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「人間精神と物質とが対立したまま、握手している」 GUTAIを「分化」と「統合」からアプローチする

元永定正《作品(水)》 1956/2022 年 本展のための再制作 1956 年の野外具体美術展で発表された本作。吉原治良からは「水の彫刻」と称賛を受けまし た。本展のために再制作された、色とりどりの水がパッサージュを彩ります。

※掲載写真は、主催者の許可を得て撮影したものです。

「具体美術協会」(以下「具体」)は、吉原治良(1905-1972)を中核として兵庫県芦屋で結成された美術家集団で、2022年は「具体」が解散して50年に当たります。本展は、具体の活動拠点となった「グタイピナコテカ」が建設された大阪中之島の地で、隣り合う2館が同時開催する大規模「具体」展です。

阪神間に住んでいると「具体」の作品を目にする機会はとても多い。兵庫県美や芦屋市美博はもとより、京都国近美や和歌山県美でも。今年になってからでも兵庫県美のコレクション展では「生誕100年 元永定正展-伊賀上野から神戸、そしてニューヨークへ-」を、 現在は「没後50年 吉原治良の小宇宙(ミクロコスモス)」を開催中です。

  1. 2022年2月「Hello! Super Collection 超コレクション展 ―99のものがたり―」@大阪中之島美 中之島美オープニングの展覧会、第5節の展示室は黒い壁面で、そこに吉原治良の作品が並び、続く展示室には「具体」の元にアンフォルメルのミッシェル・タピエを連れてきた今井俊満の作品が展示されていました。大阪中之島美術館は、吉原治良の作品を800点も所蔵しており、今井からも120余点の寄贈を受け、具体関係の膨大なアーカイブ資料の所蔵も含め本展の開催をこの時から楽しみにしていました。「具体の活動と精神を顕彰し、かつて(吉原が所有する土蔵を改築して開設した私設展示室)『グタイピナコテカ』に黒い壁があったことにちなみ、黒い壁のエリアを設けた」(図録解説P308引用)黒い展示室の以所を知った!
  2. 2021年12月「開館30周年記念 特別展「限らない世界/村上三郎」」@芦屋市立美博 で、村上の紙破りの術を知り、これに世界は喝采したのかと吃驚した。
  3. 2020年12月「開館50周年 今こそGUTAI県美の具体コレクション」@兵庫県美 女性作家の作品が多く展示されていたことが興味深かった。
  4. 2019年8月「集めた!日本の前衛―山村徳太郎の眼 山村コレクション―」@兵庫県美 京都でのICOMの開催に合わせた展覧会で、戦後の現代アートを集めた山村コレクションの凄さを思い知った感じでした。もっと注目されてもいい展覧会だったのになぁ。
  5. 2018年3月「小磯良平と吉原治良」@兵庫県美 同時代を生きた対照的な二人の画家を追う展覧会でした。

他にも、西宮市立大谷記念美術館や芦屋市美博やBBプラザでも観ていたかもしれません。

このように「具体」の作品は、繰り返し私たちの目の前に現れる身近な存在でもあるのですが・・・。


左から: 田中敦子《作品》1961年合成樹脂エナメル塗料,カンヴァス175.0×388.0 cm 大阪中之島美術館蔵/ 吉原通雄《作品》1965年油彩,布183 183.0×183.2 cm/.5×183.2 cm芦屋市立美術博物館 /吉原通雄《作品》1965/2022年紙テープ 可変 本展のための再制作

「具体」で必ず目にする言葉が、「誰の真似もするな。今までになかったものを作れ」という吉原の言葉です。個々の作家の「独創性?」「オリジナリティ?」そんな言葉を手がかりに「分化」@大阪中之島美術館の展示は展開します。

第1章 空間

展示室入った瞬間から天井か雪崩落ちる色鮮やかな紙テープが目に入り、ここで既にその大きさに圧倒されるのです。この大きさが狙いなのか。


田中敦子《電気服》1956/86 年管球・電球・合成樹脂エナメル塗料・コード・制御盤165.0×80.0×80.0 cm高松市美術館 /田中敦子《無題(1)》~《無題(10)》1956 年クレヨン,紙 110.0×77.0 cm大阪中之島美術館

2016年国際美で開催された森村泰昌の展覧会で《動く《電気服》(田中敦子のために)》は衝撃的だった。その本物が観たいと願っていました。田中敦子《電気服》30分に30秒しか電気がつかないので、お見逃しなく!


左から :坪内晃幸《作品 No.1》1971年インク・合成樹脂エナメル,布194.0×130.4 cm芦屋市立美術博物館/ 松谷武判《繁殖 65-24》1965年ビニール接着剤によるレリーフ・油彩・ アクリル,カンヴァス・合板183.3×137.4 cm国立国際美術館/ 松谷武判《作品 66-2》1966 年ビニール接着剤,合板・麻布162.0×129.9 cm 宮城県美術館

第2章 物質

1956年『藝術新潮』12月号に吉原治良の「具体美術宣言」が掲載される。「具体」の「物質主義」が前面に押し出されたもので、「具体」という名称も「人間の内面を物質によって具体的に提示する」という思想に由来すると高らかに宣言していた。


手前から: 村上三郎《空気》1956/94 年ガラス,セロハンテープ21.0×21.0×21.0 cm 個人蔵 /田中敦子《作品(黄色い布)》1955年綿布,接着剤100.0×208.0、100.0×202.0、100.0×377.0 cm

第3章 コンセプト

村上の《空気》を見た時「これってまるでデュシャンの『パリの空気50cc』だわ」と思ったのは私だけでしょうか。「具体」のあらゆる作品は吉原によって選別(事実上の審査)されて来たそうです。その事実上の審査の際に吉原は、断固として説明を拒否しました。その姿勢が、GUTAIの作品タイトルのほとんどが《作品》、《無題》あるいは《UNTITTLED》となり、タイトルでさえ、作品の説明となりうるものは徹底的に排除の対象になりました。しかし、「ことばで説明しない」ということは「コンセプトがない」ということではないのです。

向井修二は1966年「ジャズ喫茶 チェック」で、無意味な記号で全面を塗りつくしました。本展では5F男女トイレに向井修二《記号化されたトイレ》2022年 本展のためのインスタレーション を作成し、「向井にとって記号化は『価値の上塗り』」記号で浸食されたトイレへGO!「記号化」は対象を選ばないようで、ターゲットとなったのは菅谷富夫館長です。全身が記号で覆いつくされた5体のアバターが皆さんを館内あちこちでお出迎え。(ちょっとご本人よりカッコヨク見えたような(゜-゜)。


第4章 場所

「具体」は、いわゆる「」ホワイトキューブ」でない、公園、ホール、デパートの屋上など作品に大いに干渉をする特殊な場所でも展示を行ってきました。

<インターナショナル スカイ フェスティバル> とは、1960 年に「具体」が大阪なんば 髙島屋の屋上で実施した展覧会です。具体の会員や海外の作家による下絵を拡大して描き、アドバルーンに吊って空中に展示しました。2022 年 11 月 15 日(火)– 20 日(日) 10:00 – 17:00大阪中之島美の屋上より、7球のアドバルーンが掲揚される予定です。大空での展覧会を体感しよう!*荒天の場合は日程が変更と なります。その場合は大阪中之島美術館公式ホームページでお知らせいたします。


国際美へ移動して「統合」とは、「分化」というミクロの視点から見てきた「具体」を「マクロ」的視点から考えてみようというのが国際美での展開のようです。必ずしも一枚岩にまとまっていない集団の歩みを「統合」的に描きだす。ちょっと手強い。

吉原治良は、ええしのボン、長兄が早世したために家業をやむなく継ぐことになりました。美術の専門的な教育は受けておらず、関西学院に在学中に当時芦屋に居住んでいた洋画家上山二郎と出会います。その上山を通じて藤田嗣二を紹介され個展出品作を藤田に見せたところ、「他人の影響がありすぎる」と指摘されました。その藤田の言葉が吉原の生涯を貫く原点となったのです。


白髪一雄《赤い丸太》1955/85年ペンキ,木10点組、各403.0×φ6 cm 兵庫県立美術館(山村コレクション)/ 白髪一雄《天雄星 豹子頭》1959年油彩,カンヴァス182.0×272.5 cm国立国際美術館

1.   握手の仕方

「いかに絵画らしい描きから自由になるかが問題」そこで、絵具ではない非絵画的な素材を画面に混入する、あるいは、絵筆を手放し、巧く描けない状況を敢えて作り出す。


左から: 山崎つる子《赤》1956/85年木,ビニール270.0×360.0×360.0 cm兵庫県立美術館(山村コレクション)/ 元永定正 《Nobi Nobi》971年アクリル,カンヴァス・板184.0×517.0 cm国立国際美術館

2.空っぽの中身

「具体」は何も伝えない。何かはっきりしたメッセージを伝えるための媒体ではありえなかった。吉原が「円」を描いたのは、「・・・便利だからである。・・・いくら大きなスペースでも円一つでかたがつくというのは有難いことでもある。一枚一枚のカンバスに何を描くかという煩わしさから解放されることでもある。」そうだったの?「禅」とか全然関係なかったのか((+_+))

一方では、「空っぽ」の中にこそあらゆる可能性がある。


左から:山崎つる子《作品》1957/2001年ブリキ・木・照明145.0×185.0×41.0 cm芦屋市立美術博物館/ ヨシダミノル《JUST CURVE '67 Cosmoplastic》1967年ステンレス・プラスティック・蛍光灯・センサーほか270.0×150.0×175.0 cm高松市美術館

3.絵画とは限らない

画家たちの集団で始まった「具体」は、「絵画」から自由になろうとして拡張し、1965年以降は「環境」という概念と結びつきながら展開していきます。「オリジナリティ」を追究した「具体」のメンバーたちは、各人各様の試行錯誤で対応してきたが、最後まで画面にとどまり続けた吉原治良との間にズレも生じるようになりました。それでも吉原が中核に居ることで辛うじて「統合」なりえていたものが、吉原の死を以て解散することになったのも当然の帰結だったのではないでしょうか。「具体」は作るとは何なのか、根本から問い続けました。

 

1950年代半ばから、東京オリンピック、1970年の大阪万博に向けての右肩上がりの時代を背景に、新素材もドンド世に出て、それを使ってこれまでにないものを作ってみる。取り敢えず大きなものを、目立つ色を、アクション、パフォーマンス、インスタレーション、何でもありでイケイケドンドンな印象を私個人的には持ちました。大阪中之島美術館では、現在も活躍されている「具体」の元メンバーへのインタビュー映像も上映されているので、生の声もお聞きになってください。とても興味深いはず。本展では、「具体」の中でもその代表作が集結しています。2館回ってこその展覧会となっていると思います。現代アートはどうもなぁな方には、ギャラリートークがお薦めです。4つのキイワードで辿る「分化」は何となくわかるけれど、「統合」って?の方は特に是非!福元研究員のギャラリートークがお薦めです。私もかつて「ボイス+パレルモ」展の時に彼の解説会で大いに救われました。国際美の夜間割引ならチケットを別々に購入して100円お得!高校生以下・18歳未満は無料なので、是非是非お子さんや若い方に楽しんでほしい。作品に意味はなく、分かろうとする必要なんてない。彼らは「具体」をどううけとめるのでしょう興味深い


【関連イベント】会期中多彩な関連イベントが開催されるのも注目です!

大阪中之島美術館 会期中の関連イベント

<担当学芸員 國井 綾(大阪中之島美術館 主任学芸員)によるギャラリートーク>

  •  開催日時: 11 月 5 日(土)/ 12 月 17 日(土) 13:30 – 14:30
  •  会場:大阪中之島美術館 5 階展示室
  • 参加無料(要事前申込、要観覧券)、先着 30 名(聴講用ワイヤレス受信機を貸し出します)

 <講演会「吉原治良の好奇心」>

  •  開催日時:11 月 19 日(土) 14:00 – 15:30
  •  登壇者:向井 修二(美術家・元「具体美術協会」会員)
  •  会場:大阪中之島美術館 1 階ホール

 

国立国際美術館 会期中の関連イベント

<国立国際美術館 福元崇志主任研究員によるギャラリートーク>

  • 開催日時:11 月 5 日(土)15:00 – 16:00/ 11 月 20 日(日)14:00 – 15:00/ 12 月 17 日(土)15:00– 16:00
  • 会場:国立国際美術館 B2 階展示室
  • 参加無料(要観覧券)先着 30 名(聴講用ワイヤレス受信機を貸し出します)

 <講演会「具体の時代:草創期の”新人たち”をめぐって」>

  • 開催日時:11 月 27 日(日) 14:00 –
  • 講師:光田 由里(多摩美術大学芸術学科 教授)
  • 会場:国立国際美術館 B1 階講堂
  • 参加無料、先着 100 名(整理券配布)

<アーティストトーク>

  • 開催日時:12 月 10 日(土) 14:00 –
  • 講師:今井 祝雄(出品作家)(聞き手:福元 崇志 国立国際美術館 主任研究員)
  • 会場:国立国際美術館 B1 階講堂
  • 参加無料、先着 100 名(整理券配布)

 

国立国際美術館×大阪中之島美術館

「GUTAIをめぐるナイトミュージアム トーク&プレ・ツアー」

両館の担当学芸員が展覧会のみどころや、共同企画に至る道のりなどを語ります。

日時:11 月 4 日(金)18:30 – 20:00

定員: トーク 50 名/プレ・ツアー 20 名(いずれも先着順・要事前申込)

*詳細は ⇒https://nakanoshimalab.jp/program/program-753/ 


【開催概要】大阪中之島美術館 国立国際美術館 共同企画 すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合

  • 会期:2022 年 10 月 22 日(土) – 2023 年 1 月 9 日(月・祝)
  • 開場時間:10:00 – 17:00 *国立国際美術館は金曜・土曜 20:00 まで(入場は閉場の 30 分前まで)
  • 休館日:月曜日(ただし、1 月 9 日[月・祝]は両館開館/1 月 2 日[月・休]は大阪中之島美術館のみ開館)

*大阪中之島美術館は 12 月 31 日[土]、1 月 1 日[日・祝] 休館

*国立国際美術館は 12 月 28 日[水] - 1 月 3 日[火]休館

  • 会場:大阪中之島美術館 5 階展示室 、国立国際美術館 地下 2 階展示室
  • 観覧料:2館共通券なら2,500円 ※各館ごとに観覧料金は違っています!

高校生以下・18 歳未満無料(要証明)国際美のみ夜間割引料金(対象時間:金曜・土曜の17:00~20:00)

【各館公式ホームページ】

【問い合わせ】

  • 大阪中之島美術館の展示について:06-4301-7285(大阪市総合コールセンター)
  •  国立国際美術館の展示について:06-6447-4680(代)

 【参考】

  • 図録「すべて未知の世界へ ー GUTAI 分化と統合」2022年10月
  • 図録「Hello! Super Collection 超コレクション展 ―99のものがたり―」2022年2月
  • 図録「小磯良平と吉原治良」2018年3月 兵庫県立美術館

プロフィール

morinousagisan
阪神間在住。京都奈良辺りまで平日に出かけています。美術はまるで素人ですが、美術館へ出かけるのが大好きです。出かけた展覧会を出来るだけレポートしたいと思っております。
かつて関西のアートサイトに読者レポートとしてアートブログを掲載して頂いていたご縁で、展覧会担当の広報会社さんから私個人に内覧会や記者発表のご案内を頂戴し、「アートアジェンダアートブログへ投稿」という形を広報会社さんに了解頂いて、アートブログを投稿しています。アートブログは全くの素人の個人としての活動です。
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