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FEATURE

多様な文化が行き交うシルクロードが紡いだ
暮らしを彩るデザイン

「中央アジアの手仕事 ―華麗なる刺繍とジュエリー 広島県立美術館コレクションより―」が
渋谷区立松濤美術館にて2026年6月14日(日)まで開催

展覧会レポート

展示風景 渋谷区立松濤美術館
展示風景 渋谷区立松濤美術館

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文・構成 澁谷政治

「中央アジア」と聞いて、何を思い浮かべるだろう。中国からインドや中東へと続くシルクロード交易の経由地、そして近代には旧ソ連としてロシアとも関係の深い地域として知られるが、長らく目的地としてはあまり認識がされて来なかった。しかし、昨今政治経済上も発展著しいパートナーとして、また一般的にも悠久のシルクロードの乾いた砂漠イメージを脱し、実は刺繍や手工芸、料理などに代表される多彩でユニークな文化が注目され、世界からの関心が高まっている。
そんな中央アジアにおける鮮やかな色彩パターン、細やかな手工芸に触れられる服飾コレクション285件を一堂に会した展示「中央アジアの手仕事 ー華麗なる刺繍とジュエリー 広島県立美術館コレクションよりー」が、東京・渋谷の松濤美術館で、2026年6月14日(日)まで開催されている。

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「中央アジアの手仕事 ―華麗なる刺繍とジュエリー 
広島県立美術館コレクションより―」
開催美術館:渋谷区立松濤美術館
開催期間:2026年4月11日(土)〜6月14日(日)

中央アジアは、一般的に旧ソ連CIS諸国のうちウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタンの5か国を指す。元々シルクロードの要衝、オアシス都市で栄えた歴史から、遊牧民や東西諸国の商人たちの交易拠点として知られている。ただし、商品の取引だけではなく、ユーラシアをまたぐ様々な地域との交流を通じ、魅力あふれる新たな独自の文化を発展させてきた。日本では、年配層にはシベリア抑留の地として、また1980年代に一世を風靡したNHK特集『シルクロード』や、画家平山郁夫氏によるシルクロードシリーズの作品イメージが強い。しかし、近年は漫画家森薫氏による中央アジアの女性や文化を丁寧に描いた作品『乙嫁語り』の人気などから、新たに若年層、女性層にも中央アジア圏の文化が注目されている。昨年12月に東京で開催された「中央アジア+日本」対話(CA+JAD:カジャッド)初の首脳会合においても、各国の民族衣装を纏ったかわいらしい女性たちの森薫氏によるイラストがイメージキャラクターとして起用された。本展示でも森薫氏が広島県立美術館のコレクションをもとに描いた民族のイラスト説明や、その原画を見ることができる。

ウズベキスタンの刺繍布(スザニ) 筆者撮影
ウズベキスタンの刺繍布(スザニ) 筆者撮影

今回の展示は、ウズベキスタン、トルクメニスタンの刺繍や織物、装身具などを中心に構成されている。館内地下1階から始まる第1章はスザニと呼ばれる「刺繍布」である。ペルシア語のスザン(針)を語源とする刺繍は、壁掛け、掛け布、礼拝布など様々な場面で活用されてきた。多様なステッチによる刺繍のデザインは、アジアの多くの民族同様に女性の技術として代々受け継がれ、スザニは花嫁の持参品となるなど社会慣習の中に溶け込んできた。白地に色鮮やかな花や蔓草、果物などを意匠とした繊細なデザインは、土漠が続く厳しい生活環境の中での豊かで温かい暮らしを想像させる。上記写真は、筆者が以前訪れたウズベキスタンのスザニの露店売りだ。イスラム建築の美しい都市サマルカンドなどで知られるウズベキスタンは、日本からの直行便もあり、今や旅行客も気軽にシルクロードの文化を楽しむことができる。今回の展示ではこの美しいデザインの源泉が、過去から脈々と受け継がれていることを認識させられる。

《刺繍布(スザニ)》19世紀後半 広島県立美術館蔵
《刺繍布(スザニ)》19世紀後半 広島県立美術館蔵

第2章は膨大な数の「ジュエリー」で構成される。中央アジアでは民族衣装にジュエリーが欠かせない。特にカーネリアンを散りばめた重厚な銀などトルクメニスタンの装身具は、頭、こめかみ、耳、首、胸、背中など様々な種類があり、見ていて飽きが来ない。アシク(トルクメン語で愛の意)と呼ばれる背飾りは、ハートの形をしているが、本来邪視除けのお守りとして髪や背中に着け、見せるためのものではないという。余談だが、トルクメニスタンの首都アシガバードも「愛の都」という意味である。中央アジアの中でも特に情報が少ない国だが、アシガバードは大理石の建物が立ち並ぶ白亜の都市としても知られる。子供用のお守りとしても使用される背飾りや胸掛けなどの展示を見ていると、中央アジアの親たちの深い愛情が感じられる。また、以前同じ松濤美術館で開催された「アイヌの装いとハレの日の着物」のアイヌの装身具でも見られたが、ロシアの硬貨をジュエリーや化粧道具などに取り込んだものもあり、隣国ロシアの歴史的に色濃く長い影響も興味深い。

《背飾り(ゴシャ・アシク)》 テケ族、トルクメン人 19世紀初期 広島県立美術館蔵
《背飾り(ゴシャ・アシク)》 テケ族、トルクメン人 19世紀初期 広島県立美術館蔵

また、昨年の大阪・関西万博のパビリオンでも注目されたが、黄金の馬「アハルテケ」で知られるとおり、トルクメニスタンにおいて馬は特別な存在である。そのため、男性たちは馬たちをこぞって豪華な馬具で着飾ったという。展示されている馬用の額飾りや首帯を見ていると、気高く大地を駆るトルクメニスタンの馬たちの姿が目に浮かぶ。

展示風景 渋谷区立松濤美術館
展示風景 渋谷区立松濤美術館

外出時に頭から被るトルクメニスタンのチルピは、袖に手を通せない作りになっており、風に揺れる仕様が興味深い。なお、新婚女性は紺や黒、中年女性は黄色、そして預言者ムハンマドの享年といわれる63歳以上になると白色と、年齢によりチルピの色も変わっていくという。

《女性用被衣(チルピ)》テケ族、トルクメン人 19世紀 広島県立美術館蔵
《女性用被衣(チルピ)》テケ族、トルクメン人 19世紀 広島県立美術館蔵

第3章では「衣装」を取り上げている。ウズベキスタンを中心によく見られる経絣は、コート(チャパン)や上衣(コイネク)などでよく使われる。東南アジアのイカットとも似たこの文様は、絹をアトラス、半絹はアドラスと呼ばれ、中央アジアの象徴的なデザインとして知られる。19世紀後半に日本のジャポニズムが欧米の芸術に影響を与えたと言われるが、それよりはるか前から中央アジアやイスラム文化圏のデザインも欧米の芸術家に注目されてきた。現在はラルフ・ローレンなど欧米のデザイナーもインスピレーションを受けファッションに取り入れているが、こうした染織物も、旧ソ連時代には職人が工場に集められ、国家が定めた均一的なデザインのみを強要された歴史があったという。しかし、夜ごと監視の目をかいくぐって伝統デザインが受け継がれてきた結果、シルクロードの時代に育まれた豊かなデザインは消え去ることなく、現代も人々の生活を彩り続けている。

渋谷区立松濤美術館 展示風景
渋谷区立松濤美術館 展示風景

筆者は以前中央アジアで長期に滞在した経験があり、今回数々の衣装、ジュエリーの展示から、彼らが紡いできた豊かでユニークな美的感覚を改めて感じ、中央アジアで出会った人懐っこい笑顔を思い出しながら鑑賞していた。衣服や装身具の先には、その一つ一つを身に着けた人々の人生がある。展示されている帽子(ドゥッピ)やコート(チャパン)は、時代に合わせてジーンズなどとともに今でも日常で着用されている。シルクロードが育んだデザインを堪能しながら、そこに行き交う人々を巡るドラマを想像し、近代化する現在の中央アジア、そして発展が続く未来の姿にも関心が高まっていく。今回の展示に合わせ5月には、おいしい中央アジア協会の山田有佐子氏による食文化セミナー、所蔵館である広島県立美術館の福田浩子氏による記念講演、そして6月には駒﨑万集氏によるウズベキスタンの伝統楽器ドゥタールコンサートなど、中央アジアの文化を知るイベントも多数行われる。この機会に是非、中央アジアの色々な側面を知り、新たなシルクロードのイメージを楽しんでほしい。

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渋谷区立松濤美術館|THE SHOTO MUSEUM OF ART
150-0046 東京都渋谷区松濤2-14-14
開館時間:10:00〜18:00
会期中休館日:月曜日、5月7日(木)※5月4日は開館

澁谷政治 プロフィール

北海道札幌市出身。学部では北欧や北方圏文化を専攻し学芸員資格を取得。大学院では北方民族文化に関する研究で修士課程(観光学)を修了。メディア芸術やデザイン等への関心のほか、国際協力に関連する仕事に携わっており、中央アジアや西アフリカなどの駐在経験を通じて、シルクロードやイスラム文化などに関心を持つ。

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