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ロサンゼルスのアートシーンを歩く
 注目のサテライトフェアとギャラリー

アートフェアから始まる、都市とアートの旅へ|フリーズ・ロサンゼルス【後編 Vol.02】

アートフェア

アモアコ・ボアフォの個展「I Bring Home with Me」の展示風景。ギャラリー内に作家のスタジオが実物大で再現された。
Roberts Projects, Los Angeles Photo: Paul Salveson Courtesy of the artist and Roberts Projects
アモアコ・ボアフォの個展「I Bring Home with Me」の展示風景。ギャラリー内に作家のスタジオが実物大で再現された。
Roberts Projects, Los Angeles Photo: Paul Salveson Courtesy of the artist and Roberts Projects

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構成・文 藤野淑恵

人気ギャラリーとオークションハウスから始まる、ロサンゼルスのアート巡り
アートフェアから始まる、都市とアートの旅へ|フリーズ・ロサンゼルス【後編 Vol.01】はこちら

ロサンゼルス到着初日のメガギャラリー巡り、翌日のフリーズ・ロサンゼルスのプレビューを経て、3日目へ。フリーズの開催期間は「フリーズ・ウィーク」とも呼ばれ、主要美術館や有力ギャラリーが年間で最も重要な展覧会を開催するなど、街全体がアートの熱気に包まれる。この日は、そのフリーズ・ウィークを彩るサテライトフェアのなかでも、質の高さとローカルな個性で評判の高い2つのフェアを訪れる。フリーズで気になったロサンゼルス拠点のギャラリーや、キュレーターによる展覧会解説「ウォークスルー」にも足を運びながら、まもなく開館を迎えるロサンゼルス・カウンティ美術館の新館もこの目で確かめる。フリーズの外側に広がるLAのアートシーンへ踏み出す1日だ。

歴史ある建築空間で出会う、静謐なブティックフェア 
ポスト・フェア|The Post, Santa Monica

フリーズ・ロサンゼルスと同時期にサンタモニカで開催されたアートフェア、「POST FAIR」の会場はアールデコ様式の旧郵便局。テラゾや木材が貼られたクラシックな床や天井が印象的な、趣のある空間だ。
フリーズ・ロサンゼルスと同時期にサンタモニカで開催されたアートフェア、「POST FAIR」の会場はアールデコ様式の旧郵便局。テラゾや木材が貼られたクラシックな床や天井が印象的な、趣のある空間だ。

フリーズのプレビューデイでLAのアートシーンのシャワーを全身に浴びた翌日。フェアの熱気と余韻がまだ残るなか、同じサンタモニカで開催された「POST FAIR」へ向かう。会場は、1930年代に建てられた旧郵便局。アール・デコ様式の建築がそのまま活かされ、高い天井やテラゾの床、重厚な木製パネルといったクラシカルで趣のある空間だ。かつての窓口や仕分けカウンターも展示空間として再構成され、建物の記憶とアート作品が共鳴する。

POST FAIRの会場はアールデコ様式の旧郵便局。
POST FAIRの会場はアールデコ様式の旧郵便局。

このフェアを主宰するのは、ロサンゼルスを拠点とするギャラリスト、キュレーター、ライターのクリス・シャープ。参加ギャラリーは公募ではなく、シャープ自身が「質」と長年の関係性を基準に招待する形式をとる。ロサンゼルスの地元ギャラリーが約3分の1を占め、残りは東京、ニューヨーク、ミラノなど世界各都市から招かれる。出展は約30ギャラリーに絞られ、空間全体をひとつの展覧会のように構成するキュレーション主導のフェアだ。

POST FAIRの展示風景。
POST FAIRの展示風景。

フェアの核となるコンセプトは「ソロ・プレゼンテーション」と「オープン・プラン」——各ギャラリーが一人のアーティストに特化した個展形式で展示を組み、従来のブース構造を廃した開放的なレイアウト。販売のプレッシャーに縛られず実験的な作品を提示できる環境づくりそのものが、このフェアのアイデンティティとなっている。厳選された内容と親密な鑑賞体験を重視する「ブティックフェア」は、大規模な国際フェアとは対照的なスタイルとして近年存在感を高めており、POSTはその代表格のひとつといえる。

昨年に続いて出展した小山登美夫ギャラリーは大竹利絵子の個展を開催した
昨年に続いて出展した小山登美夫ギャラリーは大竹利絵子の個展を開催した

日本からは、小山登美夫ギャラリー、MISAKO & ROSEN、KAYOKOYUKIが参加。昨年に続いて出展した小山登美夫ギャラリーは、大竹利絵子の個展を開催。高い窓から差し込む光に照らされた、鳥や人をモチーフにした木彫作品は、どこか遠い記憶を呼び起こすような静かな気配をまとい、人々を引き寄せた。自然光の差すクラシックな会場で作品と向き合う静かな時間は、この街のアートシーンのもうひとつの側面を感じさせた。

アートフェア情報|アメリカ・ロサンゼルス
ポスト・フェア|The Post, Santa Monica
住所:1248 5th St, Santa Monica, CA 90406
https://thepostsantamonic

ミッドウィルシャーに広がる、多層的なギャラリー空間 
ロバーツ・プロジェクト|Roberts Projects

フリーズ・ロサンゼルス会期中にロバーツ・プロジェクトで開催されたアモアコ・ボアフォの個展「I Bring Home with Me」の展示風景。Roberts Projects, Los Angeles Photo: Paul Salveson Courtesy of the artist and Roberts Projects
フリーズ・ロサンゼルス会期中にロバーツ・プロジェクトで開催されたアモアコ・ボアフォの個展「I Bring Home with Me」の展示風景。Roberts Projects, Los Angeles Photo: Paul Salveson Courtesy of the artist and Roberts Projects
アモアコ・ボアフォの個展「I Bring Home with Me」の展示風景 Roberts Projects, Los Angeles Photo: Paul Salveson Courtesy of the artist and Roberts Projects
アモアコ・ボアフォの個展「I Bring Home with Me」の展示風景 
Roberts Projects, Los Angeles Photo: Paul Salveson Courtesy of the artist and Roberts Projects

サンタモニカを後にし、車でしばらく走ってミッドウィルシャーへ。ダウンタウンとビバリーヒルズの中間に位置するこのエリアは、美術館やギャラリーが点在する一方で、ローカルな街の表情も色濃く残る場所だ。続いて訪れたロバーツ・プロジェクトは、フリーズ・ロサンゼルスにも出展するLA屈指のギャラリーのひとつ。ラ・ブレア・アベニュー沿いに構える約1万平方フィートの空間は、LAらしいおおらかな開放感に満ちている。商業的な成功と実験的な姿勢を両立させるそのスタンスは、LAのギャラリーシーンを語る上で欠かせない存在感を放つ。

アモアコ・ボアフォの個展「I Bring Home with Me」の展示作品。《 Red Lace Gloves 》2025年 Roberts Projects, Los Angeles Photo: Paul Salveson Courtesy of the artist and Roberts Projects
アモアコ・ボアフォの個展「I Bring Home with Me」の展示作品。《 Red Lace Gloves 》2025年 Roberts Projects, Los Angeles 
Photo: Paul Salveson Courtesy of the artist and Roberts Projects

開催されていたのは、フリーズ・ロサンゼルスにも作品が出展されていた、ガーナ出身のアーティスト、アモアコ・ボアフォの個展「I Bring Home with Me」。ギャラリー内には、ガーナのアクラにある作家のスタジオが実物大で再構築され、その空間に新作の肖像画群が溶け込むように展示されるという没入感あふれる構成だ。描かれているのは、友人や知人から著名人、架空の人物、自画像まで——多様なバックグラウンドを持つ人物の肖像画。壁紙を思わせる装飾的なパターンと、指先で絵具を重ねる独自の筆致が生み出すグラフィカルな画面は、ステレオタイプを軽やかに超えた、モダンで生き生きとした黒人像を浮かび上がらせていた。

施設情報|アメリカ・ロサンゼルス
ロバーツ・プロジェクト|Roberts Projects
住所:5817 W Pico Blvd, Los Angeles, CA 90019, USA
https://www.roberts

進化する文化拠点、その新たなランドマーク 
ロサンゼルス・カウンティ美術館|Los Angeles County Museum of Art (LACMA)

ロサンゼルス・カウンティ美術館。アイ・ウェイウェイの「Circle of Animals/Zodiac Heads」越しに見えるのが2026年5月にグランドオープンを迎えるピーター・ズントー設計の新館、「デイヴィッド・ゲフィン・ギャラリー」
ロサンゼルス・カウンティ美術館。アイ・ウェイウェイの「Circle of Animals/Zodiac Heads」越しに見えるのが2026年5月にグランドオープンを迎えるピーター・ズントー設計の新館、「デイヴィッド・ゲフィン・ギャラリー」

ロバーツ・プロジェクトを後にし、次の目的地へ向かう合間にロサンゼルス・カウンティ美術館(LACMA)へ立ち寄る。美術館でじっくり作品を見る時間はないが、目的はひとつ——2026年5月のグランドオープンを控える、ピーター・ズントー設計の新館をこの目で確かめることだ。隣接するアカデミー映画博物館のレストランでランチをとった後、キャンパスへ足を踏み入れると、完成を目前にした建築のスケールが、噂を超えてリアルに迫ってくる。

LACMAの入り口にあるクリス・バーデンの彫刻作品《Urban Light》。1920年代から30年代にかけて実際にロサンゼルスの街で使用されていた、202本のヴィンテージ街灯を修復して並べた彫刻作品は、夜になると全てが点灯する。
LACMAの入り口にあるクリス・バーデンの彫刻作品《Urban Light》。1920年代から30年代にかけて実際にロサンゼルスの街で使用されていた、202本のヴィンテージ街灯を修復して並べた彫刻作品は、夜になると全てが点灯する。

15万点を超えるコレクションを擁するアメリカ西海岸最大級の美術館として、多様な文化が交差するLAを象徴してきたLACMA。まもなくグランドオープンを迎える新館「デイヴィッド・ゲフィン・ギャラリー」では、時代や地域の区分を超え、「海」を軸に文化の交流を読み解くという意欲的な展示が展開される予定だ。マティスやゴッホ、フランシス・ベーコンといった近代以降の重要作家の作品を、グローバルな視点から再構成したコレクションで提示するほか、ジェフ・クーンズによる屋外インスタレーションなど現代作家への新たなコミッションも加わるという。LAのアートシーンに新たな章が開かれようとしている。

施設情報|アメリカ・ロサンゼルス
ロサンゼルス・カウンティ美術館|Los Angeles County Museum of Art (LACMA)
住所:1201 South La Brea Avenue, Los Angeles, CA 90019, USA
https://www.lacma.org/

ウォークスルーで巡る、ギャラリー体験 
デイヴィッド・ツヴィルナー|David Zwirner Los Angeles

デイヴィッド・ツヴィルナーで開催されたレイモンド・サンダースの個展「Notes from LA」のウォークスルーの風景。
デイヴィッド・ツヴィルナーで開催されたレイモンド・サンダースの個展「Notes from LA」のウォークスルーの風景。

再びギャラリー巡りへ。向かったのは、ノース・ウェスタン・アベニューに複数のスペースを構えるメガギャラリー、デイヴィッド・ツヴィルナー。通りに沿って点在する建物を横断するように展開され、それぞれの空間で異なる展覧会が同時に開催されている。

訪問の目的は、2025年に逝去したレイモンド・サンダースの個展「Notes from LA」のウォークスルーに参加すること。ウォークスルーとは、展覧会のオープニングにあわせて行われる解説プログラムで、キュレーターが展示を案内しながら作品やアーティストについて語るものだ。事前予約なしでも参加できることが多く、ロサンゼルスでは各所でこうした機会が開かれている。展示空間を巡りながら言葉とともに理解を深めていくこの時間は、フェアとは異なる、密度の濃い鑑賞体験となる。

レイモンド・サンダースの個展「Notes from LA」の展示作品。
レイモンド・サンダースの個展「Notes from LA」の展示作品。
レイモンド・サンダースの個展「Notes from LA」の展示作品。
レイモンド・サンダースの個展「Notes from LA」の展示作品。

展覧会のキュレーションを手がけたシニアディレクターの解説に耳を傾けながらギャラリーを歩く。ロサンゼルスでは10年以上ぶりとなる本格的な個展は、西海岸に根ざした作家の活動をあらためて問い直す内容だった。黒を基調とした画面にチョークの線や拾得物を重ねていくアサンブラージュの手法は、即興性と社会的な視点を併せ持ち、都市の記憶を凝縮したような強度を帯びる。解説を通して知る制作のプロセスや背景が、作品の見方を深めてくれた。

リュック・タイマンスの個展「The Fruit Basket」の展示風景。
リュック・タイマンスの個展「The Fruit Basket」の展示風景。

もうひとつのスペースで開催されていたのは、リュック・タイマンスの個展「The Fruit Basket」。2025年にニューヨークで発表された展覧会の巡回であり、タイマンスにとってロサンゼルス初の個展となる。アメリカ社会に漂う分断と不安定さを背景に、イメージの断片と曖昧さを通して現代の空気が静かに描き出された新作が並んでいた。

施設情報|アメリカ・ロサンゼルス
デイヴィッド・ツヴィルナー|David Zwirner Los Angeles
住所:606 N Western Ave, Los Angeles, CA 90004, USA
https://www.davidzwirner.com/

ハリウッドの名門ホテルで楽しむ、リラックスしたアートフェア 
フェリックス・アート・フェア|Felix Art Fair

「Felix Art Fair」の会場となったハリウッド・ルーズベルト・ホテルのエントランス。
「Felix Art Fair」の会場となったハリウッド・ルーズベルト・ホテルのエントランス。
ハリウッド・ルーズベルト・ホテルの客室がアートフェアの会場。
ハリウッド・ルーズベルト・ホテルの客室がアートフェアの会場。

この日の最後の目的地は、ハリウッド・ルーズベルト・ホテルで開催される「Felix Art Fair」。1929年に第1回アカデミー賞授賞式が行われ、「トロピカーナ・プール(Tropicana Pool)」の底にデイヴィッド・ホックニーが描いた水中壁画でも知られる歴史的ホテルが、フェアの舞台だ。2018年にコレクターのディーン・バレンタインとギャラリー「Morán Morán」を運営するモラン兄弟によって共同設立されたフェリックスは、「アートフェアを再び楽しく」をテーマに掲げ、無機質なコンベンションセンター型のフェアへのアンチテーゼとして生まれた。

プールを囲む客室がアートフェアの会場。ハリウッドらしいリラックスした雰囲気が漂う。
プールを囲む客室がアートフェアの会場。ハリウッドらしいリラックスした雰囲気が漂う。

会場となるのはホテルの客室とプールサイドのカバナ。ベッドやソファ、バスルームがそのまま展示空間となり、ギャラリーに招かれて客室で作品を眺めるかのような、親密な体験が生まれる。迷路のような廊下を巡りながら部屋に入り、ギャラリストとリラックスした雰囲気で会話を楽しむスタイルは、商談の場というよりサロンに近い。2026年は東京、ニューヨーク、ロンドン、ブエノスアイレスなど世界各都市から約57のギャラリーが参加し、うち20以上が初出展。毎年約3分の1を新しいギャラリーに刷新することで、「発見」の場であり続けることを重視しているという。

洗練された展示構成と国際的な規模を誇るフリーズ、キュレーション主導の緊密な空間をつくるポストとは対照的に、フェリックスの魅力はその偶発性と開放感。音楽が流れ、カクテルを片手にプールサイドで語らう光景は、LAのアートシーンが持つ華やかでリラックスした空気そのものだ。ハリウッドという場所の歴史とカオスが、そのままフェアの個性となって立ち上がっていた。

アートフェア情報|アメリカ・ロサンゼルス
フェリックス・アート・フェア|Felix Art Fair
住所:7000 Hollywood Blvd, Los Angeles, CA 90028, USA(The Hollywood Roosevelt)
https://felixfair.com/

次回、ロサンゼルスのアートシーンを歩く・続編 アート・ディストリクトからオペラハウスまで / アートフェアから始まる、都市とアートの旅へ|フリーズ・ロサンゼルス【後編 Vol.03】 に続く。

アートフェアから始まる、都市とアートの旅へ|フリーズ・ロサンゼルス 特集全INDEX
サンタモニカ空港から始まるLAのアートウィーク、フリーズ・ロサンゼルス(FRIEZE LA)
アートフェアから始まる、都市とアートの旅へ|フリーズ・ロサンゼルス【前編】

関連動画:【初めてのフリーズ・ロサンゼルス】フリーアナウンサー&アーティストの東 留伽が国際的な現代アートフェア
「Frieze LA(フリーズ・ロサンゼルス)」を現地レポート。アーティストインタビューも!

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