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FEATURE

ロサンゼルスのアートシーンを歩く・続編
 アート・ディストリクトからオペラハウスまで

アートフェアから始まる、都市とアートの旅へ|フリーズ・ロサンゼルス【後編 Vol.03】

アートフェア

アート・ディストリクトのハウザー&ワース・ロサンゼルス。かつての工場街が生まれ変わったこのエリアは、週末には地元の人々とアート関係者が集う場所となっている。アートと食が自然に交差するこの空間は、ギャラリー訪問をより豊かな体験へと広げてくれる。 Courtesy Hauser & Wirth Los Angeles  Photo: Joshua Targownik / targophoto.com
アート・ディストリクトのハウザー&ワース・ロサンゼルス。かつての工場街が生まれ変わったこのエリアは、週末には地元の人々とアート関係者が集う場所となっている。アートと食が自然に交差するこの空間は、ギャラリー訪問をより豊かな体験へと広げてくれる。 Courtesy Hauser & Wirth Los Angeles Photo: Joshua Targownik / targophoto.com

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構成・文 藤野淑恵

ロサンゼルスのアートシーンを歩く 注目のサテライトフェアとギャラリー
アートフェアから始まる、都市とアートの旅へ|フリーズ・ロサンゼルス【後編 Vol.02】はこちら

フリーズ・ウィーク取材最終日。この日のメインイベントは、アート・ディストリクトにあるギャラリー、ハウザー&ワースへの訪問だ。展覧会にあわせて開催されるブックイベントに参加し、同時開催の2つの展覧会を観た後は、併設レストラン「マヌエラ(Manuela)」でのランチのテーブルも予約済み。

この日はハウザー&ワースを起点に、チャイナタウンのギャラリーへ立ち寄り、ダウンタウンの現代美術館、ザ・ブロードへと足を延ばす。「動くアート」と絶賛されたロサンゼルス・オペラの「アクナーテン」で、ロサンゼルスのアート巡りを締めくくる。

"旅の目的地"として、訪れるべきギャラリー 
ハウザー&ワース ロサンゼルス(アート・ディストリクト)|Hauser & Wirth Los Angeles

陽光が降り注ぐ中庭スペースでは、トークショーなども開催される。子どもや犬を連れてギャラリー空間で週末を過ごすファミリーも多い。編集部撮影
陽光が降り注ぐ中庭スペースでは、トークショーなども開催される。
子どもや犬を連れてギャラリー空間で週末を過ごすファミリーも多い。編集部撮影

近年、旅の目的地となるギャラリーを「デスティネーション・ギャラリー」と呼ぶ。ふらっと立ち寄って作品を観る、あるいは作品を購入するといった目的のみでなく、そこで過ごす豊かな時間を求めて、遠方からでもわざわざ足を運ぶ価値のある場所のことだ。ロサンゼルスのアート・ディストリクトにあるハウザー&ワースは、その代表格といえる存在。廃墟となっていた農場を再生し、展示室のほか広大な庭園、地産地消のレストラン、宿泊施設までを併設するイギリス・サマセットの拠点と同様、ここロサンゼルスでも、ギャラリーという枠を軽やかに超えた広がりを持つ。2つのギャラリースペースにレストラン、書店、ショップ、菜園までがゆるやかにつながり、アートと日常が自然に交差するこの空間は、ローカルの人々が週末を過ごす場所としても親しまれている。

ハウザー&ワース・ロサンゼルス(アート・ディストリクト)のエントランス。かつての小麦粉工場を改装した広大な複合空間は、アーツ・ディストリクトを代表するランドマークでもある。編集部撮影
ハウザー&ワース・ロサンゼルス(アート・ディストリクト)のエントランス。かつての小麦粉工場を改装した広大な複合空間は、
アーツ・ディストリクトを代表するランドマークでもある。編集部撮影
ギャラリーに併設されたレストラン「マヌエラ」は、南カリフォルニアの食材を活かしたアメリカ料理を提供する。広大な屋外テラスを備えた空間には、ギャラリーの収蔵作品も随所に配され、食事とアートが自然に交差する場として、地元のアート関係者にも親しまれている。 編集部撮影
ギャラリーに併設されたレストラン「マヌエラ」は、南カリフォルニアの食材を活かしたアメリカ料理を提供する。広大な屋外テラスを備えた空間には、ギャラリーの収蔵作品も随所に配され、食事とアートが自然に交差する場として、地元のアート関係者にも親しまれている。 編集部撮影

かつての倉庫や工場がリノベーションされ、ギャラリーやレストラン、クリエイティブな拠点が集積するアート・ディストリクト。その一角に構えるハウザー&ワースは、LA市内にウェストハリウッドの拠点も持ち、それぞれ異なる性格で展開している。かつての製粉工場を改装した広大な複合空間は、高い天井とレンガ壁が残るインダストリアルな建築のなかに、複数の展示スペース、書店、レストラン、中庭がつながる。週末の朝にもかかわらず、地元の人々とフリーズ滞在中のコレクターやアート関係者が入り混じり、活気に満ちていた。

ハウザー&ワース・ダウンタウン ロサンゼルスのノースギャラリーで開催中の「 Destiny Is a Rose: The Eileen Harris Norton Collection 」の展示風景。アイリーン・ハリス・ノートンが半世紀にわたって蒐集してきた作品が並ぶ。会期は2026年8月16日まで。 Courtesy Hauser & Wirth Photo: Jeff McLane
ハウザー&ワース・ダウンタウン ロサンゼルスのノースギャラリーで開催中の「 Destiny Is a Rose: The Eileen Harris Norton Collection 」の展示風景。アイリーン・ハリス・ノートンが半世紀にわたって蒐集してきた作品が並ぶ。会期は2026年8月16日まで。 Courtesy Hauser & Wirth Photo: Jeff McLane

この日は、展覧会「 Destiny Is a Rose: The Eileen Harris Norton Collection 」の開幕に合わせて開催されたブックイベントに参加。ロサンゼルスを代表するコレクターのひとりであり、女性や有色人種、カリフォルニアにゆかりのあるアーティストを継続的に支えてきたアイリーン・ハリス・ノートンのコレクション展の出版記念トークが、陽光が降り注ぐギャラリーの中庭スペース行われていた。

フリーズ・ウィークにハウザー&ワース・ロサンゼルス (アート・ディストリクト)で開幕した展覧会「 Destiny Is a Rose: The Eileen Harris Norton Collection 」のタイトルの由来となったケリー・ジェームス・マーシャルの作品、《 Destiny Is a Rose 》1990年 キャンバスにアクリル、コラージュ、彩色木製フレーム  © KerryJames Marshall Courtesy the artist and David Zwirner Photo: Joshua White
フリーズ・ウィークにハウザー&ワース・ロサンゼルス (アート・ディストリクト)で開幕した展覧会「 Destiny Is a Rose: The Eileen Harris Norton Collection 」のタイトルの由来となったケリー・ジェームス・マーシャルの作品、《 Destiny Is a Rose 》1990年 キャンバスにアクリル、コラージュ、彩色木製フレーム  © KerryJames Marshall Courtesy the artist and David Zwirner Photo: Joshua White

展覧会のタイトルは、ケリー・ジェームス・マーシャルが1990年に制作したアクリルとコラージュによる同名絵画に由来する。最初の作品を手にしてから50年。80点以上の作品で構成された本展では、マーク・ブラッドフォード、デイヴィッド・ハモンズ、キャリー・メイ・ウィームズらの作品を通して、彼女の審美眼と社会的視点が立体的に浮かび上がる。会期にあわせてハウザー&ワース・パブリッシャーズが刊行した図録には、美術史家ケリー・ジョーンズとキュレーターのイングリッド・シャフナーによるテキストが収録されており、トークではコレクションの軌跡とともに、アートを通して築かれてきた思想と実践が語られた。

ハウザー&ワース・ダウンタウン ロサンゼルスで同時開催中クリスティーナ・クォールズ個展「The Ground Glows Black」より。山火事の経験を起点に、流動的で歪んだ身体のイメージが幾重にも重なる新作ペインティング。会期は2026年5月3日まで。編集部撮影
ハウザー&ワース・ダウンタウン ロサンゼルスで同時開催中クリスティーナ・クォールズ個展「The Ground Glows Black」より。山火事の経験を起点に、流動的で歪んだ身体のイメージが幾重にも重なる新作ペインティング。会期は2026年5月3日まで。編集部撮影

同時開催されていたのは、ロサンゼルスを拠点とする若手アーティスト、クリスティーナ・クォールズの個展「The Ground Glows Black」。自身の山火事の経験を起点に、「避難」や「喪失」をテーマにした新作ペインティングには、流動的で歪んだ身体のイメージが幾重にも重なり合う。同日にはアーティストのトークとサイン会も開催され、陽光の降り注ぐ週末のギャラリーには、アートを愛する人々が思い思いの時間を過ごしていた。

施設情報|アメリカ・ロサンゼルス
ハウザー&ワース(アート・ディストリクト)|Hauser & Wirth Los Angeles
住所:901 E 3rd St, Los Angeles, CA 90013, USA
https://www.hauserwirth.com/locations/10069-hauser-wirth-los-angeles/

都市のリアリティを映し出す、インディペンデントな視点 
チャーリー・ジェームス・ギャラリー|Charlie James Gallery

チャーリー・ジェームス・ギャラリー。フリーズ・ウィークの期間、チャイナタウンの路地に佇むギャラリーではパトリック・マルティネスの個展が開催された。Courtesy of Charlie James Gallery
チャーリー・ジェームス・ギャラリー。フリーズ・ウィークの期間、チャイナタウンの路地に佇むギャラリーではパトリック・マルティネスの個展が開催された。Courtesy of Charlie James Gallery

アート・ディストリクトを後にし、ダウンタウン方面へ。車窓からはリトルトーキョーのランドマークとなった大谷翔平の巨大壁画も見える。目的地はチャイナタウン。フリーズ・ロサンゼルス2026のエントランスを飾ったパトリック・マルティネスの個展を開催中の、チャーリー・ジェームス・ギャラリーだ。中華街の路地の一角にひっそりと構えるこのギャラリーは、メガギャラリーとは異なるインディペンデントな空気を色濃く漂わせている。

ネオンサインを思わせる光に社会的メッセージを重ねるパトリック・マルティネスの表現は、ロサンゼルスという都市のリアリティそのものを映し出す。編集部撮影
ネオンサインを思わせる光に社会的メッセージを重ねるパトリック・マルティネスの表現は、
ロサンゼルスという都市のリアリティそのものを映し出す。編集部撮影

マルティネスの作品は、先に訪れたハウザー&ワースのアイリーン・ハリス・ノートンのコレクション展にも出品されていた。ノートンが長年収集してきたアーティストのひとりでもある。ロサンゼルスの街角に点在するネオンサインを思わせる光を用いながら、そこに社会的なメッセージを重ねる作品群は、鮮やかな光の美しさと言葉の切実さのコントラストによって、この都市が抱えるリアリティを浮かび上がらせていた。

施設情報|アメリカ・ロサンゼルス
チャーリー・ジェームス・ギャラリー|Charlie James Gallery
住所:969 Chung King Rd, Los Angeles, CA 90012, USA
https://www.cjamesgallery.com/

広大な実験的アートの拠点
ロサンゼルス現代美術館 ゲフィン・コンテンポラリー|The Geffen Contemporary at MOCA

リトルトーキョーにあるロサンゼルス現代美術館 ゲフィン・コンテンポラリー(The Geffen Contemporary at MOCA)の外観。Courtesy of The Museum of Contemporary Art (MOCA)
リトルトーキョーにあるロサンゼルス現代美術館 ゲフィン・コンテンポラリー(The Geffen Contemporary at MOCA)の外観。Courtesy of The Museum of Contemporary Art (MOCA)

チャーリー・ジェームス・ギャラリーから車で数分の距離にあるリトルトーキョーの一角、フランク・ゲーリーが元警察の車両格納庫を改修したロサンゼルス現代美術館 ゲフィン・コンテンポラリーの空間は、いわゆる「美術館建築」とは異なる。高い天井とむき出しの構造体、自然光が差し込む広大なフロアは、作品を包み込むというよりも、出来事そのものを受け止める器のようだ。

The Geffen Contemporary at MOCAで開催中の展覧会、「MONUMENTS」展の展示風景。会期は2026年5月3日まで。Courtesy of The Museum of Contemporary Art (MOCA) and The Brick. Photo by Fredrik Nilsen.
The Geffen Contemporary at MOCAで開催中の展覧会、「MONUMENTS」展の展示風景。会期は2026年5月3日まで。
Courtesy of The Museum of Contemporary Art (MOCA) and The Brick. Photo by Fredrik Nilsen.
「MONUMENTS」展の展示風景。Courtesy of The Museum of Contemporary Art (MOCA) and The Brick. Photo by Fredrik Nilsen.
「MONUMENTS」展の展示風景。
Courtesy of The Museum of Contemporary Art (MOCA) and The Brick. Photo by Fredrik Nilsen.

開催されていた「MONUMENTS」展は、近年アメリカ各地で相次いだ記念碑の撤去という出来事を出発点に、歴史の語られ方そのものを問い直す試みだ。会場には、屋外の公共空間から移設された実際の記念碑が、傷や破損の痕跡を残したまま置かれている。かつては権威の象徴として立っていたモニュメントが、いまや別の文脈の中で、沈黙しながらも強い存在感を放つ。人種差別や社会的分断をめぐる記憶や、それをめぐる議論が展示空間に可視化されている。

施設情報|アメリカ・ロサンゼルス
ロサンゼルス現代美術館 ゲフィン・コンテンポラリー|The Geffen Contemporary at MOCA
住所:152 N Central Ave, Los Angeles, CA 90012, USA
https://www.moca.org/visit/hours-tickets-admission#the-geffen-contemporary-at-moca

思考を促す空間で向き合う現代美術
ロサンゼルス現代美術館|Museum of Contemporary Art Los Angeles (MOCA)

ロサンゼルス現代美術館(MOCA)グランドアベニュー館。磯崎新設計のこの建物は、地下へと潜るように広がる独特の展示空間を持つ。Courtesy of The Museum of Contemporary Art (MOCA)
ロサンゼルス現代美術館(MOCA)グランドアベニュー館。磯崎新設計のこの建物は、地下へと潜るように広がる独特の展示空間を持つ。Courtesy of The Museum of Contemporary Art (MOCA)

ロサンゼルス現代美術館(MOCA)グランドアベニュー館を訪れたのは、実はこの日ではなく、フリーズのプレビューが終了した夜。サンタモニカからダウンタウン方面にまっすぐ延びるメトロAラインで、木曜の夜間開館中だったグランドアベニュー館へ向かった。地下へと潜るように広がる展示空間は、お向かいにあるザ・ブロードの華やかさとは対照的に、静かな思索を促す雰囲気があり、商業的な話題性よりも、アーティストのキャリアを丁寧に掘り下げるキュレーションが特徴とされる。先に紹介したリトルトーキョーのフランク・ゲーリー設計の分館「The Geffen Contemporary at MOCA」からも徒歩圏内だ。

ロサンゼルス現代美術館(MOCA)グランドアベニュー館で開催中のヘグ・ヤン回顧展「Rendezvous Beyond the Stars」の展示風景。会期は2026年8月2日まで。 Courtesy of The Museum of Contemporary Art (MOCA).
ロサンゼルス現代美術館(MOCA)グランドアベニュー館で開催中のヘグ・ヤン回顧展「Rendezvous Beyond the Stars」の展示風景。会期は2026年8月2日まで。 Courtesy of The Museum of Contemporary Art (MOCA).

開催されていたのは、韓国出身のアーティスト、ヘグ・ヤンによる回顧展「Rendezvous Beyond the Stars」。ベネチアン・ブラインドや金属の鈴、韓紙といった素材を用いたインスタレーションが、光や音、気配を伴いながら展開される。東西の文化や日常と神話的イメージが交差する作品群に、フリーズの熱気が解きほぐされていくようだった。

施設情報|アメリカ・ロサンゼルス
ロサンゼルス現代美術館|Museum of Contemporary Art Los Angeles (MOCA)
住所:250 S Grand Ave, Los Angeles, CA 90012, USA
https://www.moca.org

街にひらかれた、現代美術の象徴 
ザ・ブロード|The Broad

ダウンタウン・ロサンゼルスに建つザ・ブロード。蜂の巣を思わせる独特の外観。グランドアベニューの象徴的な存在だ。Photo by Mike Kelley
ダウンタウン・ロサンゼルスに建つザ・ブロード。蜂の巣を思わせる独特の外観。グランドアベニューの象徴的な存在だ。
Photo by Mike Kelley

ロサンゼルス現代美術館(MOCA)グランドアベニュー館の向かい、通りを一本渡ったところにザ・ブロードはある。スター作家たちの作品が惜しみなく並ぶこの美術館は、現代美術の醍醐味を最も華やかに体験できる場所といえる。2015年、コレクターであり慈善家のイーライ・ブロードによって設立され、ニューヨークを拠点とするDiller Scofidio + Renfro(DS+R)の設計により、磯崎新設計のMOCAや、フランク・ゲーリーによるウォルト・ディズニー・コンサートホールと並ぶ、名だたる建築が集積するエリアに加わった。「ヴェールとヴォールト」と称されるコンセプトのもと、蜂の巣状の外皮(ヴェール)が収蔵庫(ヴォールト)を包み込む構造は、収蔵と展示という二つの機能を建築的に一体化した試みであり、都市のランドマークとして強い存在感を放っている。

有機的な建築空間が特徴のザ・ブロードのロビー風景。Photo by Mike Kelley
有機的な建築空間が特徴のザ・ブロードのロビー風景。Photo by Mike Kelley

フリーズ・ウィーク期間中に開催されていたのは、ロサンゼルスを拠点に活動したアーティスト、ロバート・テリアンの展覧会「Room Services」。巨大化したテーブルや椅子、積み上げられた皿といった日常的なモチーフが、スケールを変えることで非日常の体験へと転換される。とりわけ《Under the Table》では、鑑賞者がその下を歩くことで身体感覚そのものが揺さぶられる。館内には草間彌生の《Infinity Mirrored Room—The Souls of Millions of Light Years Away》(2013)やバスキア、ウォーホルといった象徴的なコレクションも並び、ロサンゼルスにおける現代美術の厚みをあらためて実感させる場となっていた。

ロバート・テリアンの展覧会「Room Services」の展示風景。日常的な家具をスケールアップした作品群が展示空間を占拠し、鑑賞者の身体感覚を揺さぶる。Photo by Joshua White jwpictures.com
ロバート・テリアンの展覧会「Room Services」の展示風景。日常的な家具をスケールアップした作品群が展示空間を占拠し、鑑賞者の身体感覚を揺さぶる。Photo by Joshua White jwpictures.com
施設情報|アメリカ・ロサンゼルス
ザ・ブロード|The Broad
住所:221 S Grand Ave, Los Angeles, CA 90012, USA
https://www.thebroad.org/

アートウィークで出会う、至高のオペラ 
ロサンゼルス・オペラ(ドロシー・チャンドラー・パヴィリオン)|LA Opera, Dorothy Chandler Pavilion

ロサンゼルス・オペラの本拠地、ドロシー・チャンドラー・パヴィリオン。ダウンタウンの文化エリアに位置する優美な劇場は、かつてアカデミー賞授賞式の会場にもなった。
ロサンゼルス・オペラの本拠地、ドロシー・チャンドラー・パヴィリオン。ダウンタウンの文化エリアに位置する優美な劇場は、かつてアカデミー賞授賞式の会場にもなった。

旅の締めくくりは、ドロシー・チャンドラー・パヴィリオンでのロサンゼルス・オペラ。ザ・ブロードやウォルト・ディズニー・コンサートホールと肩を並べるダウンタウンのランドマークであり、かつてアカデミー賞授賞式の会場にもなった優美な劇場だ。鑑賞したのは、フィリップ・グラスのオペラ「アクナーテン」。

この公演をめぐっては、ある話題が記憶に新しい。俳優ティモシー・シャラメが「オペラには誰も関心がない」と発言したのに対し、LAオペラが公式Instagramで機知に富んだ切り返しを見せたのだ。「シャラメさん、ぜひご招待したいのですが——残念ながら「アクナーテン」は全公演チケットが完売しています」ーー古代エジプトを舞台にした、前衛的で芸術性の高い演出が若年層にも絶大な支持を誇るこの演目を引き合いに出した点が、何とも絶妙だ。「誰も気にしていない」はずのオペラが、観たくても観られないほどの「デスティネーション・アート」であることを、事実でもって証明してみせた。

LAオペラ2026年プロダクション「アクナーテン」より。ミニマル・ミュージックの反復にあわせたスローモーションの動きとジャグリングが、「動くアート」として舞台上に立ち上がる。 LA Opera's 2026 production of Akhnaten. Photo: Cory Weaver
LAオペラ2026年プロダクション「アクナーテン」より。ミニマル・ミュージックの反復にあわせたスローモーションの動きとジャグリングが、「動くアート」として舞台上に立ち上がる。 LA Opera's 2026 production of Akhnaten. Photo: Cory Weaver

2016年にLAオペラで初演され、イングリッシュ・ナショナル・オペラやメトロポリタン・オペラでも絶賛されてきたフェリム・マクダーモットによる伝説的な演出は、今回の再演でもその力を存分に発揮した。ジャグリングのパフォーマンスをステージに取り込み、ミニマル・ミュージック特有の反復するリズムを視覚的に体験させる没入感は唯一無二だ。

フリーズ・ウィーク期間に上演されたロサンゼルス・オペラの公演「アクナーテン」より。中央はアクナーテン役を演じるカウンターテナーのジョン・ホリデイ。 LA Opera's 2026 production of Akhnaten. Photo: Cory Weaver
フリーズ・ウィーク期間に上演されたロサンゼルス・オペラの公演「アクナーテン」より。中央はアクナーテン役を演じるカウンターテナーのジョン・ホリデイ。 LA Opera's 2026 production of Akhnaten. Photo: Cory Weaver

指揮はウクライナ生まれのフィンランド人指揮者、ダリア・スタセフスカ。本公演がLAオペラ・デビューとなった世界注目の若手指揮者は、グラスの催眠的で複雑なスコアを鮮やかにコントロールして高く評価された。アクナーテン役のカウンターテナー、ジョン・ホリデイの繊細に響き渡る歌声は、ステージに深みを与えた。全7公演がソールドアウトを記録したこの豪華な布陣による舞台は、フリーズ・ウィークという現代アートの祭典の余韻と静かに響き合い、旅の記憶に深く刻まれる体験となった。

施設情報|アメリカ・ロサンゼルス
ロサンゼルス・オペラ(ドロシー・チャンドラー・パヴィリオン)|LA Opera, Dorothy Chandler Pavilion
住所:135 North Grand Avenue, Los Angeles, CA 90012
https://www.laopera.org/discover-la-opera/your-visit/dorothy-chandler-pavilion

フリーズ・ウィークに沸くロサンゼルスのアートスポットを巡った数日間。広大な都市のなかで、アートフェア、ギャラリー、美術館、そして舞台芸術を点と点を結ぶように横断したこの時間は、LAのスケールと多層性をそのまま体感する旅となった。アートフェアの先に広がる多様な文化のレイヤーこそが、この街を何度でも訪れたくなる理由だ。

まもなくグランドオープンを迎えるピーター・ズントー設計のLACMA新館は、建築そのものが体験となる空間と、時代や地域を横断する展示によってアートシーンに新たな章を刻むだろう。さらに2028年のロサンゼルス・オリンピックに向けて進行するザ・ブロードの拡張計画も控える。収蔵庫そのものに足を踏み入れる「ライブ・ヴォルト」という新たな鑑賞体験は、美術館のあり方そのものを問い直す試みとして世界の注目を集める。ロサンゼルスは、いつも更新途中だ。この街は訪れるたびに、新しいアートの景色が待っている。

アートフェアから始まる、都市とアートの旅へ|フリーズ・ロサンゼルス 特集全INDEX
サンタモニカ空港から始まるLAのアートウィーク、フリーズ・ロサンゼルス(FRIEZE LA)
アートフェアから始まる、都市とアートの旅へ|フリーズ・ロサンゼルス【前編】

関連動画:【初めてのフリーズ・ロサンゼルス】フリーアナウンサー&アーティストの東 留伽が国際的な現代アートフェア
「Frieze LA(フリーズ・ロサンゼルス)」を現地レポート。アーティストインタビューも!

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