だんご3兄弟、ピタゴラスイッチ
―ヒット作の背景にある「作り方」とは?
「分かる」と「感じる」をデザインする佐藤雅彦メソッド
「横浜美術館リニューアルオープン記念展 佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)」が開催中

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「ピタゴラスイッチ」「だんご3兄弟」「バザールでござーる」「♪ポリンキーポリンキーおいしさの秘密はね 教えてあげないよ チャン♪」…教育番組、楽曲、商品CMと分野は違えど、どれも一度聴いたら忘れられないフレーズ、かわいいキャラクター、独特な世界観。なぜか気になり、気づいた時には夢中になってしまう。
さて、ここで問題。これらの作品の作者を答えよ。
その答えは、横浜美術館で開催中の展覧会にある。「横浜美術館リニューアルオープン記念展 佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)」では、CM、教育番組、ゲームなど、様々なメディアで様々なヒット作を手掛けてきた佐藤雅彦の多岐にわたる創作活動を紹介し、その唯一無二の世界の「作り方」をひも解く。
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- 横浜美術館リニューアルオープン記念展
佐藤雅彦展 新しい×(作り方+分かり方)
開催美術館:横浜美術館
開催期間:2025年6月28日(土)〜11月3日(月・祝)
問1.佐藤雅彦の原点は?-答.「枠」と「きてる音」

佐藤雅彦(1954-)
静岡県生まれ。東京大学教育学部卒業後、株式会社電通に入社。CMプランナーとして、「ポリンキー」「バザールでござーる」など、数々のヒットCMを制作する。後に独立し、ゲーム、楽曲「だんご3兄弟」など活動のフィールドを広げる。1999年に慶應義塾大学環境情報学部教授に就任。2005年には、同学、佐藤雅彦研究室のOBによるクリエイティブグループ「ユーフラテス」を設立。2006年に東京藝術大学大学院映像研究科教授、2021年同学名誉教授に就任。
展覧会は、佐藤のデスクに40年以上飾られているという1枚の紙から始まる。そこには29歳の佐藤が決意した、ある言葉が書かれている。
「別のルールで物を作ろうと考えている。」
紙は日焼けし、インクは退色してほとんど読めない状態だが、その決意こそ佐藤雅彦のクリエイティブの原点である。佐藤にとって一番の関心は「モノ」そのものを作ることではなく、そうしたモノの「作り方」を作ることであり、40年間の活動の全てに貫かれた、最初にして最大のメソッドだ。
その言葉を胸に会場を進むと、まず佐藤のキャリアの出発点である広告の仕事が紹介されている。広告代理店・電通に就職したが、グラフィックデザインなど専門的な勉強は皆無だった。そんな佐藤が見つけた最初の表現手法が「枠」だった。
枠を作り、必要な情報を枠に収めて紙面の中に配置する。情報の整理と配置の仕方で、見た人に目新しさや心地よさを与える。元々、劇場の座席表や段ボールの紙片など、“情報”が記された紙を蒐集していた佐藤だからこその着眼点だ。

写真手前のポスターは、佐藤が手掛けた「アメリカ現代版画と写真展 ジョナス・メカスと26人の仲間たち」のポスター。
奥の2つの小部屋ではCM作品集と、その解説映像を上映。
続いて佐藤が携わったのがテレビCM。本展では、まず「Theater1」と書かれた小部屋で、佐藤が手掛けた代表的なCM作品を鑑賞し、続く「Theater2」で佐藤のCM作りの方法論を解説した映像を観る。
それによれば、佐藤は「音」を徹底的に考えて創り出す。商品名や企業名、商品の特徴など、カギとなる言葉を口に出し、鼻歌交じりに歌うなどして「これだ!」と思うフレーズ(メロディー)を作り出す。そうして生まれたフレーズに合わせて映像を作っていくという。
![[上]ポリンキーの秘密(湖池屋)[下] バザールでござーる(NEC)、ともにアドミュージアム東京所蔵](https://i.artagenda.jp//feature/1/images/a3bd8c0a450812cd710db566cf368153_middle.jpg)
ちなみに、こうしたフレーズを佐藤は「きてる音」と表現する。今まで聞いたことがない、けれど端的に理解でき、印象に残る。そうした「きてる音」を武器に、佐藤は数々のヒットCMを世に出した。「バザールでござーる」(NEC)や「ポリンキー」(湖池屋)などのCMを見れば、そのことがよく分かる。リズミカルに繰り返される商品名や企業名、その音の響きやリズムを強調するように映像が組み立てられており、覚えようとせずとも記憶に残り、つい口ずさんでしまう。
見た人が端的に「分かる」こと、そして印象に残る「心地よさ」。その両者を兼ね備える「きてる音」の発見は、その後の「ピタゴラスイッチ」などの教育分野におけるクリエイティブにもつながっている。
問2.「だんご3兄弟」の誕生秘話は?-答.1冊の本に載せたエピソード・ゼロ
やがて、自身の関心がCMの領域を超え始めたことに気づいた佐藤は、1994年に電通を退職、企画事務所を立ち上げ、1997年には「I.Q」というゲームを企画する。

ある日、佐藤の脳内に「直方体のキューブが迫り来て人々が逃げ回る」というイメージが湧き上がり、そのイメージをSONYの関係者にプレゼンしたところゲーム化につながった。
そして、1999年1月。空前のブームとなった「だんご3兄弟」が誕生した。実は本作の前に、そのエピソード・ゼロとも言える作品があった。それは、佐藤が1998年に出版した書籍『クリック』だ。本書の中で、佐藤は「文字」を使って世界を表現するなど、「文字(言葉)」を用いた新しい表現方法に挑戦している。その中に、「だんご」を用いた作品が収められており、それを見たNHKのディレクターが声をかけ、幼児番組「おかあさんといっしょ」の「みんなのうた」の制作を提案したのだった。
![[左]だんご3兄弟(NHK「おかあさんといっしょ」 より)[右上]フレーミー[右下]ぼてじん(上下ともにNHK「ピタゴラスイッチ」より)、画像提供:横浜美術館](https://i.artagenda.jp//feature/1/images/7dd1b9893dd6462ece5caa6375fd7393_middle.jpg)
[右上]フレーミー[右下]ぼてじん(上下ともにNHK「ピタゴラスイッチ」より)、画像提供:横浜美術館
「だんご3兄弟」ブームで日本中が熱狂する中、佐藤はこの状態を危惧していた。そしてコンテンツが消費されないための抵抗として、シリーズとして「あっという間劇場」を展開し、「だんご3兄弟」を一過性の「ブーム」ではなく、「定番」のコンテンツへと変えた。
会場では、そうした誕生秘話を映像とスライドを使って解説する。「ピタゴラスイッチ」などの教育番組に長年携わっている佐藤だけあって、本展のための解説映像も分かりやすく、また見る人を飽きさせない工夫が施されている。取材中は一般の来館者もいたが、映像作品にありがちな「途中で脱落する人」がほとんどいない。独特なテンポのナレーション、絶妙なタイミングでの映像とスライドの切り替えなど、最後まで見たくなるような解説の展開も、佐藤メソッドの賜物だろう。
問3.ピタゴラ装置は何でできている?―答.佐藤の私物コレクション
そうして2002年、佐藤の創作活動の代表格となる教育番組「ピタゴラスイッチ」(NHK)の放送が始まった。本展では、そのオープニングに登場する「ピタゴラ装置」の実物4点も展示されている。実際に動いている映像も流れており、「ピタゴラスイッチ」の世界に触れることができる。

またピタゴラ装置の実物と共に、装置の部品となる様々なアイテムも展示されている。ピタゴラ装置のワクワク感、子供だけでなく大人も引き込まれてしまう魅力の1つが、装置に使われている洒落たデザインのパッケージや玩具だろう。驚くべきことに、これらのほとんどが佐藤の収集品だという。

作品の世界観(佐藤の言葉を使えば「トーン」)の設定の重要性は、広告の仕事で培ってきたが、そうした土壌があるからこそ、様々なアイテムを組み合わせるピタゴラ装置においても、全体としての統一感があり、それ故にどこか洗練された印象があり、誰もが魅力的に感じるのだろう。
問4.「分かる」と「感じる」は両立するか?―答.その最大値をデザインする
「だんご3兄弟」ブームの真っただ中である1999年に佐藤は慶応義塾大学環境情報学部(SFC)の教授に招かれる。教育学部出身の佐藤にとって、人に教えることは何より好きだった。「教育」というフィールドで、佐藤は水を得た魚のごとき、さらなる表現を追求する。

バレエダンサーの動きに合わせて、四肢の動く軌跡を抽出し、白線で可視化する。「ロトスコープの再発見」プロジェクトの好例。
佐藤は「計算する」ことを表現方法の軸に、長年関心があった認知科学や計算幾何学の領域に足を踏み入れる。学生たちとの研究の中で、「ピタゴラスイッチ」の中の人気コーナーでもある「アルゴリズムたいそう」など規則性がもたらす心地よさを追求した表現や、「ロトスコープの再発見」と銘打つプロジェクト(元映像からなんらかの情報を抽出し、それを可視化する)も生まれた。
会場内の一画には、学習机と椅子が並ぶ小学校の教室のようなエリアがあり、ここでは『解きたくなる数学』や『日常にひそむ数理曲線』の映像作品が紹介されている。これらのプロジェクトで佐藤は、研究室で見出した手法を駆使し、苦手な人も多い「算数」や「数学」に対し、新しい視点でその面白さを解説している。

取材時、かつて小学生だった大人も、これから小学生になると思われるような幼い子供も、
同じように椅子に座って映像を見る様子が印象的だった。
無機質で味気ないものと思われがちの科学や数学の世界。佐藤はそこにこそ、自身の表現を見出す。理論や法則に基づく規則性、ルール、現象―それらの理路整然とした美しさ、リズミカルな心地よさを、映像や音と組み合わせることで増幅させる。

こうした佐藤の作品は、どれも「分かる」ことと「感じる」ことの最大公約数を追求しているように感じる。「理論(理屈)」を「頭」で「理解」すると同時に、「身体感覚」で「感じる」。「分かる」ことと「感じる」こと、どちらかに偏るのではなく、両者がその最大値になる接点、つまり「分かる」と「感じる」の最大公約数を追求している。
問5.展覧会ならではの体験は?-答.佐藤ワールドであそぶ
「分かる」ことと「感じる」ことの最大値を追求する佐藤のクリエイティブを、来館者も体験できるよう、本展では来館者参加型の展示も行っている。

「計算の庭」では、参加者は入り口でカードを1枚選ぶ。そして「庭」に入り、いくつかのゲートをくぐる。ゲートにはそれぞれ「+5」「×2」など四則計算が書かれている。参加者は最初に選んだカードの数字から、ゲートをくぐるごとにその計算を行い、最終的に答えが「73」になると庭から出ることができる。

その他「指紋の池」では、自身の指紋をスキャンすると、目の前の池に見立てたビジョンに自分の指紋が映し出される。まるで池を泳ぐ魚のように、たくさんの指紋の中で、自分の指紋が泳ぎ出す。再びスキャンすると、群れに紛れ込んだ自分の指紋が今度は自分に向かって戻って来る。

手掛けた仕事が軒並み大ヒットにつながる佐藤のクリエイティブ。順風満帆に見えるかもしれないが、その輝かしいキャリアの前には実は1つの挫折があった。それは「教育」の現場だった。学生時代、アニメーションを用いて授業の内容を教えることはできないか、というアイデアは当時誰にも理解してもらえず、また実践する手立てもなかった。その挫折から始まった佐藤のキャリアは、巡り巡って「教育」の現場へと戻り、もうご存知の通り、かつて諦めた「アニメーションで授業を教える」という「夢」を実現している。
転がり続けるビー玉が、周囲のモノにぶつかり、関係し合い、連鎖反応的に次々にアクションが起こり、やがてゴールに向かう――。これまでの佐藤の活動は、ピタゴラ装置さながらの連鎖反応を繰り返した結実と言えるだろう。ぜひ本展に足を運び、佐藤の「作り方」の「作り方」を分かり、感じてほしい。その「分かる」と「感じる」の連鎖反応が、これからまた何か「新しい」ものが生まれる公式なのだ。
- 美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 美術館情報
- 横浜美術館|Yokohama Museum of Art
220-0012 神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
開館時間:10:00〜18:00
会期中休館日:木曜日
参考文献:佐藤雅彦展公式図録『作り方を作る』(発行 左右社)