術館へ。どんなアート体験が待っているのだろう。
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- 「驚異の部屋の私たち、消滅せよ。— 森村泰昌・ヤノベケンジ・やなぎみわ —」
開催美術館:大阪中之島美術館
開催期間:2026年4月25日(土)〜7月20日(月・祝)
美術館初。異例の3人展

本展は、森村泰昌の呼びかけに、ヤノベケンジ、やなぎみわが応答し、2024年3月にプロジェクトがスタート。毎月定例会議を開き、ゼロから企画を練り上げた異例の美術館初の3人展だ。発起人の森村は、「動機は単純で3人でやったら面白そう。私自身がこの目で見てみたいとずっと思っていた」という。妥協を許さない孤独な表現者が集結すればどんなことになるのか。観客は見知らぬ都市の散歩者として、美術館を逸脱した作家たちの驚異の部屋を巡り、最後の部屋で「消滅」の現場に立ち会う。
圧倒的な物量で迫りくる、100歳のヤノベケンジの回顧展

最初は、ヤノベケンジによる「Room1:博覧会は子供の領分」。空間を埋め尽くす圧倒的な作品群にくらくらしそうだ。まさに驚異の部屋。SHIP’S CAT、トらやん、アトムスーツ、サン・チャイルド…。博覧会は人気のキャラクターたちでにぎやかだが、その背後には核や震災などの危機的な世界観が横たわっている。

100歳のヤノベケンジの回顧展という形を取り、これまでの代表作から本展のための最新作《ヤノベケンジ 100歳の肖像》の映像作品や《稲妻絵画》までを展示。ヤノベの創作の軌跡をたどりつつ、消滅の伏線となる未来の作品についても提示されている。
映画看板の絵師とコラボ。昭和の香り漂う《M式・大阪八景》

続く「Room2:広場にパノラマ絵画奇譚」は、森村泰昌の部屋。「失われた記憶の復活祭をご堪能いただければ拍手喝采」と森村の口上に導かれて入ると、新作《M式・大阪八景》が迎えてくれる。森村自身が何者かに扮して撮影するセルフポートレート作品の中から大阪が舞台の8作品を選りすぐり、映画看板の絵師とのコラボで巨大な看板絵に仕立てた。

森村のおすすめは、新世界の通天閣と実家近くにあった旧大阪赤十字病院だ。1995年に通天閣を背景にブリジット・バルド-に扮した森村がハ-レ-ダビッドソンにまたがって撮影を始めると、日雇い労働のおじさんたちで黒山の人だかりができたという。今では日雇い労働者の姿は減り、昭和レトロで人気の一大観光地になっている。

軽妙でいてそこはかとなく喪失感が漂うM式・大阪八景。それぞれ作品の前に立てられたQRコードをスマホに読み込むと、森村の饒舌な語りによって幻影のような大阪の原風景が立ち現れる。タブロイド新聞形式のハンドアウトを手に散歩しよう。
やなぎみわが表現する、あの世とこの世のあわい「黄泉平坂」

「Room3:坂道のオード(賛歌)」は、近年、やなぎみわが取り組んでいる、あの世とこの世のあわいにある「黄泉平坂(よもつひらさか)」の濃密な世界。福島の桃の果樹園を毎夏、10年間撮影した写真作品《女神と男神が桃の樹の下で別れる》のほか、古事記に登場する、火、土、鎧、水を産んだ女神イザナミをテーマにした鋳造作品、舞台公演「黄泉平坂~排斥と遊戯~」の映像を展示。身体的で女性的、魂の奥底にずしんとくるような重みを感じる。

新たなシリーズとして、神戸六甲ミーツ・アート2025で上演した演劇作品「大姥百合」の記録映像と鋳造作品にも引き込まれる。
再び3人が集結し、最新作を発表

「Room4:迷宮を紡ぐ厳粛な綱渡り」で、3人が再び集結。各作家が今、最も関心のある内容で制作した最新作が集う。森村泰昌は、同館が所蔵する大阪の日本画家・木谷千種の《浄瑠璃船》(1926)を原画に、新たなビジュアル世界に挑んだ新作を発表。VFX的な手法ではなく、実写優先の特撮的な手法を用いることで、生身としてのリアルにこだわって制作したという。

ヤノベケンジは八掛から着想した8つのテーマで、短刀の拵(こしらえ)に装飾を施した新作《八掛連環(はっけれんかん)》シリーズ全8本を一堂に公開。ヤノベ作品を引用した斬新なデザインが際立つ。刀匠・河内國平との協働による太刀作品《天地以順動》も展示されている。

やなぎみわは、古代ギリシャ・ローマの船首像を巡るシリーズで新たな展開を見せる。ギリシャ神話に登場するアルゴー船の女性の船首像を撮影した写真シリーズ(2019)と、新たに創作したロストラ柱の船首像の写真(2026)をあわせて展示。帆船を守護する象徴としての女性像が別の意味合いを持ち始める。
消滅美術館とは何か

作家それぞれの驚異の過剰性、横溢感に圧倒されて、最後のRoom5にたどり着くと、一転、いきなり真っ白な空間に放り込まれる。白い画面と白い展示台、そして白い舞台。照明は当たっているが、作品は見当たらない。やなぎみわが「エア展示」と呼んだこの空間は、3人の作家が共作した《消滅美術館》。当初は構想になかったが、過剰性に振り切ったままでは「終われない」とさらなる議論を重ね、「消滅」という究極のテーマに至ったという。
「絶望するな。では、失敬。」と題されたこの部屋では、講談師や能楽師、落語家、パントマイムの俳優、ダンサーらが登場し、言葉や身体による語りを繰り広げる。3作家が練り上げた脚本を、やなぎみわが演出。どんな作品が立ち現れるのかは、観客一人ひとりの想像力にゆだねられる。
タイトルの「消滅せよ。」について、森村氏は「欲望の発露としての表現の過剰性と、全く真逆の何もない消滅性。このふたつを注意深く見極めながら、危うい綱渡りを続けていくという覚悟。これが、われわれが過剰性の果てに見出した共通の時間ではなかったか」と、語っている。独自の表現を追求し続ける3人の作家がそれぞれの驚異の部屋の先に見出した「消滅美術館」。美術館は、アートは、どこに向かうのか。架空と現実が交差する展示体験をぜひ味わってほしい。