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叙情的な景色が広がる、アンドレ・ボーシャン+藤田龍児「牧歌礼賛/楽園憧憬」展

4/16 から東京ステーションギャラリーで開催されている、アンドレ・ボーシャン+藤田龍児「牧歌礼賛/楽園憧憬」に行ってきました。


アンドレ・ボーシャン(1873-1958)

46歳から絵を描き始めるまで美術とは無縁だったボーシャン。

苗木職人として農園を経営し、家族と暮らしていましたが、第一次世界大戦で歩兵連隊に徴集されます。留守中、義父が亡くなり、農園が倒産するなどの出来事が重なり、妻は心を病んでしまいました。

除隊後、現実と直面したボーシャンは病気の妻と一緒に森の中での生活を始めました。自分達の食べる野菜を育て、ここから絵を描くようになったそうです。

48歳の時に毎年秋にパリで開催される展覧会、サロン・ドートンヌに初入選。ようやく絵が売れるようになったのは、54歳で初個展を開催してから。

建築家のル・コルビジェ、作家のアンドレ・ブルトンなどに高く評価され、76歳で大回顧展を開催するなど、大変活躍したと言うことです。


ーーー第一次大戦中から大変な思いをしていますが、美術とは無縁だったボーシャンが40代後半から絵を描き始めて徐々に名声を得る、、、なんともドラマチックな人生だと思いました。


藤田龍児1928-2002

25歳から大阪市立美術館の附属施設として開所した美術研究所で3年間、石膏、デッサン、油彩の技法などを学んだ藤田は、31歳で美術文化展に初入選すると2年後に美術文化協会の会員となり、同会を拠点として活動しました。

精力的にグループ展や個展を開催するなど充実した制作活動を行なっていましたが、48歳から2度の脳血栓を患って以降、右半身付随となってしまいます。

利き手が使えなくなった藤田は、画家の道を断念して、作品の大半を処分してしまいます。

しかしその3年後、やはりもう一度描きたい…との思いで、懸命なリハビリを経て左手に絵筆を持ちかえ、50代より画家として再起します。

初期の作品は、シュルレアリスムに影響を受けているような、抽象画を思わせる作品ですが、後期は一転して牧歌的な作品を描くようになりました。

66歳のときに曽我綾子『夢に殉ず』上下巻の表紙絵に採用されます。


ーーー地道に画家としての活動を積み上げていた藤田ですが、中年期の病気によって画家としての転機がおとずれています。利き手ではない左手で思う絵が描けるようになるまでどのくらいの努力と苦労を重ねたのかは想像もつきません。


2人の共通点

東京ステーションギャラリーの学芸員さん曰く、アンドレ・ボーシャンと藤田龍児…活躍した時代も国も異なっていますが、共に中年期に体験した苦境が画家として人生の転機となっていると言う共通点があり、絵の雰囲気も牧歌的で楽園のよう、、、まるで響き合っているように感じて、この企画展は開催されたのだそうです。


2階展示室は藤田龍児の作品


細かい線はニードルによるスクラッチで表現されています。また、下地に黒を塗った上に描いているので、どこか暗いような独特な色になっているのだそうです。



細かいところまで見てみると笑顔になるようなモチーフも。心が和みます。

1階展示室はアンドレ・ボーシャンの作品


苗木職人であったボーシャンのモチーフは植物が多いそう。色鮮やかな花は春の暖かな陽気みたいに心が浮き立ちました。



人物の絵は、歴史的に需要な場面や人であっても忖度することなく、素朴で長閑な雰囲気になっているのが特徴なのだそうです。



最後にアンドレ・ボーシャンと藤田龍児の作品を比べて見ることができます。

2人の歩んできた人生の一部を知って思いを想像しながら鑑賞してみると、心に染み入るような、より感じるものがありました。そして、いつからでも、どんな状況からも、何だって始められる!とポジティブな気持ちにさせてもらいました。


アンドレ・ボーシャン+藤田龍児「牧歌礼賛/楽園憧憬」展は7/10まで。

終了日までに、また観に行きたいと思います。


※写真は許可を取って撮影させていただきました。




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