日本美術の「水」の様相さまざま 涼を感じる素敵な展覧会へ
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- by morinousagisan

夏が大の苦手です。同じ関西に住んでいても盆地の京都の夏は、殊の外暑さが厳しい。展覧会タイトル「水の情景、涼へのいざない」から水面を渡る涼やかな風を感じて伺ってきました。
細見コレクションを中心として5構成です。水が持つ意味も考えながら「水」を画題や意匠とした絵画や工芸だけでなく、絵画技法や水のイメージから繋がる素材にも目を向けた展示となっています。
友の会向けの学芸員さんのギャラリートークが開催されました。構成にそって作品をピックアップしながら展示をご紹介したいと思います。
水の景色 山水画と名所
変幻自在の「水」の景色は、海、川、湖、滝、雨、雪、果ては大気をも含み、季節や時刻、気象をも表現した情景(人の心に何かを感じさせるような、具体的な場面や風景のこと)です。
《楼閣山水図》元信印 紙本墨画 1幅 室町時代 細見美術館蔵
水が見当たりません。楼閣から外を眺める人物は、その視線の先に断崖から流れ落ちる滝を眺めているらしく、水墨画の「観瀑図」と考えられます。狩野派には、勢いよく落ちる滝を描いた作品も多く、本作ももともとはもっと大きな画面で左手に滝が描かれていたかもとの説明でした。
《瀟湘八景図》秀盛 紙本墨画 8幅 室町時代 細見美術館蔵
お馴染みの瀟湘八景図です。8幅の表装は違っていて、8幅全部を一緒に掛けることはなく、季節に合わせて、あるいは茶掛けとして飾られたのではないかと説明されていました。「平沙落雁」にご注目ください!雁は並んで飛んでいくイメージなのですが、本作の雁は飛ばずに汀に描かれています。(参考「瀟湘八景図」⇒◆)
第一展示室左手に展示されているのは、江戸時代とそれ以降の作品です。
《富士望見図》青木木米 紙本墨画淡彩 1幅 文政7年(1824)細見美術館蔵
陶工で知られた木米が描いた富士を望む作品です。ひょいひょいと柔らかな筆の運びの文人画風の作品で味わい深いです。左上に書かれた年紀から、文政7年の中秋(8月)に宇治の料亭で描かれたことがわかり、席画だったかもしれませんね。
名所を描いた作品では、池田孤邨作《華厳滝図》勢いよく落ちる水の表現にも目を凝らしたのですが、
《雪中江之島富士図》森寛斎 絹本著色 1幅 明治時代 個人蔵
富士と旭日が描かれたお目出たいお軸です。江之島の洞窟には伝説が伝わり神聖な場の意味も持つようです。墨の濃淡で表現した洞窟の表現に奥の奥まで目が導かれました。
水に集う 生きものたちの楽園
水は多くの生き物を育みます。水辺の花とそこに集う鳥を描いたのが花鳥画でしょう。第一展示室の最後の水墨の花鳥画
《雪中花鳥図屛風》伝 狩野元信 紙本墨画 6曲1隻 室町時代 細見美術館蔵
モノクロで描かれたいかにも狩野派な花鳥図屏風は、次の展示室の最初の作品に繋がります。
《雪中花鳥図屛風》紙本金地著色 2曲1双 江戸前期 細見美術館蔵
季節は冬ですが生命力が溢れ、こちらは目の覚めるような濃彩です。
《秋冬花鳥図屛風》大西圭斎 紙本著色 6曲1隻 文政6年(1823) 細見美術館蔵
真ん中あたりにドーンと鶏が描かれて、細見美さんで鶏となるとついつい若冲(1716-1800)を思い浮かべてしまうのですが、大西圭斎(1773-1829)は江戸で活躍したとあります。鮮やかな羽をした雄鶏は池の中を覗きこみ、池にもその鶏の姿が映っています。うーん、ナルキッソスが思い浮かびました。
鯉を描いた日本画はとても多い。滝を上る鯉は「登竜門」立身出世の吉祥画です。
《鯉に燕子花図》酒井抱祝 絹本著色 1幅 昭和9年(1934) 細見美術館蔵
江戸琳派の継承者である抱祝のこのお軸は端午のお祝い用です。燕子花は描表装の一部ともなっています。
水を操る 琳派のたらし込み
水を使った絵画技法、水のにじみを生かす「たらし込み」に注目します。
宗達の《双犬図》目を凝らして白黒の犬の絡み合いを見る。「たらし込み」大好き、水がドボドボな芳中さん、太い輪郭線には墨の粒子が端にはじかれて残っているのが見えるそうです。
水と生きる 暮らしと想い
水と共生して暮らす、日本、東洋では自然と対峙するのではなく自然の懐に抱かれて生きてきました。本展では、鈴木其一作品が多く展示されていますが、私の推し作品は宝船のような
《初荷入船図》鈴木其一 絹本著色 1幅 江戸後期 細見美術館蔵
初商いの荷を満載した初荷船が正月二日の早朝に江戸に入港するところだそうです。豪商からの注文作品で、商売繁盛や航行の安全祈願も込められ、新年の床を飾ったことでしょう。緻密で繊細な描き込みが其一らしい。其一(1796-1858)と広重(1797-1858)は、同じ時代を過ごし、二人には同時代性もあるとお聞きしました。
物語に現れる水の情景もよく描かれるテーマです。
《俊寛図》岩佐又兵衛 紙本著色 1幅 江戸前期 細見美術館蔵
島流しに遭った俊寛を一人残してお供の者は島を離れていく劇的な場面です。俊寛は慟哭しているらしいのですが、その表情が単眼鏡でも判別できなかったのが心残りです。
水の意匠 清らかに、涼やかに
水の流れを意匠に取り入れたり、本来透明な水から素材を透明性のあるものとしたり、水の持つ涼やかや清らかなイメージを造形で表現する工芸作品などを紹介しています。
《柳に燕雀水葵沢瀉文様縫箔》絹 1領 江戸中期 細見美術館蔵
第二展示室の最後の展示は夏向きの能装束です。裾には水辺に生える水葵や沢瀉を肩と袖には初夏に軽やかに飛ぶ燕や雀が刺繍されて動きも生き生きと表現されています。
《住之江蒔絵色紙箱》神坂雪佳 図案、木村秀雄 作 木製漆塗 1合 大正時代 細見美術館蔵
デザインは確かに雪佳の『百々世草』にもありそうなのですが、ヒョロヒョロの松と小さな白い鳥だけで「住之江」の意匠となり、当時の人も「住之江」と暗黙の了解だったことに驚きます。
澤乃井櫛かんざしコレクションから蜻蛉意匠や金魚の造形の水晶の簪がなんとも涼しげで粋!作品名には洋髪用とあってへぇ~素敵!
《水辺景図行燈》望月玉渓 絹本著色 1基 大正~昭和初期 個人蔵
余白の美、日本ならではの意匠でしょう。
本展の〆作品は
《宇治橋図団扇》尾形光琳 1幅 江戸中期 細見美術館蔵
彼岸と此岸を隔てるのも水、それを繋ぐ宇治橋。橋の下を流れる宇治川には光琳の渦文様。団扇という小さな画面に金、銀、群青などで簡潔に表現された世界観です。
ご紹介できなかった作品にも涼やかで素敵な作品がまだまだたくさんあります。丁寧なキャプション解説がついています。暑い暑い京都の夏、涼やかな作品としばし時を過ごしてみてはいかがでしょう。

屋外スペースに展示されている本作は、2002年に細見美術館で開催された現代アートの展覧会に出品された作品の1点で、永久展示作品です。琵琶湖疏水の古地図を写真に撮り拡大してエイジング加工した作品です。絵図では疏水部分を鉄で表現しています。細見美術館の前も流れる琵琶湖疏水の24の関連施設が2025年に重要文化財として指定され、そのうち5件は近代土木構造物としては初めて国宝に指定されました。これを機に本作が修理されてのお披露目となっております。疏水の船溜まりの水中で録音された水音が響くサウンドインスタレーションです。お見逃しなく!

【開催概要】
- 会期:2026年6月13日(土)~2026年8月2日(日)
- 会場:細見美術館
- 時間:午前10時~午後5時
- 休館日:毎週月曜日(祝日の場合、翌火曜日)
- 入館料:一般 1,800円、学生 1,300円学生
※学生(中学生〜大学生)の方は学生証を要提示/※障がい者の方は、障がい者手帳などの提示で100円引
☆お楽しみJAKUCHU CAFÉ ⇒◆
7月の京都といえば「祇園祭」です。「一保堂」さんのお抹茶と祇園祭にちなんだお菓子が楽しめます。前祭宵山(7/14)に立礼茶席も催されます。

おまけ:細見美さんを後にして近くのギャラリーへも寄ってきました。京都のアート事情を知る手立てとして私は「京都で遊ぼうART」さんを利用しています。WEBだけでなく最近は"X"に次々とギャラリー情報が流れてきます。
「フィレンツェ5人展 IL SOGNO INFINITOー終わりなき夢ー」@ギャラリー恵風(6/14までで終了しています)
まだYBA@京都市京セラ美には出かけていませんが、先行で
「British Contemporary:Michael Craig-Martin/Damien Hirst/Julian Opie」Vol.1@imura art gallery